序章①
それは突然舞い降りた
山田は興奮していた──
幼い頃初めて書いた将来の夢は“おまわりさん”で、小学生くらいの頃には“飛行機のパイロット”と書いた、そして高校を卒業する頃にはある事件をキッカケに“戦闘機のパイロット”となっていた。
山田は体が丈夫な方ではなかったし、どちらかというインドアで色白で、病気がちだった。
戦闘機のパイロットという夢も、友人に言えば皆口を揃えて『お前には無理だ』と返され、信じるものは居なかった。
そんな事を言われても成れることを信じて疑わなかった彼は、筋力トレーニングにも励んだし、早朝だれよりも早く起きて日が昇らないうちにランニングもしていた。
高校卒業後の進路も大学や専門学校を選択せず、航空自衛隊を希望し、始めのうちはヒョロヒョロの体つきをバカにされることもあり、体力も人並みにしかなかったが、次第に努力が形となり、気付けば今や地球連合軍空戦闘部隊の特殊任務実行空戦部隊《特務空隊》隊長を勤めるまでになっていた。
山田は興奮していた──
毎日シミュレーションという名の任務で、再来するかどうかもわからない『敵』と対峙し、当たり前のように勝つ日々を退屈に思っていた。
トリガーを引けば当たり前のように消滅する。そんな手応えのない相手と何年戦い続けただろうか。
敵とは何か?我々の存在意義とは何か?
そう考えた事も少なくない。
そんな日々を打ち破るように現れた『敵』の再来は、登場からその日の内に世界の半分を占領した。
突如現れたその敵を人類は〝As〟─Alien species(外来種)の略─と名付けた。
最初の出現は十年前。
その当時は人類の軍事力が圧倒的に上回り、苦もなく勝利を納めた。
次の再来も予測はしていたし、〝As〟の戦力が前回以上となることも当然想定し、それに備えたが、人類の予想を上回る戦力に苦戦を強いられることとなった。
第二次地球防衛戦開幕から2年が経とうとしていた。
山田は興奮していた──
架空の敵を相手にする日々は終わり、目の前にはリアルが広がっている。
「デルタ1から各機へ、俺達の目標は〝カニ〟だけだ。取り巻きの小型兵器相手はは必要最小限に留めて他の部隊に任せておけ」
山田が──コードネーム〝カニ〟──と称したものは、前防衛戦では姿を見せなかった新型の兵器だ。
外観を一言で表すならカニで、計8本の多足で自重を支えており、その上には半球状のドームが鎮座している。
ドームを含め全長約2kmの巨大さで、おそらく敵の母艦の機能を有すのだろう、ドームの中から絶えず小型機が出現している。
『こちらデルタ4。隊長。先遣隊の報告にあった通り、カニのドーム周辺にエネルギーフィールドが展開されている模様です。〝通常の火器〟は通用しないかと』
「こちらデルタ1。〝通常の火器〟ならな。そこでやっと俺達の出番ってわけだ。ひと暴れしようじゃないか」
“起こりうる最悪の可能性”に備えていた特務空隊は文字通り普通の部隊ではない────
『こちらオメガ2。見てるか野郎共。あの特務空隊がやりやがったぞ!』
開戦後2年の沈黙から満を持して投入された彼等の駆る戦力は《As》に大打撃を与えることに成功し、人類の反撃がこれから始まろうとしていた。
『こちらデルタ3!そんな・・・・・・ドームが開いてます。予測不能!各機注意されたし!』
『何だあれは・・・・・・」
「こいつら・・・・・・!なんてものを!クソ!」
「デルタ1より各機へ。皆見えてるな!?散開して各個撃破せよ!絶対アレを使わせるな!」
そして、第二次地球防衛戦は人類の敗北によって終結した。