1-1不必要なピース~前編~
初心者なんで、読みにくいところあると思います。
「はあ、はあ、はあ……………」
どこいったあの野郎!
黒髪黒目のクソガキを探せぇ!
出会ったら俺の前に持ってこい!
「……………!」
バタバタ!
魔王様!魔王様ー!
なんだ?我が姫は見つかったのか?
いえ、まだです。しかし、こんなものを見つけました!
こ、これはあのクソガキの黒い髪!でかした!
「っ!?」
今すぐ黒狼を呼んでこい!
あのクソガキを最も残虐な方法で殺してやるためにもな!
はっ!
バタバタ…。
「………………………………………い、行ったか」
俺は巨大な柱の影で安堵の息を吐いた。
はーーー。…………生きた心地がしねぇ。
「大丈夫ですか?ハガネさん」
「ああ…。心配してくれて…ふう。ありがとう……はぁ」
息切れが激しくて、途切れ途切れな返事になっちまった。
しかし、一般ピープルの俺じゃ、仕方ないことだと思う。
何せ俺は今、狙われている(、、、、、、)のだ。
隣で俺のことを気遣っている13歳くらいの綺麗な青髪のツインテールの少女と一緒に。
(まさか、こんなことになるとは……………。俺もつくづく運がないよなぁ…………)
俺は冷や汗を脱ぐってこうなった経緯を振り返った。
俺の名前は流瀬鋼、ここではハガネと名乗っている。
年は18だったが、今はこの世界に来た代償かどうかは知らないが13、4歳くらいの見た目になっている。
俺はよくあるファンタジー世界の主人公みたいに冒険者に憧れたり、目指してるわけじゃない。あ、それとどこぞの勇者って訳でもないぞ。
前世の記憶を持ってはいるがな。それもよくある話にあるような日本人の記憶をな。
つってもまあ、よくある話でトラックで跳ねられて来たとかじゃなくてな。
ここに来たのは、自分の意思なんだ。
別に神様の力を借りたとかじゃない。
自分の力でここに強引に来たんだ。
おっと、今はそんなことはどうでもよかったんだった。
話を戻す。
現在俺はただの貧乏で無害な運び屋として働いていたんだが……………。
たまーに、おかしな依頼がやってくるんだよ。これが。
その依頼が、またよくある童話にありそうなテンプレな依頼でな。
『魔王城に囚われているお姫様を救い出して欲しい』
っていう、至極簡潔でどう見ても行ったら魔王と対決ルートじゃね?みたいなテンプレ依頼がやって来たんだよ。
……………まあ、色々あって、最終的にこの依頼は受けることになり、魔王城に忍び込みに行った訳なんだが…。
緊張感ぱねぇ!
スニーキングミッションとか、インポシッブル過ぎるだろ!
そこらの村人にドラゴンの巣に入って卵盗んでこいって言ってるのとかわんねーぞこれ!
まあ、魔力が希薄な体質のおかげで魔力探知とかいうアラームには掛からなかったから、罠とか視線とか臭いとか音とかに気を付ければ、ギリギリ俺でも行けたけどさぁ。
俺はあえて言うぞ。
この依頼……………どうみてもゲームだったらフリーホラーゲームさながらの命がけの脱出ミッションじゃねーか!
しかも、なんだこの無理ゲー!
「見付かったら即しゅーりょーデッドエンドです☆てへ」みたいなムカつく無茶ぶり仕様じゃねぇか!?
ゲーム難易度で言ったら、最高峰クラスの無理ゲーじゃないか!
感知されたらそれだけで人生が詰むとかどんなホラーだよ!
この世の地獄じゃねぇか!
ゲームのあらすじで言えばこんな感じだぞ。
『魔王城に忍び込んだ○○!あなたは唯一魔力探知されない戦闘力0の奇跡の村人です!臭いを気にしながら音に気を付けながら、敵に見付からないように、お姫様と一緒に無事脱出しましょう!』
「問答無用で見付かる魔力探知が大丈夫だから見付からずに行けるよ!安心して逝ってこい」って言われるだけじゃん!
理不尽すぎて笑えねぇよ!
それでも生け贄にされて行かされる俺。
あんのクソ貴族……………。今度会ったら、バナナの皮を踏ませてこけさせてやる!
うん、村人Eくらいに影の薄くてぱっとしない弱くてどこにでもいそーな俺がこんなところに行かされた理由はだな…。
「村一つに一人お姫様を救う代表を選抜する」お触れを国王が出したからだよ!
そのせいで、遠くで勉強している妹の他に家族のいない俺になぜか、そうな・ぜ・か俺が選らばれたんだよ!
ふざけんじゃねぇぞごらぁ!
しかし、貴族に逆らえば、妹にも迷惑がかかってしまう。
というわけで俺は泣く泣く魔王城に行くことになってしまった。
つーかな。この話の後で知ったことなんだがな?
ほんっとムカつく話なんだけどな。
俺が人生最大の挑戦を受けた後で、そう、童話によく出てくる勇者がやってきてだなー。
国王が依頼出しちゃったんだよ。
勇者は二つ返事でお姫様を救いに魔王城に行ったらしいんだよ。
…………………………ほんっとムカつくだろ?
