2-2 勇者ではなく救出者として
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「悪いが俺に期待してもらっても困る。俺は見れば分かる通り、ただの村人に過ぎない」
俺はきっぱりと断った。この話を信じるにしても信じないにしても今の俺が誰かを助けに行くなんてことは出来ない。何故なら、俺は村人の子供だからだ。冒険者ではない。
そう伝えたつもりだった。
だが、そんな俺の心を読んだかのように彼女は言った。
「確かにお主は村人だ。だが、お主は何処か違う気がするのぅ」
「村人に期待するのは止めてくれ。俺はどこぞの勇者とか英雄みたいに特別強いものも持ってないから」
これは俺の本心だった。
2年前のあの事件に全身ボロクズにされて覚えた教訓が俺では無理だと理解しているからだった。
今でも、あの日を思い出しては頭を抱えている。
老婆はそんな俺を見て、何故か笑った。
「ほう、では何故お主はこんなところでその棒切れを振っているのだ?お主はただの村人なのであろう?」
「ーー」
「お主は優しい奴じゃな…。仕方がないと口では言っても、力がないことに後悔して傷付いた誰かを思っている」
「あんた…俺の何を知っている?」
「なにも知らんよ。だが、お主のその目を見れば自然と分かろうというもの」
老婆は何処か悲しげな表情を浮かべて俺を見ていた。
何故そんな目をするんだ…。
俺はただ、リハビリでやっているだけだというのに…。
そんな俺の心情を知ってか知らずか老婆は話を切り換えるように話してきた。
「優しき人の子よ。お主にチャンスをあげよう」
「チャンスだと…?」
「そう…チャンスだ。ちょうど私がこれからする話はお主にとってその過去を変えるチャンスだと思ってくれていい」
「…やっぱり婆さんあんた俺の心読んでんじゃねえか?」
「私にそんな力はないよ。それより、本題を話すとしようではないか」
辺りの空気がピリつき始めた。
こいつは……嘘か本当かは分からないが、かなり本気な話のようだな…。
それだけ大事な話ということだろう。
俺は呼吸を整えて話を促した。
「本題とは?」
「先程も言ったと思うがある娘を助けてほしいんじゃ」
「娘…それはあんたの娘か?」
「いや、そうではない。じゃが、世界に必要な存在であるのは間違いない」
「世界に必要な存在か。一体どういうことだ?」
「それも、これから話す。…さて、お主は悪魔を知っておるか?」
「何もかもと言う訳ではないが、世間一般に流れていることくらいは知っている」
悪魔。それは邪神の手によって産み出された悪夢の生物兵器。世界にいる人、生き物を滅ぼさんがために生まれおち、日々災厄を起こしていると聞いている。奴等は普通の魔物の何倍もの強さを持ち、彼の有名なエルフと同等の豊富な魔力を持つと言われている化物で有名だ。
一説には悪魔大王などというとんでもない強さを誇る悪魔が世界にいたとかいなかったとか。
「それがどうかしたのか?」
「…それが娘をさらっていきおったんじゃよ。」
「……厄介な」
俺はさらったという言葉で理解する。
本来、悪魔は人をさらったりはしない。何故なら邪神の命に従って人を殺す方を優先するからだ。しかし、そんな悪魔にもひとつだけ例外がある。それが生け贄。
古くから悪魔は贄を欲していると聞いたことがある。
何でも悪魔の贄に選ばれた生け贄は邪神に魂を喰われてしまい、邪神に尽くした例で悪魔に力をくれるらしい。
ただ、これはいつでもというわけではなく、赤滅の満月の上がる日に特別な場所じゃないと駄目らしい。
「赤滅の満月が上がるまであと3日しかない。悪魔がどこにいるか分からない以上、厳しいぞ」
「そこは安心するんじゃ。場所は分かっておる」
「どこだ?」
「歌禁の森の奥、忌台の祭壇じゃよ」
「…キダイの祭壇?」
「そうじゃ。あそこは魔法が使えない特殊な場所でな。悪魔の魔法すらも禁ずる呪われた森じゃ。場所は私が近くまで魔法で飛ばすがゆえ、お主は森の奥まで行って娘を救ってほしい」
「……」
話は分かった。
これなら何とかいけそうな気もする。相手の魔法チートがないなら、物理戦だけに集中すればいい。悪魔相手にどこまで通用するか全く分からないのが不安だが、前の魔王城よりかはかなりましな条件だと言える。
だが……それでも不安だ。何故なら、俺にはまともな武器がない。
この婆さん忘れてないよな?
俺は今木刀しか持ってないことに。
それにだ。俺は話を聞いただけだ。やるとは言ってない。
しかも、この婆さん。まだなんか隠してる気がする。
さっきから娘を救ってくれとか言ってるが…その娘との関係どころか容姿すら答えてない。種族も年も、何も分からないのに誰を救えと言うのだろうか。
「…それであんたが救ってくれという娘ってどんな奴なんだ?」
「……それは受けてくれるなら話そう」
いよいよ胡散臭くなってきやがった。
何を考えてるのか分からんがこの話は何かとてつもなく面倒事な予感がする。