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事の起こりは

この王様という存在との関係は出会いから最悪だった。

なんでこんなことになっているかと言うと、話は数か月前にさかのぼる。


私と近くに住む幼馴染は、彼の実家である花屋の2階でレポートの作成に追われていた。

射兎は農学部の、私は工学部の、それぞれのレポートを向かい合わせで書いていた。

実家に併設された町工場で、夫の後を継いで切り盛りしている母親から、数日貫徹の仕事になるからと気心知れた有栖川家に預けられた感じだ。

もう大学生なのだから、家事もできる。一人で大丈夫と言ったのだが、私が家事をしようとすると、周りが全力でとめてくる。なぜだろう。

そんなこんなで、異性でありながら、異性を感じない幼馴染の家に、数日前からお世話になっていた。

射兎のお母さんには、このまま嫁に来てもいいのよ~なんて言われたが、自分より可愛らしく家事もできる夫を持つ予定は私にはないので、曖昧に笑ってごまかしていた。


遅い来る睡魔と闘いながら、レポートを完成させたのは深夜の2時過ぎ。

とっくにレポートを書きあげた射兎は、ソファーで読みかけの小説を片手に眠っていた。

私も寝ようと、一つ大きく伸びをした時、突然窓の外に強い青い光を感じた。


とっさに母のいる町工場が頭に浮かび、慌ててカーテンを開く。

夜空がひときわ青白く輝くと、次の瞬間いつも以上の闇を引き連れてかえってきた。

あまりの光景に茫然としていると、いつの間にか起きたらしい射兎が隣に立っていた。


「今の・・・蓮ちゃんの家のほうだよね。」

頷くのが精いっぱいの私を確認すると、いったん窓辺から離れていった。

いそいそとコートを羽織り、私のアーミージャンパーを持って窓辺に戻ってくる。

「行こう。」

差し出された手を握り、促されるままに玄関へ。

生花市場の朝は早い。

眠っている射兎の家族を起こさないよう、そっと抜け出す。

靴を履こうとするのだが、なぜだが手が震えて、うまく結べない。

射兎は、編みあげブーツの紐を手早く結ぶと、私の手を引いて立たせてくれた。


深夜の住宅街は、思った以上に静かで、走る足音と息遣いだけが響く。

交差点を渡り、角を曲がったところで目に飛び込んできたのは、数日ぶりに見る実家だった。

真っ暗だった。常夜灯が消え、明かり一つ見えない工場は、不気味な廃屋のようだった。

言葉が出ない。舌が張り付いて、口の中がカラカラで、知らずに隣に立つ射兎の手をぎゅっと握っていた。

得体のしれない不安で動けずにいると、射兎が工場の入口に近づいて行った。

キィと軽い音がして、脇の入口が開く。

手招きに応じて中をのぞく。

入口脇に設置してある、非常用の懐中電灯をつけると、光の線が走り、変わりの無い工場の内部を照らし出した。


奥の母さんの研究室の扉がうっすらと開いているのに気付いたのはその時だった。

「かあさん?」

呼びかけた声は暗闇に吸い込まれて、そのまま消えていく。

そっと射兎から離れ、そちらに向かう。薄く開いた隙間からなかをのぞき、扉に手をかけたまま足を一歩踏み入れた途端---------足元が消え、落ちる感じがした。

「射兎!」離れてしまって届かないかもしれない。それでも叫んだ声に幼馴染は気づいてくれた。

ギリギリ扉につかまっていた手を、射兎の体のわりに大きな手がつかんだ瞬間。床がもう一度光を放ち、ふわっと浮いたような感じがして、気づくと柔らかい物の上に落ちていた。


「痛い・・・・」射兎の不機嫌な声が聞こえ、閉じていた目を開く。

何もない広い空間を大きな人型のナニカが丸く囲っている。その真ん中に私と射兎がいた。

正確には射兎の上に私。

慌てて降りると、しばらくは体をあちこち動かして見ていた射兎が、私を見てヘニャッと笑った。

大丈夫?とお互いの無事を確認して、一息ついた時だった。

上空に光が瞬き、超デカイ顔が現れ、こちらを見下ろすと、こう言い放った。


「ようこそ、原始人よ。」と


はぁ?!








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