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バスケやろうよ  作者: みなもと とおる
8/39

トラブル処理

「ちょっと。これまずいよ。」

 西山係長が会田係長に話しかけた。

「中嶋さんの先月の石井さんの支給。実は石井さんの障害が2級が3級に変更になったから障害者加算が先月から変更なんだよね。」

「すると、減額ですか。」

「そう。差額を来月分から戻入れいにゅうするしかないかな。」

(※戻入とは返金のこと。)

「それ。俺がこいつと石井さんに説明に行きます。」

 二人の会話に小森が割ってはいった。小森の表情は真剣すぎるくらいきつい表情だった。

 綾は何のことか良くわからなかった。自分がとんでもないミスをしてしまったのか。

「計算するとこの額の戻入が出ますか。」

 明香がプリンターから書類を出して西山係長と会田係長と小森に渡した。

「これね。」

 明香が綾に書類の金額の部分を指さして言った。

「これが来月分の支給額から減額されると石井さんに説明するの。」

「すみません。わたし。」

震える綾の頭の上から周が言った。

「お前のせいじゃねえ。障害者援助課のせいでもねえ。だれのせいでもねえ。」

「あの。」

「行こう。係長。いいですか。」

「お願いします。」

このやりとりはあっと言う間の出来事だった。本当にあっと言う間に小森が次の行動に事態を引っ張ったのだ。

「俺が運転する。行こう。」


「ごめんください。」

「はあい。」

「区役所の福祉事務所の小森です。」

 ドアを開けて中から初老の男の人が出てきた。綾には初対面だった。

「すみません。実は石井さんに説明したいことがあって。」

「なんですか。」

 小森は資料を示しながら、障害者加算金が減額になること、2ヶ月分の減額が来月の支給から減額になることを説明した。

石井の表情が険しくなった。

「困るよ。なんでだよ。」

「申し訳ございません。これはミスとは言い切れ無いんですが、手続きの関係で石井さんにはご迷惑を。」

「冗談じゃないよ。」

 石井の言葉は怒気をふくんでいた。

「新人の担当で、ミスしたんだろ。」

「いえ。そうではありません。」

 綾は直立不動のまま、何も出来ずにいた。怖かった。どうしたらいいのか。

「新人ですが、担当のせいではありません。お怒りはわかりますが、制度的に今回のようなことがあることはご理解ください。」

「いいよ。もう。」

「支給日の前に担当から明細を送りますので。」

「ああ。」 

 階段を降りながら、綾は悔しくて、また、周に申し訳なくて泣いた。車についても涙は止まらなかった


 

2人が生活保護課に戻ると、みんな一様に心配そうな表情で集まってきた。

 会田係長が小森の側に駆け寄るように来た。

「ありがとう。小森さん。」

「とりあえず、説明しました。」

「おつかれさん。」

 報告というより、小森を労う。こういうやりとりだった。

「記者発表にならなくてよかったなあ。」

見慣れないメガネのおじさんが言った。名札を見ると「障害援助課障害者担当係長」と表記されていた。名前は石黒。

「おねえちゃんたちにはいつもハラハラ

させられるんだよね。」

 石黒係長がへらっとそう言うと。そばにいた妙と明香の目つきが変わった。

 周が石黒の方に振り返り言った。

「おねえちゃんではありません。中嶋ワーカーです。たちだとすると他の若手女性ワーカーも同様です。」

それは、強く、そしてやさしい声だった。まっすぐな周の背中が綾の目の前にあった。

「とりあえず、よかった。」

西山係長がそう言って、その場面を切り替えた。

「綾。だいじょうぶ?」

 明香の言葉に綾は周の背中をまっすぐに見ながら

「だいじょうぶです。」

 とこたえた。


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