勇者に頼んでいたのになんでわざわざこんなことしたんだよって話だろ?
うん、俺キレてる。この話聞いてぷっつん来たよ。
国王としては速く助けたかったんだろうけど、さ。
なんで国民を危険にさらすような真似をしたかなぁ!?
ふざけんなよ!この親バカめ!
王族なんて嫌いだ!奴隷がお姫様を助けるなんて真似許せないからって、村人を生け贄にするとかって、そりゃないよ!
聞いた話じゃ、魔王に生け贄求められてるって話じゃないか!
なんだその一応助ける策は練りましたみたいな強行策は!
アホか!いや、この国の王はバカなのか!
冒険者とかでいいじゃん!
なんでこう確率のひっくいことするかなぁ!?
愚策もいいところだよ!
でも、魔王城に行くまでは、騎士達に囲まれて脱走とか出来なかった訳で……………。
……………あー……………もう嫌だ。こんな国、出たい。
この依頼で生き残ったらこんな国すぐに出てってやる。
妹に手紙を送ったらすぐに出てってやーるー!
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で、まあ、現在。
あれからまあ、色々あって俺は、お姫様と一緒にいる。
うん、今話題のお姫様だ。
地獄か天国にいるであろうお父さんお母さん見てるか!
俺はあの無理難題、無茶無謀なクソ依頼の佳境に来ているぞ!
相変わらずいつ死ぬか全くわかんねぇけどな!(泣)
しかも、状況がさらに悪くなってるがな!
見ててくれよ、両親。
俺は何とか生きて妹に出会って見せるからな!
……………くっ、泣けてきた!
事の発端について思い出していると
突然隣にいるお姫様が俺の頬を触れてきた。
「びく!?」
「だ、大丈夫ですか?」
び、ビックリしたなぁ…。
まったく……………心臓に悪い…。
「は、はは。だ、大丈夫ですよ…」
笑え。声を震わせるな。
こんな不幸な女の子を不安にさせるな。
「こんなそこらの雑草みたいに背景と同化してるような村人Eのことなんて気にしないでくださいよ…」
「で、ですが…」
くそ…………。こんな女の子に心配させられているようじゃ、駄目なのに。
というか、この女の子は、もう1ヶ月も魔王城に囚われていたというのに。
俺の方がしっかりしてないでどうするんだ。
……………くそ!手が震えやがる!
止まれ。止まれよ!ちくしょう!
俺はまだ目の前にいる女の子の1/30しかここにいないと言うのに、俺がこんなんじゃ、ダメじゃねえか!
「だ、大丈夫だ…。このくらいどうって訳じゃない。俺なら大丈夫。そう、大丈夫なんだ。俺は路傍の石みたいに気配の薄いそこらの雑草みたいな存在なんだからあんな物語のメインみたいな奴らが気に掛けてくれるようなことなんて万が一にもないはずだ。だから大丈夫、大丈夫なんだ…」
「は、ハガネさん…?」
「不幸だ、不幸だなんて毎日のように不幸なことが起きる体質ではあったけどそれだけでこんな村人Eの存在が高まるはずがないじゃないか。大丈夫だ。物語の一部にすら乗らない。だから、生き残れる。生き残れるはずなんだ…」
「あ、あの……………」
「どこぞの勇者でもないし、どこかの英雄でも何でもない。そりゃ異世界転生者だけど、そのくらいでメインイベントに現れる登場人物達に絡まれるようなことはないはずだ。大丈夫。俺は魔王に殺されるモブの正騎士とかじゃないただの無害で貧乏な少年なんだ…」
「こ、こうな…ったら……………」
「死亡フラグなんて立たせない。絶対に何とか回避してやる。お姫様救った時点で一つ経っているかもしれないが、そのくらいなら1割くらいで…いや、半分くらいの確率で死なずにそのままコミカルなハッピーエンドで終わるはむぅ……」
な、なんだ!?敵襲か!?
うわわ!目の前が真っ暗にっ!?
「う、動かないで…」
「むぐぐぅ!?むぐー!?」
なんだ!なんだ!?何が起こっているんだ!?
顔が動かないぞ!?というか、息が出来ねぇ!
なんなんだ!
「大丈夫、大丈夫…」
「んんー!?むむー!……………む?」
な、なんか…やわらけー?しかも、暖かい?
よく分からないけど心が落ち着いてくるな…。
「よしよし…」
「……………むぅ…」
ん……………。
なんかどっと疲れが来たな…。そういや、ここのところ気が休まるときがなかったせいか最近寝てないんだったな…。
何だか急に眠くなってきたな…。
「落ち着いた?」
「…うん」
このまま寝れたら、幸せな気分のまま死ぬことが出来そうだな…。
でも、そう言うわけにもいかない。
凄く……気持ち良くて、名残惜しいけどな。
俺は身を起こして離れる。
「ありがとう。ちょっと気が楽になった」
「うん、どういたしまして」
なんかスッゲー心が軽くなったわ。
俺、結構心に余裕が無かったんだな。
しかし、お姫様が顔を赤くして笑ってる姿って、絵になるなぁ。
ふう……………。
さて、気分も良くなったし、何とか脱出するか!
