周が来た
若葉区対中央図書館戦は18対10で若葉区が勝ち、京浜区の対戦相手は若葉区に決まった。
「周さん、まだかな?」
田中が言うと
「そろそろじゃない。」
と妙が言った。
福祉局対富士見区戦が始まった。
福祉局はエースの増山にセンターが宮本。フォワードの栗山。女子の小澤。それに噂の新人ガード大迫。山下は控えだった。
ゲームが始まった。ジャンプは宮本が永井を制した。そのボールを増山がキャッし、ゴールに走る大迫にパス。あっと言う間に2点を先取した。
次は富士見区のオフェンス。当然上川に増山がついた。上川のカットインや絶妙のボディバランスから撃たれるシュートを止めないと、福祉局でも勝てないかもしれないからだ。富士見区の上川は前回の谷戸区戦ではドリブルをキープして隙を見てカットインるか、シュートをしていた。しかし、この試合では富士見区はパスを回し始めた。
上川のワンマンチームの富士見区。しかし、結構練習しているようなパス回しだった。
上川にパスが来た。そのとき、上川のスリーポイントシュートが瞬く間に放たれた。
「あっ。」
増山がシュートブロックに行ったが、ボールがきれいな弧を描いてリングを抜た。
「やばっ」
綾が思わずつぶやいた。
上川のスリーで勝つ。オフェンスの時間24秒をいっぱいに使って変幻自在の上のシュートのチャンスを作る。福祉局は増山・宮本そして大迫と得点しても2点。山もリスクを侵して確度の低いスリーには行けない。
やはり上川を止めるのみ。永井が決めても2点。増山は大迫に指示を出し、ダブルチームで上川を止めに来た。ここまで上川のスリーが3本。福祉局は増山が4点。大迫が2点。第1ピリオド終了時には9対6で富士見区がリードしていた。
「おそるべし。カーミィ。あんなにスリーが入るかよ。」
田中が言った。
「でも、ここまでかな。福祉はカーミィにダブルチーム組んだし。」
試合はこの後、田中の予想どおりの展開になった。
福祉局のタイトなディフェンスに上川が封じられ、次第に福祉局ペースになった。
しかし、上川も一瞬の隙をついてスリーを決めた。
しかし、福祉局のリードは10点差がついていた。
「おお。かみ頑張ってるじゃん。」
聞き覚えのある声。
振り返るとそこには周が立っていた。
「周さん。遅い。」
妙が周に近寄った。
「かみも頑張ってるけど、福祉、どうなのよ。」
そんなやりとりをしていると、福祉局の大迫がシュートを決めた。
「おっ、うまいじゃん。」
「あの子が福祉の大型新人。」
普段はチノパン(ノータック)や細身のカーゴパンツに無地のボタンタウンシャツ(だいたい白)姿の小森 周。だか、今日の周は「派手?」としか言いようのない赤い花柄のウエスタンシャツ(切り替えに黒いスエードを使っている)にブーツカットのジーンズ(ディーゼル?)。だが、めちゃくちゃ似合っていた。
「今日は周さんの私服、萩原 流行?風? 」
妙が聞くと、
「知らないだろう。ブラピだ。」
と、周が答えた。
「ぶらぶらっぴー?それはなんかのゆるキャラ?」
「いや、ブラッド・ピット。アメリカの俳優だ。」
「はやく着替えてくだいさいね。ていうか、私たちも着替えなきゃ。綾、ユニフォーム。」
妙から綾にバスケウエアが渡された。それはグリーンと白のリバシブルのウエアだった。」
「ユニフォームがあるんですか?」
「そう。うちにはユニフォームがあるの。ユニフォームがあるのはうちと大学病院と
レスキュー隊の3チームだけ。」
そこに、すでにユニフォームに着替えていた田中と三宅、石垣がやって来た。
セルテックスのチームカラーのグリーン。白のラインに「BuzzerBeater」とチーム名が白の筆記体で表記されたユニフォーム。
「なんて、かっこいいユニフォーム。」
もう、綾の笑顔ははちきれていた。
「バザーベーターってどいういう意味ですか?」
「ブザービーター。試合終了のブザーとともにゴールするってこと。最後まで諦めないで勝つっていう意味。」
妙が綾に怒気を軽く含みながら言った。
「色がグリーン。ボストンセルティクスですよね?」
綾が無邪気にそう聞くと
「違うの。何か周さんの大学のチームカラーなんだって。」
「周トレーナーの。だいがく?」
「でも、かっこいいでしょ?」
コートに戻るとひときわ目立つ緑の軍団。そこには小森の姿もあった。
前の試合のハーフタイムになり、京浜区チームと若葉区チームがともに軽いアップを始めた。
いつものメンバーに小森。綾は当然、小森のプレイに期待したが、基本に忠実なき
れいなフォームのシュート。軽く流している感じに見えた。
職場でのクールなケースワーカーでの小森。周囲を大きな心で包み、自分もそうだが、他の同僚や後輩を文字通り体をはって守り、上司も守る小森 周トレーナー。
その人が同じコートで大好きなバスケを自分と一緒にしている。
その光景が綾には嬉しくてしかたがなかった。
小森が加わり、強い京浜区チームが無敵になったように感じた。これで戦力が落ちたとは。じゃあ昨年はどれだけ強かったの?
そんな事を考えたら妙に聞かずにいられなかった。
「かっこいいですね。周トレーナー。」
「そうね。」
ウオーミングアップの時間は終わった。




