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魔王と勇者と姫と…………俺の複雑な四角関係  作者: 鋼日記
2章 不出来な運命
3/5

2-1訳のわからない話

バチン!

俺の頬を掠めるような紫電が一筋走った。大理石の床がその光で照らされ、俺は死のイメージを焼きつかされそうになった。

後ろを振り返ればきっと奴らがいる。だから、とにかく逃げなくてはならない。

息は絶え絶え、肺は痛く苦しい。だが、休む暇なんてない。

とにかく、逃げ延びないと……。それだけを胸に俺はただひたすら足を動かした。


バァン!

俺は手近にある扉を開け、中に入って隠れる。


「かはっ、はぁー…はぁ…はぁ……」

(なんだってこんなことに……)


俺は息を整えながらほんの少し前の事を思い出していた…。




俺の名前は流瀬鋼(ながせはがね)。15歳の人族の少年だ。

世界には普通に魔法が横行し、エルフにドワーフといったファンタジーのお約束の種族も当然に存在した。

俺は異世界転生者だった。

最初ここに来たときは呆然としたものだ。

いきなり見知らぬ誰かに抱き抱えられ、当たり前のように赤ちゃんみたいな羞恥の行いをさせられ、そのことに反対しようにも言葉もまるで通じなかったのだから。

今ではすっかり馴染み、日々平凡と村人の子供として暮らしていた。


……三日前までは


あれは春が訪れ、木々に緑が芽吹くような麗らかな天気の事だった。

俺は井戸に水を組み、畑に水をやると絶好の修行日和だと思って

いつもの村外れにある森の中で素振りをしていた。

この森の中で何故そんなことをするのかと言えば、簡単に言うと前世で剣道をやっていたからだ。

いやまあ、半分くらいはもしもの時戦えたらとか思ってもいる。

だけど、俺としては日課である剣道をしないのは違和感でしかなかったので、何となく素振りをしたくなるのだ。

まあ、部活の剣道は俺以外はまともに練習もしていなかったし、試合もあんまりやってなかったからあんまり腕はよくないと思っているが。

まあ、そんなわけで素振りをしていると


「世界が闇に包まれようとしておる」

「ーーっ!」


と、突然後ろから老婆の声がした。

俺はびっくりして後ろを振り返った。

そこには黒いフードを被った一人の老婆が立っていた。

俺以外の人の気配はさっきまでなかったはずだが…。

驚愕する俺を無視して老婆は歌うように話を続ける。


「龍は驕り、エルフは見下し、獣人は奴隷に落とされ、ドワーフは無関係を装い、鬼は死に絶え、魔人は孤立する。希望を託せるのはもはや頼りなき人族になるのか。仕方がないとはいえ、世界にここまで未来がないとは……哀れよのぅ」

「……一体なんの話だ」

「おや、聞いていたのかい」


そこでようやく訝しげに自分を見つめる俺に気付いたかのように老婆がこちらを見てきた。

この世界には魔王がいる。とはいっても世界征服を目論むような魔王というわけじゃない。昔はそんな魔王もいたらしいが、今は違ってうちの国と貿易なんかをしている。だから恐らくそういう話ではないのだろうが……。なんだろうか、何故か分からないがそういうことを言いそうな気配がした。


「勇者でもないただの村人よ。老い先短い老婆のお願いを聞いてはくれんかね」

「いきなりなんだ……」

「ある人族の娘を助けてほしいのだ」


唐突な老婆からの依頼に俺は戸惑いを隠せなかった。

確かに俺は勇者でもないただの村人だ。だが、それなら何故そんな言い回しをしたのだろうか?

訳が分からない。

だが、


「何故俺にそんな話をする?」


そこが分からなかった。

俺と目の前にいる老婆はお互いに初めてみる相手だ。つまりなんの関係もない赤の他人。なのに、何故助けてほしいなどと尋ねる?

老婆は静かに答えた。


「さっきも言ったが私にはもう命がないのだ。だから最後の心残りを託したいのだ…」

「……………………」

「お願いじゃよ。どうか助けてほしい。魔王の城に囚われた小さく幼い哀れな娘を。そして、あわよくばこの世界を憂いておくれ。この世界はそなたとその娘に託すしかもはや道はないのだ」

「おい、待て。ちょっと待ってくれ」


なんだそりゃ。なんでそんな話になる?

分からない。分からないが、これはかなりの厄介事だ。

しかし何故だ?何故俺にそんな話をする?

第一、まだ勇者がいるだろう?

なのに、何故チートどころか魔法も満足に使えないただの村人風情の俺にそんな大役を任せようとする?

俺は物語にいる主人公みたいな理想なんかじゃない。

だが、老婆の声は本気だった。


「悪いとは思っておるよ。しかし、こんな老婆の言葉を聞きそうな存在はもはやお主くらいしかいないと知ってしまっているのじゃ」


おい、そりゃなんだ?

知っているって……。まさか、この婆さん。予知能力か未来視でも持ってんのか?

じゃなきゃ、こんな諦めたように溜め息は吐けない。

だけど、嘘かもしれない。しかも、確かめるにもリスクが高い。

老婆の言葉は聞けそうになかった。


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