テンプレ通りなら、安心したこの辺りで落としに来るんだろうけ……ど。
「……………顔、青いですけど……どうしました?」
「………………………………………ほんっと斜め上の不幸だ」
彼女の後ろには、横幅四メートル、体長六メートルの黒い頭が3つある………地獄の番犬的なあれがいた。
そう
「グルルルルル……………」
「………………………………………」
ケルベロスである。
「嘘だろおい……………」
上げて一気に落とすとか無しにして欲しいわ。
昨日1日中ホラー体験だったんたぞ!
もう少しくらい別要素あってもいいじゃないか!
神様の馬鹿野郎ー!
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1日前
魔王城の前 ~
「ここが……………彼の有名な伝説の魔王城……なのか?」
「いかにも……だな」
おいおい、ダーク○ラウドにある伝説の暗黒の城かよ……………。
○アン君がダガー持って一人で攻略するより無謀だろ……………。
今の例えが分かりにくかったら、発明家の娘が呪いで野獣に変わった王子様を助ける話にあるあの不気味な城を思い浮かべるといい。
大体あんな感じの不気味さだから。
というか、悪趣味もいいところだな…おい……。
俺の前には闇色のオーラを放つ恐怖の城というべきものが建っていた。
つーか、黒い障気みたいな不気味な雲が周りに漂ってんぞ。
本物の魔王城ってこんなにも気味の悪いところなのか。
ドゴン!バチバチィッッッッ!!!!
「ひっ!?」
「うきゃう!?」
「ひぃぃぃ!!??」
「いやだ!死にたくないよー!」
「………………………………………」
紫と黒の混じった激雷が地面を抉った。
俺はそれをみて、思わず無言になった。
「ほら、行け!この魔王城に囚われている姫様を助ける栄誉がお前らにはあるのだぞ!」
騎士ががなりたてる。
けど、俺らは恐怖でいっぱいだ。
子供どころか大人の一部も泣きちらし、我先に逃げようと森の中に逃げ込んで行った。
騎士たちはそれを阻もうとするも一部の人達が抜けて行った。
……………そんな騒ぎの中
俺は
ただ一人、魔王城の中に入っていった。
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「うおっと!」
「きゃっ!?」
ガチン!
死の牙が俺のすぐ横を通った。
俺はお姫様を抱いて横に跳んで避けたのだ。
一歩間違えたら死んでるぞおい!
俺はお姫様にいわゆるお姫様抱っこという奴をしてから逃げた。
賭けてもいい。
俺は間違いなく足を止めたら死ぬ!
でも、俺には叫ぶことすら許されない!
ドシンドシン!
(うわぁ!来てる来てる!しかも、俺より早い速度で走ってきてやがる!)
本当にホラーだな!
ファンタジーなんだからもう少しくらい夢見せろよ!
ドシンドシンドシンドシンドシンドシンッッッ!!!
走れ走れ!今はとにかく走るんだ!
「このままじゃ、追い付かれます!」
分かってるよ!
あと泣きたいのはこっちだよ。
こんちくしょう!
俺は必死で走りながら後ろをちらっと見る。
うわあああ、あ、あ、あ、ああ!!
どんどん大きくなってきてるよ!
捕まったら死ぬ捕まったら死ぬ捕まったら死ぬ捕まったら死ぬ!!
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!
頭が真っ白になりそうだ。
マジで生きた心地がしないな!
死亡フラグどんだけてんこもってんだよ!
「くそ、こうなったら……………」
「え、な、何をしてるの?」
お姫様は、俺が何をしようとするか理解したようだ。
でも、しかたないだろ!
一か八か……………こうなったら、賭けるしかないじゃないか!
俺が向かったのは近くにある直径五メートルは越える巨大な柱。
その中心に向かって全力疾走した。
あのわんころは、下でヒイコラ走ってる俺らをわざと追い回している感じがする。
でなきゃ、今すぐにでもがぶりつかれてる。
俺らはわんころより小さいため、わんころの目線が下向けになる。
俺は、そこに勝機があると踏んだ。
いい感じに油断してるし、行けるはず。
だから、とにかく走る!
上手く行くかなんて知らん!
足を止めたら喰われるのは分かってんだ!
なら、このわんころが俺らを追い回すのを飽きる前に何とかする必要がある!
勝負は一瞬だ。
その一瞬で全てが決まる。
柱が近付いてくる。
わんころは、すぐ後ろではあはあ言ってる。
お姫様は、顔を真っ青にして震えている。
俺は、ぜえはあ言いながら走ってる。
ーーここだ!
俺はぶつかる寸前に身体中にあるすべての力を使って、お姫様を横に大きく振る勢いを利用して一気に横に跳んだ。
ゴガン!!
