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マシナリープリンセス  作者: うかづゆすと
第一章 スカベンジャー
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第一話 営業開始

 カランカラン──

 「おうアッシュ聞いたぜ、お前も盗掘始めたんだってな」

 暗い室内よりも更に黒いのではないかと思わせる程日に焼けた肌と、日々鍛えているのだろう筋骨隆々のイカツイ男が店に入るなり、掠れているが通りのいい声でカウンターで頬杖をついてる、自分とは正反対で筋肉があるわけじゃないが弛んでいるわけでもない、年相応のガタイをした赤髪の青年に声を掛ける。

 「盗掘はやめてくれ、サルベージって呼んでくれよダンケンのダンナ」

 嫌そうな口調ではないが、アッシュはダンケンに訂正して言い返す。

 「がはは、かわりゃしねーっての。やってるこたぁ同じだ同じ」

 「それに解ってると思うけどまだ開業の許可はとってないんだ。ばれたら捕まっちまうから言いふらさないでくれよな」

 人類が地上で暮らすようになって三十年、過去の文明は全て木と砂に飲み込まれ、かつての繁栄の痕跡すら見当たらなかった。

 世界各所のシェルター周辺にいくつかの「コロニー」を形成し、それぞれが独自の文化を持ち、時にはコロニー間で助け合い、時には争い、なんとか秩序と呼べる程度の支配も始まっていた。

 アッシュの住むコロニー「クロスタウン」は各所にある遺跡よりサルベージした品々を市場へ卸すことで生計を立てている者が殆どで、それをするにはまず管理者の許可を得なければ商売をしてはいけない決まりとなっている。

 管理者の名はマルコムという男で、周辺のいくつかのコロニーに対して武力を用いた支配により、争い等は少なく、周辺コロニーの治安は安定していた。

 だからこそ、秩序を乱す行為に対しては厳しく、見せしめの為に死刑が行われることも少なくなかった。

 アッシュは人類が地上で生活を始めて最初に生まれた地上第一世代で、年は今年で二十になるが、まだ誕生日を迎えていないせいで、サルベージ業の許可を得られる二十に到達していないのだ。

 「わかってるって、言いふらしゃしないから安心しろ」

 「ところでダンナ、折角だから何か見ていくかい?堂々と店前に出せないが倉庫に良い物あるぜ」

 「おうなんだ、もう盗掘品並べてんのか。おもしれえ、先輩として俺が見てやろうじゃねえか」

 「よしきた、こっちだ、ついてきてくれ」

 “盗掘”のワードに特にツッコムことはせず手招きしてカウンター側へ来させると、アッシュは自分の足下の床扉を開くと地下へ通じるハシゴが現れそれを降りていき、ダンケンもそれに続いた。

 降りた先でダンケンは周囲を見回す。

 地下はダンケンが想像していたよりは広く、四方がそれぞれおよそ十メートルの空間で、いくつかの棚に小物が陳列していた。

 「おまえ……いつから集めてんだ?」

 小物とはいえ、相当な数が並べてある。最近のものではないのは明らかだった。

 「ん?多分二年くらい前からかなあ。親父についていって真似て色々拾ってたから」

 「イワンか……あの事故さえなけりゃなあ」

 「ダンナ、その事はもう終わった話だ、今更気にしたってどうしようもないよ」

 「そうだったな、すまねえ」

 「これからは俺の時代さ、まあ見ての通りそのへんの棚のはただのガラクタさ。見せたい物は奥のアレさ」

 そう言って指差す先には腰ほどの高さの台座があり、その上に成人男性の胴の二周りも大きく、美しい曲線を描く概観と、側面には円い穴が開いており、数多の鉄扇がその中に嵌め込まれた物体が鎮座していた。

