プロローグ〜その2〜
連続投稿になります!
これでプロローグは終わり、キャラ設定を挟んだ後に本編へと移ります。
「はぁ…。」
澄み切った青空の下、国と国を繋ぐ街道を進む一台の馬車。
100人近い騎士団の兵士に囲まれた煌びやかな馬車の中に響く重々しいため息。今日何回目のため息でしょうか。もう両手では数える事が出来なくなるくらいのため息を吐いたでしょう。
「ミスティア様。ため息ばかりでは幸せが逃げますぞ。ヘレルド国の王子様は良いお方ではありませんでしたか。あの様なお方が姫と結ばれるのはこのセバスチャン幸せに御座います。」
「確かにいい人でした。しかし、セバス。私は”恋愛”をしてみたいのです。こんな決められた出会いなんかではなく。」
私の正面座る初老の男、執事であり私の護衛でもあるセバスチャンがそう声を掛けてくる。
確かに一国の姫として産まれたからにはこの様な結婚も仕方がないとは思っていた。でも、明日で16歳になる私にとって恋とは特別な物なんです。
本の中でしか知らない、それでもそれに憧れる事は間違っているのでしようか…。
「それにヘレルド王国は最近軍備を強化していると聞いております。姫が嫁がれれば我が国としてもこれほど心強いものはありませぬ。」
やはり、結局はそれが目当てなのですね。
「私がこの縁談を断れば最悪は戦争になる。それを分かっていてお父様は私に行けと申したのですね。」
窓の外の変わらぬ景色を眺めながら言葉を漏らす。
「…ミスティア様。このセバスチャン、ミスティア様に使えて10年余り。毎日が楽しゅうございました。ですから例えミスティア様が異国に嫁がれようともこの命がある限りお側でお守りいたします。」
馬車の中で深く頭を下げている執事を見ると笑みを浮かべながら手を差し出す。
「ありがとうセバスチャン。なら私は最後まで貴方を頼ってもいいのですね。」
こうやって私についてきてくれる人が居るのならそれに答えなくてはね。
暫くセバスチャンに愚痴を聞いてもらいながら帰路についていると急に馬車が止まり、前方を歩いていた騎士達が何やら騒がしくなっている。
盗賊でも出たのでしょうか。それとも左の林から狼でも姿を見せたのか…。暫くすると1人の騎士が私達のいる馬車へと近付いて来るのが見えました。
「盗賊か?それとも獣が出たのか?何にしろこのセバスチャンがミスティア様をお守りします。」
私の脇には先ほどとは打って変わって殺気を放ち越しに刺したレイピアに手を掛けたセバスチャンがいる。大事でなければいいのだけれど。
「報告します!先頭を歩いていた若い騎士が道の端に倒れている男を発見!傷を負っている事から何らかの戦闘があったと思われ一旦周辺を調査しているところです!」
整備された街道で、しかもこんな昼間に戦闘なんて。
「その男が何処の国の者か分かるか?」
セバスが騎士に対し質問を投げかける。もしも我が国の国民だったら…。そう考えると寒気がして来た。
「いえ。見た限りでの国籍は不明。ただ…見たことのない服装に異形の武器らしき物が傍に落ちていました。」
騎士はそう言いながらその男性の物がだろう異形の武器を私達に見せた。泥と血で汚れては居るが黒く大きさも私くらいはありそうなその武器。刃が付いていないところから剣では無いのは分かるがそれ以外は何も分からない。
騎士もその武器が重たいのか次第に苦しそうな顔をする。
「倒れている男性は死んでいるのですか?それとも生きているのですか?」
武器に目を取られていたが一番大事なところが抜けているのに気付き思わず声に出して聞いてしまった。
「ミ、ミスティア第三王女殿下⁈ あ、男は辛うじて息をして居ましたがこのままでは危ないと思われます。」
「セバス。急いで手当ての準備を。騎士の皆さんは倒れている男性をこの馬車まで運んできてください。」
「「了解しました。」」
道で倒れている人を見捨てるなど王族として恥です。生きているのなら尚更のこと。私は素早くセバスチャンと騎士に指示を出せば馬車の中を軽く片付ける。
暫くして治療器具を持ったセバスチャンが馬車へと戻って来ると同時に件の男性も運ばれてきた。
斑模様の服に上半身を覆う形に切られている謎のベスト。顔を見ればこの国には珍しい黒い髪にまだ若さの残った傷だらけの顔。脇腹と右肩、左の脹脛には深い傷が残っていた。
「セバス急いで。必ず助けるのです。」
自然と男性の手を握ればセバスチャンに向けてそう言っていた。どうしてだろう、この人には死んで欲しくない。そう思ったのです。
そして、男性の胸に書いてあった文字を見ると小さく声に出す。
「ソラ・イヌカイ…。これが彼の名前なのかしら。」
これが私、リッシュハルト王国第三王女ミスティア・フォン・リッシュハルトと異世界から来た兵士、ソラ・イヌカイとの出会いでした。
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