ケルベロスが柱にぶち当たり、俺は勢いのままぶっ倒れた。
「ぐ……………」
「あたたたたた……………」
お姫様はどうやら腰を打ったらしく、涙目で腰を擦っている。
が、俺を見た瞬間目を見張ってきた。
「背中が……………」
「はあ、はぁ、はあ、はあ」
背中が、ばっくり、裂けてる、んだろ。
そのくらい、ぜえ、わかっはあ、てら……………。
息が吸えねえ。
それよりも、だ。
「い……………くぞ」
「その怪我で無理しないでください!」
んなこと言ってられるかよ!
速くしないとあいつがおきちまう!
俺はお姫様に向かって歩いた。
「速く行こう……」
「ふるふる」
俺はお姫様の手を取った。
顔青くしてる場合じゃねぇんだよ。
気持ちは痛いくらい分かるけど……。
ここじゃ、休まらねぇ。
「ここには、まだケルベロスが、いる。だから…」
「……分かりました」
お姫様が俺の肩を支えてくれた……………。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ぎゃああああああああ!!!!!
どこかで悲鳴のような声が聞こえた。
恐らく、魔王城の前にいた生け贄だろう声だ。
くそ……………、異世界なんて力なんて持ってなかったらどんな奴でもこんな残酷な未来が待ってんじゃねぇかよ……。
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぎゃぁああああ!!!!!
また一人、断末魔の声が聞こえた。
ちくしょう……。
なんでこんな目にあってんだよ…。
なんで生け贄になんかされなきゃなんねぇんだよ。
理不尽すぎんだろうが。ちくしょう。
うわああああああああ!!!!!
俺は別ルートから魔王城を攻略しているから、正規ルートを辿っている生け贄のように理不尽な無理無謀な進撃こそしてない分まだましだ。
だが、それでもまだましというだけだ。
俺は異世界から強制的にここに来た。
その反動で、俺には魔法が使えないし、理不尽な力も得ることが出来ない。
勇者によくある反則な成長能力もないし、どこぞの賢者みたいに内政チートとか出来る頭があるわけでもない。
まさに最弱の主人公という奴だろう。
だが、そんな状況でも俺にはやることがある。
村人E止まりの戦闘能力しかないが、それでも精一杯使ってどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ。
だが、見付かればそこで人生が詰む。
拷問の果てに死ぬか、生け贄にされて別の生き物に変えられるか、それとも即死させられるか……………。
どちらにしてもろくなことにはならないだろう。
「でも、やらなきゃ始まらねぇ」
だが、目的の前にお姫様を助けてこの終わらない犠牲の悪夢のサイクルを終わらせなければならない。
そうしなければ俺は目的を果たす前に身を追われてしまうだろうから。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……………ここで少し休もう」
「……………はい」
俺達はあれから歩き、人三人分が通れそうな廊下を見つけ、その途中にある中に照明以外何もない部屋に入って休憩を取っていた。
ケルベロスの一件があるため、注意を散漫にするわけではないが、それでも少しは休めることに安堵の息がつけるというものだ。
俺はその場に座り込んで息を整えることにした。
「はぁー…はぁー…はぁー、ふう……………」
どうせ休むなら大の字になって休みたい。
でも、そう言うわけにもいかないよなぁ…。
俺は、日本ではスタミナには自信がある方だ。
マラソンなんて一桁順位だったし、周りからは野生児言われてたくらいだったからな。
でも、この世界では自信がない。
何せ、その辺にいる子供にすら速度で負けるし、しかも女の子にすら力で負けるくらいだ。
ならば、スタミナが俺の方があるとは到底思えない。
それだけに努力したとしても……相手の方が成長能力が高いと分かるだけに余計にやる気が失せる。
それでも、どこぞの箱入り娘のお嬢様よりかは……………いや、深窓のお姫様よりかはまだ体力があるはずだ……………と思いたい。
俺が呼吸を整えていると、お姫様が俺の背中に手を当ててきた。
「……傷が治しきれなくてごめんなさい」
「……いや、そんなことはない。結構楽になった」
そう、俺達がここに来るまでに、回復魔法とやらをこのお姫様は掛けて俺の背中の傷を癒してくれだのだ。
しかし、俺の体質のせいかこの城の中にいるせいか……………それとも、力を使った反動のせいか、お姫様が掛けてくれた回復魔法では俺の背中の傷は完全には癒せなかった。
