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バスケやろうよ  作者: みなもと とおる
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別れ

2月。京浜区生活保護課では小森 周の死を口にする職員はいないように見えた。

 周のいない今。業務の柱だった周の分を埋めようとみんながんばっていると綾は感じていた。

 特に妙と明香。いつものように明るく振る舞う二人が一番頑張っている。そんなことを考えていると明香が綾に声をかけた。

「綾。あんた頑張ってる。1年目のワーカーとは思えない。」

 妙がうなずいた。明香にそうほめられて綾は恐縮した。

 そのやりとりの中に西山係長が入ってきた。

「みんな頑張らざるをえないよな。まあ、周ちゃんも倒れるなら4月まで待ってくれてもよかったのにな。」

 はっとした綾は西山を見た。

「ゴメン。みんなそんな目でにらむなよ。冗談だよ。」

 その言葉で綾は明香と妙の顔を見た。二人とも怒りにふるえるような表情をしていた。

 綾はきっと自分もこの顔をしているんだと思った。 


 慌ただしく3月が過ぎ、年度が変わった。この月の下旬に内示と言って、異動(転勤)の発令が出た。

 三宅は観光局へ異動することがわかった。(係長はどこに異動するか3月下旬にわかる)田中も京浜区からどこかに異動するらしい。綾たち生活保護課も年度の切り替えでバタバタしていた。


 4月の中旬、職員の異動の日が来た。田中は総務局に移った。

「マスさん、うちに来るって。」

「えっ?福祉局の?」

 妙が綾に言った。

「さっきマサコからメール来た。生活保護課だって。」

「そうなんだ。」

「マスさんってバスケやる人?」

 明香が聞いた。

「そう。この間の練習で会ったよね。」

「そう。だっけ。」

 週末。異動の日。京浜区役所生活保護課は新人も含めて10人の新メンバーを迎えた。

 スーツであいさつする新人。自分も去年はスーツ着ていた。

 けど今はジーンズ姿。と綾は思った。 

「よう。よろしくね。みょうとあーや。」

「妙と書いてたえって読みます。あえてその言い回しを考えて来たでしょ。マスさん。待ってましたよ。」

「あーやはちょっと。」

「ミツバチあーや。知ってる?」

「ぜんぜん。」

 会話がおかしい。

「よろしくお願いします。嶋本です。」

「君はさやちゃん。」

あたらしい京浜区バスケが始まるのかなと綾は感じた。

 

 その週末、京浜区と福祉局のバスケ仲間が集まって歓送迎会を開いた。

 メンバーは三宅、田中、綾、妙、明香、増山、小澤、山下、宮本の9人。

 1次会の居酒屋から2次会のカラオケに移った。

「綾のカラオケ、上手いんだ。」

 妙が言った。

「歌、上手いよね。」

 明香が言葉をつないだ。

「歌います。」

 綾が歌った。


プラネタリウム


いきものがかり


満天の夜空から 

はぐれたホウキ星を

まるで僕らのようだと

君は優しく微笑った

わずかな希望の全てを

輝きに変えたくて

けなげなその光に

僕らは夢を託した


ひとりじゃないと知って

この手は強くなれた

今はもう聞こえないその声に

僕はまた うなずいて


悲しみの夜を越えて

僕らは歩き続ける

願いは 想いは

果てしない宇宙そら



夢見てしまうから

たとえひとときだけでも

きらめくことができたら

こころは ほら 今

こぼれた光に 手をのばすよ


「周さん・・・」

 綾は泣いていた。歌は泣き声にまざっていた。妙も明香も泣いていた。つられて小澤も山下も泣いていた。

 周の死を受け入れられないみんなの心が綾の歌で溢れだしていた。

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