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バスケやろうよ  作者: みなもと とおる
12/39

職員大会はじまる

職員大会の日が来た。参加チームは56チーム。11月の土曜日を4日使い、トーナメントを行う大会である。

綾たち京浜区役所は1日目の下のブロック。昨年優勝している京浜区はシードで1回戦は無く、若葉区対中央図書館チームの勝者と対戦することになっていた。試合は3時。

 この日の上のブロックでは増山や小澤、山下 香澄がいる福祉局がやはりシードでエントリーしていた。

 綾と妙は田中と一緒に午前中から会場の平川記念体育館にやってきた。平川記念体育館は横山駅からバスで5分くらいの高台に建っていた。

 体育館の横には陸上競技場があり、Jリーグの公式戦が時折開催されていた。

 3人は体育館に入り、コートの横でたむろしている増山たちを見つけた。

「ちーす。」

 田中が声をかけた。

「はええ。」

「偵察。当然だろ。」

「優勝チームがうちなんか偵察。ってゆうか、うちとはいつもやってんじゃん。」

「そっちの秘密兵器。見に来た。」

 増山、宮本、小澤、山下。その向こうにいる色白のかわいい「男の子」その子はにこっと笑った。

「お前、秘密兵器だって。」

「はじめまして。大迫です。」

「君か。どっかの全中。」

 大迫くん。この笑顔の男の子がどれだけバスケがうまいかが、福祉局戦のカギを握ることになる。


 午前中のブロックの予選1回戦は谷戸区役所対富士見区役所。この勝者が福祉局と対戦することになる。

 谷戸区役所は経験者の男子選手が3人と未経験だがサッカー経験者で長身の身体能力の高い選手。それにスリーポイントシューターの女子と結構実力の高いチームだった。

 対する富士見区役所はエースの上川という選手にセンターの永井という2人が目立っていたが、上川はフォワードにしては華奢な体格で、またボール運びも上川、シュートも上川。さらに永井もリバウンドに行くが上川がそれ以上にオフェンスリバウンドに行くため、上川のワンマンチームという印象をうけた。

 谷戸区役所のキャプテンの川村と田中は友達で、試合前に雑談を交わしていた。

「上川を押さえれば、そっちは田口と長身の田嶋、それに外からあの女の子がスリーも行けるから、勝てそうかな。」

 この田中の予想に川村も

「とりあえず、ここは手堅く勝って、2回戦の福祉局に備えよう。何とかお前たちと戦いたいな。」

 と答えていた。

 そしてゲームが始まった。

 

 職員大会は1ピリオド7分×4ピリオド。28分のゲームでそれぞれ前・後半に3回ずつタイムアウトが両チームに与えられていた。

 谷戸区役所対富士見区役所戦は9時30分に試合開始。谷戸区役所の優位が予想さ

れていたが、試合は意外な展開を見せた。

 上川が序盤からゴールを決め続けたのだ。

 1ピリオド5分のところで12対0。上川が自分でドリブルで持ち込み、絶妙のボディバランスでピボットから放つシュートは意地が悪いくらいゴールに吸い込まれた。

  

 富士見区のオフェンスに対し谷戸区のオフェンスは得点に結びつかなかった。リバウンドは高さでは谷戸区のセンターが勝っていたが、富士見区のセンター永井はオフェンスリバウンドではしっかりスクリーンアウトをした。谷戸区のセンターは永井に阻まれリバウンドに飛べなかった。そこへ「すっ」っと上川がボールを奪いそのま

ま着地もせずにゴールを決めた。

「そんなの。。。」

 川村の絶句が綾の耳に聞こえた。


第2ピリオド。上川がボールを持つと川村がディフェンスについた。明るい川村の表情は堅くなっていた。

 川村は上川を押さえるため必死に動いた。上川もこのディフェンスにはシュートのチャンスも無くなってきた。ところが、オフェンスタイムが24秒に近ずく前に上川はわずかな隙をついてシュートをうった。そのたびに川村のディフェンスはファウルを取られた。さらに川村がシュートブロックに行ったにもかかわらず、上川のシュートはボードからリングに吸い込まれた。

 この3点プレイは谷戸チームに衝撃を与えた、そして川村は冷静さを失くしてい

た。

 

 谷戸区は田口のミドルシュートが入るものの、次の富士見区のオフェンスプレイ。

上川のシュートを止めないと前半で20点差がついてしまい、敗色が濃くなってしま

う。

 川村は必死だった。そして上川のシュート。

「スクープ?」

田中が叫んだ。一緒に観戦していた綾にははじめて見るシュート。

 上川のレイアップは柔らかく弧を描きバックボードに当たることなくリングを抜けた。

「スラダンの北澤?」

 綾が田中に聞くと

「いや、黒子だろう。」

 と田中は答えた。

 フローターレイアップシュート。後で妙が綾に教えてくれた。

「きっと、今の私の目がハート型になっているのを会場の誰かに気づかれているに違いない。」

 そう、綾は思ったが誰もそれには気づいていなかった。どうも綾は上川に惚れたらしい。(すぐに冷めるが)

 会場の視線は川村のファウルと上川のフリースローの方に向いていた。

 このプレイで川村は5ファウルで退場した。

 

ゲームは富士見区が勝った。午後、シードの福祉局と富士見区の2回戦が予定され

た。

 妙が近くのファミマでおにぎりを何個だよって言うくらいたくさん買って来た。時間はまだ午前10時。

「みんなで食べようね。」

 妙は富士見区の上川におにぎりの袋を渡した。

綾は妙と上川は知り合いなんだとこの時に知った。

「京浜は3時くらいか。」

 上川が言った。

「みんなは2時には来るかな。」

 妙が答えた。

 この後、下のブロックの若葉区対中央図書館の試合があり、その後富士見区対福祉局の2回戦。京浜区の試合はこのあとだった。

「次、試合だからこんなに食わないよ。」

 上川が妙に言うと

「あとは、福祉の子と審判やってるバスケ部の三宅さんやみんなの分。田中さんや綾の分。あたしは3個食べよかな。」

「妙せんぱい。わたしの分もあるんですか?」

「あるよ。綾にも3個。」

 おにぎりは10種類くらいはありそうだった。

 そうこうしているうちに1回戦の下の組、若葉区対中央図書館戦が始まった。

 試合はロースコアのゲームで10対4で若葉区のリードで前半を終えた。

「じゃあ、アップはじめよう。」

 富士見区と福祉局のアップが始まった。 

「あの子、どうかな。」

 田中が福祉局のシュート練習を見ながら言った。

「増さんがゲームメイクしなくていいらしい。おおさこくんはガードだそうだ。」

「どっちが勝つかな?」

 妙が田中に尋ねた。

「そりゃ、福祉だろ。相手がカーミィでも。」

 田中がカーミィと呼んでるのが上川のこととわかると、綾はまた萌えモードになっている自分を恥ずかしく思った。

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