「……普段ならこのくらいの傷程度ならすぐに癒しきれたはずなのですが……………」
「気持ちだけでいいよ…。お姫様にそこまでしてもらう義理があるわけじゃないし」
「ですが……………」
お姫様はその深緑の瞳を潤ませて、俺の背中にあるケルベロスの爪痕を痛々しそうに見詰めていた。
俺からすればこのくらいはまだいい方だと思ってるが、お姫様はそうは思ってないらしい。
そのくらいのことは分からないでもないのだが……………。
あまり心配されると、自分が情けなくてやれない。
「………痛そうですね」
「…………………」
そう言って、俺の背中を優しく擦ってくる。
俺はなにも言わない。
どうせ何言ってもこの傷がすぐに治るわけでもないからだ。
それに何か言ったら言ったらで空気が重くなるだろうし、同情されるのもきついしな。
「…………………………」
「…………………………」
そして、お互いに無言になった。
俺は息を整えたいから話さない。
お姫様は俺の背中に夢中で何も喋らない。
だけど、俺は気まずいとは思わなかった。
なぜなら、そんな余裕はないからである。
お姫様の方は何を考えてるのかは知らないが。
しばらくそのままにしているとふと俺はお姫様に疑問が湧いた。
「……………ところで、聞きたいとがあるんだが、聞いていいか?」
「……? なんでしょうか?」
眼だけで振り返るとお姫様が小首を傾げているのが見えた。
俺がただの村人Eだったら、そこで「可愛い!」とか思って顔を赤くさせたりするのたろうが……………。
状況が状況なので、そんなことは微塵も思わなかった。
どこぞの主人公ならそこでバカやって気をまぎらわせたり、コミカルな感じに天然やったりするのだろうけど、俺にはネタに走るほどの心の余裕がなかった。
「なんで、魔王は君を捕まえたんだろうか?」
「それは……………」
そう、そこだ。
実によくある話なのだが……………。
こういう事件というのは得てして国の都合に合わせられているものだ。
そんなことを知っている俺が国が発表したような事件の内容なんて信じるわけがない。
だから、俺はお姫様にそれを聞いた。
「俺にはよく分からないな。何故あの時、魔王は君をさらったのか……………。理解が出来ない。魔王の気まぐれってだけじゃ、理由としては薄い。俺としては本当にそれ以外の可能性がないか考えたいんだ」
「……そうなんですか」
俺の話を聞いてお姫様がどう思ったのかは知らない。
けれど、聞けるなら儲けものだろう。
噂に聞く魔王がどごぞのゲスで三流のような昔の悪党みたいな性格だったら、この話は簡単なのだが……………。
そこまでテンプレで出来ているとは思えない。
だからこそ、可能性を考える。
俺の頭にあるのはラノベ知識だけじゃない。
フリーホラーゲームの知識もある。
本来、ファンタジーとホラーは被らないものだ。
何故なら、ホラー要素である理不尽がファンタジーには通用しないことがあるからである。
つまり、撃退可能というこの理不尽があるからこそ、恐怖が薄まるのだ。
そのため、ホラーにファンタジーは被らないものらしい。
だが、今の俺の状況は……完全にホラーだろう。
だとすれば……………やることは一つだ。
フリーホラーゲームのテンプレは、ファンタジーのテンプレとは全く違う。
もしも、テンプレ通りだとするならば。
ハッピーエンドを目指したいならば。
フラグを全て回収する必要がある。
探偵ものじゃないけれど
謎を全て解き明かし、真実を突き止める必要があるだろう。
テンプレ通りだとするなら、ただ脱出するだけじゃ、バッドエンドか……………最悪、デッドエンドだろう。
だからこそ、出来るだけ多くの情報とフラグを回収する必要がある。
「……協力、して欲しい」
「…………」
難しそうな顔をするお姫様。
そりゃそうか。
確かに俺はお姫様を助けに来た人だ。
しかし、俺には彼女の話はある程度聞いているから、彼女のことをそこまで構えなくてもいいが、彼女からすれば、俺のことなど全く知らないのだから、不安がるのも仕方がないだろう。
しかも、彼女は深窓のお姫様だ。
生来からの箱入り娘なのだから、他人(お手伝いさんやメイドなどを除けば)とここまで接触するのは初めてのはずだ。
それだけに怖いという感情があるのかもしれない。
しかし、そうだとすると一つ疑問が残る一件があるのだが……。
まあ、俺の勘違いだろう。絶対。
たぶん異常事態だったから、あんなことをしたのだろう。
「……だめかな?」
「いえ、駄目……というわけではないのですが……………」
駄目じゃない?
けどなんでそんな顔をする必要があるんだ?
もしかして、話せない理由があるのか?