 しかしダンケンはそれを見たことが無く、不思議そうな顔になる。

 「うーん?アッシュ、これは何だ?見たことあるような無いような……何かの機械だってのはわかるが……」

 「資料もあるんだ、これは戦闘機にも使われてるエンジンさ」

 憲兵隊の名を聞いた途端、ダンケンの顔色が明るくなる。

 「マジかよ……すげえじゃねえか、こいつぁ憲兵隊の連中に高く売りつけれるぞ」

 憲兵隊とはマルコム直属の治安部隊のことで、クロスタウンどころかその周辺コロニーでは知らぬ者が居ない程名が知れている部隊だ。

 その彼らの保有する戦力だが、戦車は勿論、戦闘機までも保有しており、周辺コロニーで唯一戦闘力を持つ実行部隊である。

 最近になって過去の発着基地だったのだろう、戦闘機が発掘されるエリアが見つかったことから始まり、マルコムの指示で全て買い占めたのだ。

 そのこともあり、戦闘機そのものは勿論、それに関連するパーツや資料類は高くで買い取ってもらえる。

 ダンケンの表情の変化はまさにそこにあったのだがそれも長くは続かず、続いて怪訝そうにアッシュに問いかける。

 「しかしよお、お前さんなんでこいつを俺に見せたんだ?自分で売り捌けばいいじゃないか」

 その言葉は既に予想してたとばかりに両手を上げて降参のポーズを見せるアッシュ。

 「そうしたいのは山々なんだが、ダンナも知ってるだろ?俺にはコイツを売りつけるツテがねえ、そこで俺はダンナにコレを譲ろうと思ってる」

 「なに……ああ、なるほどなぁ、おめえ何か企んでるだろう?」

 ダンケンは口の端を吊り上げてみせる。

 ダンケンもアッシュと同じく遺跡からのサルベージ品を売るこを生業の一つとしているが、アッシュのように一人ではない。

 それも各コロニーに支部を置き、各コロニーの部下合わせて百人は下らない程の大規模な組織の長なのだ。

 勿論正式な許可証を持っている。それだけでなく、大型運搬用の車両まで所持している。

 コロニーとマーケットとのサルベージ品の売買に関する仲介もダンケンの取りまとめで行われている。勿論正式な許可証ある者に限るが。

 「見返りは何だ」

 「コイツの売値の二割、それと──」

 「二割でいいのか!?」

 「まあ、まあ、待ってくれダンナ、続きがあるんだ」

 驚くダンケンを落ち着かせ、次の条件を提示するアッシュ。

 「売値の二割、それと裏市場とのコネクションが欲しい。付け加えてこの辺に詳しい情報屋も一人紹介してほしいんだ」

 「二割とは中々太っ腹じゃねーか、市場の方はいいが、しかし情報屋か……」

 市場には二つの顔が存在する。

 一つはマルコムが許可を出した者のみが取引できる正式なマーケットのこと。

 そしてもう一つは許可を持たぬ者達の取引場であり、ジャンク品から盗品まで扱っているいわば何でもありの闇市である。

 右手で顎髭を、擦りながら明後日の方角を向き思いふけるダンケンは暫く沈黙していた。

 「頼むよ、ダンナだけが頼りなんだ。一人くらい居るんじゃないの?」

 「居ることには居るが・・・・・・いいかアッシュ」

 ダンケンは真剣な顔でアッシュに伝える。

 「情報屋は文字通り“情報”を商品として扱ってる。それはいいな?」

 「それくらい知ってるさ」

 「で、だ、お前がその情報を買ったという“情報”や、会話の中で漏らした言葉、その場所の“情報”も奴等の商品になるってことだ」

 「俺の発言も・・・・・・そりゃあ、言われりゃ確かにそうなるな」

 「だからよアッシュ、紹介するのはいいが・・・・・・利用されるんじゃねえぞ、下手すると大損どころか命の危険にも晒されかねんからな」

 「わかった・・・・・・忘れないよ。だから頼む」

 「よし、そこまで言うなら一人紹介してやろう。それにな俺は──」

 何か罪の意識を感じたような哀愁を漂わせながら言葉を紡ぎかけてダンケンは思いとどまった。

 「いや、それにこんな上物を格安で譲ってくれるんだ、食いつかないわけにはいかんさ」

 ダンケンはそう言うとニカッと白い歯を見せながら笑ってみせた。

 「助かるぜ」

 アッシュも同じように笑ってみせた。

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