第一話 目覚め
本編スタートです!
2日に1本のペースを目指して頑張ります。
「なぁソラ。お前は何で海軍を選んだんだ?陸軍とか空軍って選択肢もあっただろう。それにお前の名前の”ソラ”ってSky(空)って意味だろ?ならシールより航空隊の方がしっくりくるんじゃないのか?」
「確かに空にちなんだ名前だし、あの青空を自由に飛んでみたいと思うよ。ただ、海に出てると一緒に居る気がして落ち着くんだ。それに折角海軍に入ったんだ自分の限界を知るためにシールズに志願したいだ。そして、めでたく特殊部隊の仲間入りさ。そんなお前はどうなんだよアレックス?」
一般的に原子力空母と呼ばれる船の甲板で水平線に沈む夕日を眺めながら相棒であるアレックス・ジョンソン一等海曹と何気ない会話をする。
階級こそ上だが歳が近い分砕けた口調になる。
「俺かぁ。俺は海の男に憧れていたし、漁師よりは軍人の方がカッコいいだろ? シールにはお前と同じく自分の力試して挑んだのさ。まぁヘル・ウィーク(地獄週間)で何度もコケそうなったけどな。それにな…」
満面な笑みを浮かべながら語って行く相棒。
根はいい奴なんだがやはり何処か馬鹿な一面もある。まるでテレビの中のヒーローに憧れている少年のようだ。
「ふっ!あははははっ!」
「おいソラテメェ!今笑う要素がなかっただろう!」
そんなアレックスを見ていたら自然とこっちも笑顔になる。噴き出すように笑えば困った顔をしながら俺の首に手を回して頭を殴ってくるアレックス。そんな状態のまま暫くすると一本の電話が入る。
『おい馬鹿共!サッサとブリーフィングルームへ来い!次の作戦の打ち合わせをするぞ!遅れたら罰を与える、分かったな!』
耳が痛くなるような怒鳴り声だ。こりゃぁ相当キテるな。
「アレックス、ビケッツ大尉殿が噴火寸前だ。遅れたらまたあの地獄の腕立てだとよ。」
「そいつはいけねぇな。あれをやった後は飯も食えないくらいに腕が痛くなるんだ。」
俺たちは笑いながらそう言う。以前に食らった罰の時は確かに飯がキツかった記憶があり、なるべくはそいつを避けたいところだ。
甲板から艦内へ戻る途中でアレックスに拳を向ける。
「次の作戦も生きて帰ろうぜ相棒!」
そして、その拳にアレックスも拳をぶつければ、
「当たり前だろ、生きて帰って可愛子ちゃんと一発ヤるまでは死んでたまるか。」
こんな時でもそんなジョークを交えるアレックスに安心感が持てた。
そうして俺たちはブリーフィングルームに向かい遅刻の罰として地獄の腕立てをする羽目になった。
その次の作戦でアレックスは命を落とした…。
喉を撃たれ血を流しながらも笑顔で死んでいった。死に際までアレックスらしさが出ていた。
そして、俺も…。
これでアレックスや親父とお袋にも…
ーーーソラ・イヌカイ…。これが彼の名前なのかしら。ーーー
誰の声だ。
聞いたこともない綺麗な声だ。
それにこの手の暖かさはなんなんだろ。とても暖かく優しい感じだ。
この声の主に逢いたい。逢って話をしてみたい。
アレックス。悪い…。今すぐにはそっちには行けない。せめて土産話を持っていくよ。
だから暫く待っていてくれ。
『おう、相棒。ゆっくりして来いよ。』
ありがとう…そして…さようなら。
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sideソラ
「…ここは…何処だ。」
重い瞼をゆっくりと開ければ見知らぬ天井が見える。ベットに寝ているところからどこかの施設だろう。
「取り敢えず現状の確認を…ツ!」
身体を起こそうと力を入れるが脇腹に激痛が走る。どうやら完全には傷が塞がっていないらしく腹に巻かれた包帯を赤く染める。
しかし、一体誰がこんな処置をしてくれたんだろ。
少なくともあの作戦地域には医療施設は無かった筈だが。
そもそもこの様な整った施設はあっただろうか。
「ここは一体どこだ?」
部屋を見渡しながらそう呟く。
まるで絵本に出て来るようなお城の部屋、大統領の部屋なんか目ではない大きさだ。
そうなるとここは城なのか?