「うーん、まあ、無理に話せとは言わないよ」
「……すみません」
「謝る必要はないと思うけど……………」
やりにくい…。
しかし、これでは彼女が話してくれない理由が分からない。
考えられる可能性として、何があるだろうか。
俺は辺りを警戒しつつ、彼女が話せない理由を考える。
「じゃあ、他の質問をしてもいいか?」
「…はい」
「実は俺以外にも人がここに来ていたことって知っているかな?」
「………………………………はい」
お姫様は暗い顔をして頷いた。
この様子だとお姫様を助けに行く依頼のことも何となく察しているな…。
「そうか……………」
「…………………はい」
声が沈んでるな。
これまでの行動、言動から優しいお姫様だということは理解している。
でも、この人は、少し……………ネガティブ思考なんだな。
「…………ごめんな。勇者とか英雄とかじゃなくてこんな弱っちい奴で」
「い、いえ、そんなことありませんよ! ハガネさんは、弱くありません!」
「……うん、ありがとう」
「っ!?」
「やっぱり君は優しいな」
「そ、そんなこと…ありませんよ」
「……君がそう謙遜しても俺はそう思わざる負えないよ。……最も、君は納得していないのかもしれないけれどね」
「………………ありがとうございます…」
お姫様はこんな俺に感謝の言葉を述べて、顔を赤くさせて笑ってくれた。
やっぱりこの子は本質的には優しい心の持ち主なんだな。
だから、俺なんかの肩(、)を持っている(、、、、、)のだろう。
でなきゃ、俺なんかと一緒にいないし、もしも、あの時お姫様があんな未来に気が付かなければ、お姫様は今頃、国に帰っていただろう。
俺はこのお姫様は俺の想像より遥かに頭が良くて、そして、優しい心根をしているのを理解している。
たぶん、この子も不器用ながら、俺と同じようなこの事件の結末を夢見て頑張っているに違いない。
だからこそ、俺はこの子のためにも頑張らなくちゃならないんだ。
「……魔王が何を考えているのか知らないけれど、今の俺達が直接会って話をするのは危険だ。だから、あいつに見付かる前にどうにかしてここから安全に脱出しよう」
「……はい。共に頑張りましょう」
頑張りましょう、か。
……君はやっぱり……………。
この世界がどれだけ残酷なのかを少し合間見ているんだね……。
まだ、13歳の子供なのに…。
「よし、そろそろ行こう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……ォォォォオン。
何処からか声が響いてくる。
その声を聞いたとき、俺の体から鳥肌がたった。
(……『魔王の咆哮』か)
『魔王の咆哮』……俗にサタンロアと言われている不気味な重低音のことだ。
その声を聞けば不幸になるだの死ぬだの噂されているのは、様式美という奴だろう。
都市伝説が本当だったためしなどほとんどないのはどこも一緒か。
ただ、今回のは違う。
恐らく今のは本物だ。
(近いな……)
お姫様がもし、そんなところにいるならそれは相当やばい。
あの咆哮には、恐らく精神を揺さぶる何かがある。
お姫様が今どんな状態なのかは知らないが……早めに助ける必要があるだろう。
しかし、俺が助けるとなると、話が変わってくる。
俺はこれ以上速く助けに行くことが出来ないのだ。
自分のペースで少しずつ進まないと……詰んでしまう。
焦ったって、俺がヤバイのは変わらない。
だから、今まで以上に気を付けて進んでいくしか、ない。
冷静に、落ち着いて、今までやって来たことを思い出しながら、ちょっとずつ。
(歩法の練習してなかったら……ここにはいないな)
俺は、不思議な力を持つことが出来ない。
だから、日本にいるときでも使える技以外は使うことが出来ないのだ。
俺が使っている歩法は主に2つ。
一つは足音を消して歩く『忍歩』。
俗にサイレントムーヴとも呼ばれるこの技は、ここでも、向こうでもお馴染みである。
この技の存在は知ってはいるが、使っている人は少ないので、教えてもらうことは出来なかった。
もう一つは、ジャンプして着地するときに音を消す『軽足』。
この技は『忍歩』じゃ間に合わない時や、奇襲を掛けるときに忍者も暗殺者もよく使う歩法だ。
この世界では魔法とか、スキルとかあるせいで、物理的に俺が覚えることが出来なかった。
そのため、考えうる修行方法を全て行い、2年を費やして完成させた。
その修行方法は、くそ地味だった。
鈴を付けて鳴らさないように歩いたり、姿勢を保つためにロープの上で歩いたり、本を頭にのせて歩いたり、時には水溜まりの上を歩いたりと色々やっていた。
……今思えば、もっと他に修行することがなかったのかと言いたくなるようなシュールな修行風景だが、足を鍛えるのは武術に置いて最も基本的なことなので問題はない。
しかし、ものすごく地味な修行だったのによく飽きずにやっていたものだと俺は思う。
意外にも、この修行は役に立つことが多かったので重宝することになっていたのだが。
(ふう……………さて、冷静に行こうか)
物影に隠れながら、そして気配を隠しながら歩いていると、扉が見えてきた。
俺は遠目でそれをよぉく見詰めて、調べる。
耳を澄ませ、違和感を確かめる。
この扉が生きているかどうかを調べるためだ。
(……………大丈夫そうだな)
調べた結果、大丈夫そうだと判断する。
ミミック・ドアではないようだ。
俺は辺りの気配を探りつつ、扉の前に立つ。
「……………」
ミミックには、二つのタイプがある。
一つは生物タイプのミミック。
こいつがある先は何もないということは知っている。
こいつを見極めるのは簡単で耳を澄ませればいい。
ごくわずかだが、心臓の音がするのだ。
もう一つは、ゴーレムタイプのミミック。
非生物タイプなので、心臓とかはない。
しかし、こいつは魔力維持のために空気中の魔力を吸い込む特徴がある。
俺には魔力なんてものは見えないが、ここは魔王城だ。
魔王城の魔力濃度は可視化するほど高い。
だから、その様子がよく分かる。
ちなみにだが、
生物がこれほどの魔力濃度に長い間晒され続けるとかなり危険な状態に犯されるそうだ。
そのため、人間のように魔力適性の低い種族ではまずこんな場所に入ることが出来ないとされている。
一部の人間や亜人は大丈夫らしいが……………どちらにしても、体の調子を崩すことに変わりはないらしい。
え?なら、まずい?
