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おじさんの言うことにゃ

「我が主が大変失礼いたしました。」

目の前で立派な服を着たおじいさんが、深々と頭を下げる。


何この状況。

一般市民の私には非常に居心地が悪い。

加えて、透けている王様(仮)は、相も変わらずイトの方を舐めまわすように見ているし。


言葉を口の中で探す間、おじいさんは静かに私たちを見ている。

その間、復活した王様はイトを怖がらせ続けているわけで・・・


話はしたい、だが現状もどうにかしたい。

考えを巡らせていると、おじいさんに動きがあった。


座り込んでいる私たちに手を差し伸べ、そっと立ち上がらせる。

そして―――


エイっとばかりに王様の頭あたりを殴ると、うっとうしかった映像が消えた。


(あるじ)って言ってなかったか?!


「これで落ち着いて話せますかな。私、ジイと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」

「イト」

ようやく解放された射兎がムスッという。

「レンです。」

「イト様にレン様。でございますね。」


こちらにどうぞと誘導するおじいさん。

おじいさんの進む先には、ぐるりと囲んでいた人影がある。

不気味だけど仕方ない。覚悟を決めて、おじいさん改めジイさんについていく。


が、進めども進めども人影が近づかない。そうして数百メートルは歩いただろうか。

目の前に現れたのは、某天空のお城にいそうなと言うか、あなたを守ってくれそうなと言うか。

ロボットだった。

それが、だだっ広い場所に円形に並んで立っているのだ。何体、いや何百体かもしれない。


「これは一体?」

先を行くジイさんの背中に問いかける。

ジイさんは一体一体をいとおしむように眺めると、こちらです、と奥にあった小屋に私たちを連れて行った。


ジイさんは中に入ると、二回手をたたいた。

パンパンと軽い音と同時にぱっと室内が明るくなる。

一瞬くらんだ眼を何度かの瞬きで立て直し、室内を見回す。


そこはとてもかわいらしい家だった。

使いやすそうなダイニングテーブルとキッチン。奥に見えるのは暖炉だろうか。

入口の右手の奥には階段があり、上にも部屋があることが予想できた。

そして、この暖かな明かりは・・・と思って天井を見てぎょっとする。


何もないのだ。天井に取り付けられたタイプのライトも、ランタンすらも。

外の暗闇をもう一度眺めてから室内を見ると、空気自体がうっすらと光っていることが分かった。


薦められるままに、椅子に座る。

「さて、少しばかり昔話にお付き合いください。」

ジイさんも向かい側に腰を下ろすと、そう口を開いた。


ジイさんいわく。


昔々、世界にはたくさんのエネルギーがありました。

風や水と言った自然のエネルギー、石油、石炭と言った化石資源、二次エネルギーとして最も普及したであろう電力。

ところがある日、東洋の小さな島国で、とても不思議なエネルギーをもつものが発見されました。

それは、電気の代わりに夜の闇を照らし、ガソリンの代わりに車を走らせ、火の代わりに部屋を暖めました。

それは固体であり、液体であり、気体でした。

人々はまるで魔法のようなそれに、魔素と名前を付けました。

魔素は、当時人類が求めていたクリーンでエコなエネルギーのように感じられました。

あらゆる企業は、魔素を動力源とした様々な物質の開発に着手しました。

はじめは小さな電池の代わりに魔素を詰めたものから。

やがて徐々に大きなものまで。

何せ、動力は空中にもあふれているのです。

空中から魔素を吸収する機関を備えた、大型のロボットが、人々の代わりに働くようになるまで、長くはかかりませんでした。

やがて人々は、一次産業と呼ばれていた、生きるために必要な事業をすべて、ロボットにゆだねるようになりました。

全世界が魔素の恩恵を享受し、人々は働かなくても飢えることなく、環境の破壊が進むこともなく、皆が幸せになれると信じていました。


―――しかし、


「しかし?」


数百年ほどたった時です。

魔素が枯れ始めたのです。


おじいさんの静かな言葉に、レンは背中に冷たいものを感じた。

エネルギーが無くなる。そんなことになったらどうなるかなんて、想像に難くない。


―――はじめは小さな村からでした。やがて国のあちこちで、魔素の揺らめきとでもいいましょうか、力に差ができ始めたのです。

先々代の王は、大層心を痛め、国民のために尽力しました。

しかし、働く事を知らぬ国民は、食料の生産すら自分たちではできません。

やがてクーデターが起きました。城には食べ物があると思っていたのでしょう。

そんなものはあるはずもないのに。

先代の王に変わった時、王は城を巨大な壁で囲いこみ、一部の家臣と魔素を十分に蓄えた多くのロボットたちと籠城することを決めました。

王は、国よりもご自分の身のことしか考えておられなかった―――


何だろう、民のことを考えないなんて、そんな主君が許されるのか。

イトは膝の上で手をぎゅっと握りしめたまま、ジイさんに先を促した。


―――やがて、先代の王が無くなると、まだ小さな子供だった王子が後を継ぎました。

国民のいない、城とロボットだけに囲まれた一人ぼっち王様の誕生です。

いずれ、この城の魔素も尽きるでしょう。

そこで、王様に許しをもらい、我々の世界の過去によく似た世界から、魔素なしで生活する知識を持った方の助けを求めることにした次第なのです。


「・・・それが、私たち?」


―――はい。

あなた方の召還には、城中のロボットのほとんどすべての持つ魔素を使いました。

勝手な言い分なのは、重々承知でございます。

どうか、主を救っていただけないでしょうか。


そう言って、深々と頭を下げるジイさん。


レンとイトはただ顔を見合わせるしかできなかった。


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