しかしそうなると自分にはどこに来たことになるんだろうか。
コンコン!
突然扉をノックする音に身構える。
最悪な事に今は武器を持っていない。
「失礼します!起きてらっしゃいますかっておわぁ!」
そして、現れた人物は盛大に転んだ。手に持った水の入った樽をブチまけながら。
「冷た!またやってしまいましたぁ…。セバスチャンさんに怒られ、る。」
びちょびちょになって現れた小麦色の髪をした少女はそう独り言を垂れながら樽を拾い上げる。
あ、目があった。
「や、やぁ。言葉を分かるかな?」
左手を挙げながらコンタクトを取る。
相手の言葉は分かるようだからこちらの言葉も通じるだろ。取り敢えずは会話をしてこの場を収めよう。
「言葉が分かるなら教えて欲しいんだ。此処はど…。」
「ひ、姫様!セバスチャンさん!男性が目を覚ましましたぁぁ!」
少女はそう叫びながら部屋を出て行った。
俺が何かしたのか?
それよりもこの状況をどうにかしろよ。一面びちゃびちゃだぞ。
「なんだったんだ。今の…。」
目を覚まして数分の間に色々有り過ぎて頭が追いつかない。
てか、今の娘メイド服だったよな。
よし、状況整理をしよう。そうしよう。
部屋の中は妙な静けさが支配するのだった。
side out
sideミスティア
あの男性を助けてから今日で一週間です。
何とか一命を取り留めたものの未だに目が覚めません。
もしかしたらこのまま一生あのままという可能性も…。
「ミスティア様。ハーブティーをお持ちいたしました。」
「あっ、ありがとうござい。」
私が座るテーブルの前にカップに入ったハーブティーが置かれる。
いつの間にかセバスチャンが淹れてくれたのだろう。
それを一口飲むと深く息を吐く。
「ここ最近何か考え込むようになりましたね。そうやって気を張っていると疲れが溜まりますよ。」
隣でティーセットを片つけながらセバスチャンがそう言葉を掛けてくる。
「彼の事を考えていました。このまま目が覚めなければ如何致しましょうと…。」
カップを置いてセバスチャンを見ながらそう言う。
それに対しセバスチャンは笑顔を浮かべ、
「素性の知れない者の心配をするとはやはりミスティア様はお優しい方ですね。…大丈夫です。日に日に顔色も良くなっておりますし、治癒効果の高い薬も飲ませております。もう暫くすれば目が醒めるでしょう。ですから安心してください。」
「わかりました。セバスチャンの言う通り待ちましょう。」
セバスチャンの言葉を聞けば幾分か気持ちが落ち着いた。
確かに毎日一回は様子を見に行っているが日に日に顔色は良くなっているのはわかってました。だから大丈夫。
「それとセバスチャン。彼が持っていた鉄の武器の使い方はわかりましたか?」
ハーブティーを一口飲むと思い出しかのように口を開く。
騎士団の面々が興味を示していたあの武器について何かわかったのだろうか。
「いいえ、今分かっていることはあれは剣でもなければ斧や鉈でもない事。この国であの武器を作っている鍛冶屋はいないということだけです。現在行商人などに話を聞き他国の武器に似ている物がないか確かめているところです。」
「そうですか。本人が目覚めてくれれば分かるのですが…。」
やはり進展はありませんでした。
あの様な精巧な鉄細工を作れる職人など居るならばこの城で雇っているはずです。
「姫様!セバスチャンさん!」
突然部屋の扉を開けて入ってきた若いメイド。
酷く息を切らしているところを見ると余程急ぎの用なのでしょう。
「コラ!タヤ!ミスティア様の部屋に入るのにノックをしないとはどういうことですか!」
「すみませ、すみません!でも、急いで知らせないといけない事が…。」
セバスチャンが若いメイド、タヤを怒る。よく見ると服がずぶ濡れで髪も乱れている。
「大丈夫ですよタヤ。ゆっくりと話してください。」
私がそう声を掛けるとタヤは一度深く頭を下げてから言葉を続ける。
「男性が…。姫様が助けてきた男性が目を覚ましました!」
side out…
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