まあ、そう思うだろうけど。でも、まあ、そこは対策している。
魔力遮断の軟膏と魔力遮断のマスク&ゴーグルだ。
魔力遮断の軟膏を塗ると、魔力が外に出せなくなる上、魔力を外から吸収することが出来なくなる。つまり、一部の魔法が使えない。
マスクとゴーグルに至っては説明するまでもないだろう。
だが、塗るタイプなので汗をかいたりすると不味い。
だから、長袖長ズボン手袋などをして出来るだけ空気に接触しないようにすればいい。
ちなみにこれは自腹で払って使っている。
他の人は光の法衣という法衣を着ているのにだ。
光の法衣というのは大気にある魔力を光に変えて、魔力濃度を下げる服らしい。
ちなみに俺が法衣を着ていないのは数がなかったからと貧乏だったからだ。
今回救出するお姫様は聖女なので、魔力濃度の高いこの魔王城でも、大丈夫だそうだ。
なんで大丈夫なのかは聞いてないから知らないけど。
そこは、聖女だからという一辺倒なのでそれ以外は知らない。
何でもいいけど体に悪いものは悪いものだからさっさと助けてやらないとな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あと、もう少しなのに……………」
「……………ただの村人風情じゃここが限界か」
俺が魔王城に入って来るときに通った道には魔王がいた。
くそ、あと少しで出られるのに……………。
やはり、ホラーゲームのテンプレ通り、簡単には出られないか……。
「ここは、無理そうだ…。他を探そう」
「はい……」
本来であれば、魔王の近くにお姫様がいればすぐに気付いてしまう。
何故なら魔王には魔力探知の魔法があるから。
しかし、お姫様にはあの軟膏が塗られている。そのため、探知出来ない。
視界にさえ入らなければ、まず見付かることはない。
俺達はゆっくり魔王から離れようと……。
ニヤリ。
魔王の顔が唐突に歪んだ。
そう知覚したとき、何か寒いものが背筋を通った。
俺は逃げようとお姫様を振り返る。
すると、お姫様の背後に魔王が出現していた。
「みーつけた」
「ひっ!?!?!?!?」
「……ぁ」
お姫様は魔王のその愉悦を隠せない声を聞いて顔を青く歪ませた。
聞きたくない声を聞いて体が硬直するお姫様。
それを眺めているだけしか出来ない俺。
(動け!動けよ!ちくしょう!)
体が恐怖して全く動けない。
動悸が早まり、心臓の音がうるさいくらいになっているのを自覚した。
冷や汗が滝のように流れ、魔王に殺される想像を夢想した。
魔王はそんな俺達を嘲笑うかのように笑っていた。
このままじゃいけない。
頭では分かっていても、恐怖で塗り固められた足では動くことすら出来ない。全身を泥で埋もれさせたかのように重くて気持ち悪く、息が出来なかった。
魔王の殺気(怒り)を感じた。
動けば死ぬ。
かといって、なにもしなくても死ぬ。
詰んだことを自覚した。
ゲームオーバーの文字が血塗れで写されているのを幻視した。
「フハハハハハハハハ!!!」
魔王の高笑いがいやに耳にこびりつく。
やるなら早くしてくれ!
こんな恐怖、村人風情に耐えられるわけがないだろう!?
やがて、魔王の高笑いがピタリと止まった。
来るときが来た……らしい。
一体これからどんな残虐なことをさせられて殺されるって言うんだ。
俺はまだ、死にたくない。
「まずは、お姫様には逃げた罰を与えなくてはな」
「あ、あ、あ、ああああ!!」
顔を青くさせ、目を血走らせるお姫様。
恐怖に顔が歪んで悲鳴をあげる。
この世の絶望を感じた声が響く。
魔王は嗜虐心を感じながら、愉悦を隠さなかった。
そして、罰を言う。
「さあ、脱いで全裸になるがいい。エプレシア王国の姫よ。まずはそれからだ」
「い、いや……」
弱々しく断る心優しいお姫様。しかし、それはまずかった。
魔王はお姫様の文句を封じるようにお姫様の体をなぶった。
「がぁ……………」
「……聞こえなかったなぁ?さあ、脱げ。脱がなければ無理矢理脱がしてやろう」
「わ、かりました……」
羞恥に染まった表情で咳をしながらも、ゆっくり服を脱いでいくお姫様。俺はそんなお姫様の姿を見るのが耐えられなくて目を逸らそうとした。しかし、魔王が「目を逸らしたら殺す」と俺に聞こえるように言ってきたので目を逸らせなかった。
お姫様は青い顔とあまりの羞恥に顔を真っ赤にさせながら、色っぽく少しずつ肌を見せていった。
その姿は哀れであったが、美しかった。
目を奪われてしまいそうだった。出来るだけ彼女の顔を見て、必死に顔より下は見ないようにした。
彼女は目を赤くさせて泣いていた。
俺はそんな顔を見て、途方もない無力感に苛まれた。
しかし、魔王はそんなことを知ったことではなかった。
「遅い!何をちんたら脱いでいる!」
「きゃあ!?」
「速く脱げ!我を待たせるんじゃない!奴隷めが」
「いやあああああああああ!!!止めてええええええええ!!!!」
魔王がお姫様の目の前に来て、服をビリビリに破いてバラバラにしてしまった。お姫様のあられもない姿に俺は赤くなった。
俺は赤くなったことをすぐに後悔した。
(何をしているんだ俺は!)
