一日の始まり
とりあえず、バケツにたっぷりと水を汲み上げ、台所にある水瓶に運ぶ。
城の中は上下水道完備のはずなのに、解せぬ!と怨みごとを溢しつつ、歩く事3往復。
肩で息をしつつ、食卓の椅子に座り込んだ私に、すっと差し出されるコーヒー。
いいなぁ。理想的な嫁だよ。
男だけど。
幼馴染に感謝しつつ、今日の予定を確認するため、壁に手をかざす。
そこにあるのは手のひらの静脈認証を完備した、情報端末。
こちらが意識して手をかざさない限りは、壁と見分けが着かないくらいの光学迷彩も備えている。
いつのまにか、自分用のマグカップを持った幼馴染・射兎が横に立ち、一緒に端末を覗いていた。
朝ごはんの準備は終わったらしい。
無駄に長い睫毛にパッチリした目。ホントに女の子じゃないのが不思議なくらいだ。
「今日は何?」
射兎はこの時間はいつも不機嫌になる。
まぁ毎日毎日、召喚と言うなの拉致をした王様からの指令を確認するのだから不機嫌になるのも仕方がないかと思っている。
「えーっとねぇ」声に出しながら、端末をに手をかざし、目の前にホログラムの画面を複数展開させる。
ひらひらと動く手を眺める目は少し楽しそうで、この時だけは、ちょっとだけ誇らしい気持ちになる。
「あ」
が、開いた画面は私達が任されてるいくつかの案件の指示がほとんど。
その中に、王様から射兎宛ての私信があった。
「開く?」
一応本人に確認すると、
「お願い」
簡潔な返事なのに、心底嫌そうな気配が漂ってくる。
中空にかざす手の動きで、一通のメールを開く。
録画に寄る音声通話。偉そうにふんぞり反っているビールっぱらとその上の禿げ頭が、また腹立たしい。
その内容は、進捗を確認したいので、夕飯を一緒にどうかと。できれば添付したドレスできて欲しいと。
偉そうな態度とは裏腹に、画面の中の手はもじもじとしていて、緊張なのか下心なのか、仕事上以外の感情があふれている。
「・・・食事のお誘いかな」
「・・・デートのつもりじゃない?」
「行きたくないなぁ。」
「逝ってらっしゃい」
こみ上げる笑いを不機嫌な顔でごまかしつつ、添付ファイルを開くとタブレットの隣の転送装置が動きだし、それはそれは可愛らしいドレスが現れた。
そこまで大げさではない、ラベンダー色のキャミソールワンピ風なドレス。
私が着るには明らかに小さいそれは、隣に立つ幼馴染にはぴったりなサイズなわけで。
木の椅子から立ち上がり、空中に固定されているそれを受け取ると、苦虫をかみつぶしたような顔をしている幼馴染に差し出す。
「よりによって、こんなヒラヒラ・・・」
文句を言いつつも一応物を確認する律義さが、可愛らしい。
そんな顔もやっぱりとてもきれいで、幼馴染の不幸を憐れみつつも、いつまで王様を誤解させておこうかと腹の底では考えてしまうのだった。