罪悪感と自己嫌悪で心をバラバラに砕けそうだった。
俺は勇者じゃない。ただの村人だ。
お姫様を救うように言われてはいた。
俺は最初お姫様を救うつもりはなかった。
けど、お姫様に出会った時、俺は強く守りたいと思った。
だが、蓋を開けてみればこれはなんだ?
全然守れてないじゃないか。
俺は勇者じゃないから魔王なんて倒せない。
戦ったって瞬殺されるだけ。
俺なんて奴からすればペラペラの紙でしかない。
今まで魔王に見つからずにここまで来れただけでも奇跡的だった。
これ以上俺なんかに出来ることはない。
でも、守るって誓ったんじゃないのかよ!
あの時の恩を返そうって思わないのかよ!
わざわざ俺なんかのために危険を犯してここまで来てくれたお姫様をなんで俺は何もしてやれないんだよ!
こんのどちくしょうがっ!!!
「フハハハハハハハハ!!!
いい声だ。もっと聞かせろ。もっと絶望しろ!そして我をもっと楽しませてくれ!」
「止めてええええええええ!!!!」
「いい、いいッ!実に甘美な悲痛な叫びだッ!
最近は人形のように感情が動かなくなっていたが、こうしてまた楽しませてくれるとはいい奴隷ではないか!フッハハハハハ!」
「見ないでええええ!!!!」
クソッ!クソクソクソクソクソ!!!
クソったれがッ!!
「本当にいい顔をしてくれる。何が原因だ?
さあ、言え」
お姫様が一瞬だけ俺の顔を見た。
「ほう……。なるほどなぁ」
「!?」
魔王がその視線を捉えて俺を見て愉悦混じりの顔を見せた。
俺は今更ながらに、魔王に殺されることを自覚した。
それを見たお姫様の顔が青くなった。
「逃げてッ!!」
「!?」
魔王が俺に関心を寄せている今、逃げても無駄だろう。
しかし、お姫様のその言葉が呼び水となって魔王が俺に何かをした。
直後、俺の体がズシンと重くなった。
「がっ!?」
俺はその場に倒れ、受け身も取れずに派手な音を鳴らした。
油断していたせいもあってかことのほか大ダメージを喰らった。
これはまさか……重力魔法か……………。
「いやあああああああああ!!!」
「やっぱりか!!
なるほどこの少年が君に感情を戻してくれたんだね?
素晴らしい!」
「止めてえぇ!彼にもうなにもしないでぇ!お願いだからあぁ!!!」
く……そ……………が……………。
お姫様が泣きわめいて魔王にお願いをしてくる。
駄目だそんなことを言ってもこんなゲス魔王には逆‥効果…………だ…。
「はあ……………はあ…………………」
「すっかり虫の息だねえ……。これじゃあすぐに死んじゃいそうだね。君に感情を取り戻させたし、確かに価値はあるなぁ」
「それなら!」
「でもぉー」
お姫様が希望を見た顔が魔王のその言葉に固まった。
魔王はせせら笑った。
「君をここから出そうとしたクソ人間どもの一人だしぃ。やっぱり殺さないとねぇ?」
「や、止めて!!何でも…何でもするから!」
パンッ!!
魔王がそこでお姫様に平手打ちを喰らわせた。
「違うだろ?『卑しくて下賤な身分の私の体で最強で素晴らしく男前でイケメンで紳士で優しいご主人様の体をどうかご奉仕させてください』だろ?ほら、言え!」
この野郎!!
頭が怒りで沸きそうになる。
我を見失いそうになる。
お姫様は絶望した顔で震えながら、俺を見た。
その顔はまるで雨に濡れて震える可愛そうな捨て犬のようだった。
俺はそれを見て、心が震えた。
こんな俺になんでそこまで入れ込んでいるだ…。
あんたがその顔をしなくちゃいけない相手は俺なんかじゃないだろう!?
彼女の気持ちが嬉しくないわけじゃない。俺だって男だ。何も思わない訳じゃない。
でも、それ以上に怒りがあった。
しかし、彼女が震えながら復唱しようとした。
俺は彼女のその態度が気にくわない。なんで俺なんかのために自分を捨てようとするんだと。
俺は魔王のその性格が気に入らない。なんでお前はこんなにもゲスで嫌な奴で、最近の魔王みたいにいい奴じゃないんだと。
そして、俺はそんな二人よりもこんな俺自身が気に入らない!
目の前に助けて欲しいと願っている奴がいるのに何故お前は動かないんだ?
そしてお前は何故、弱いままでいるんだ?
何故、助けようとしない?
何故お前は、お姫様に怒りをぶつけているんだ?
彼女はお前(俺)のためにやっているんだぞ?
俺はーー
「『災いを対価に犠牲を対価にして、悲痛で残酷で救われないその運命の道を変えるための力を俺に差し出せ!』
……………『運命……背中』!!!」
ーー切り札を切った。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
物語完結速いですけど、補完もあるのでご容赦をー!