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バスケやろうよ  作者: みなもと とおる
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横山市役所に

 平成20年 4月1日 中嶋 綾は横山市役所、平成20年度採用職員の入庁式に

出席するため、港ホールにいた。

 

綾はこの1週間前に仙台から横山市に引っ越して来た。

 綾の実家は福島県南相馬市。地元の県立高校を卒業した後、仙台にある福祉を専門

とする大学に進学。

 大学進学と同時に仙台市内のアパートに住みながら4年間を過ごし、就職先が横山

市ということで実家には戻らず、卒業して程なく横山市に来たのである。

 忙しかった。それはいつからだったのか。高校時代は部活、アルバイト、受験勉

強。そんな風に考えたら中学時代も部活、受験勉強。福島の原町(南相馬市)なんて

田舎に住んでいたのに何でこんなに忙しい十代を過ごしてしまったのだろう。

 

と、ふと綾は思った。さらに仙台での大学生活はのんびりした記憶がまるでなかった。

 勉強はする方だったが、好きで勉強していた方では無かった。また、自分は勉強が

出来るという風に思ったことは無かった。

 そこで将来、就職するにしても事務職(OL)みたいな仕事よりやりがいがある(よ

うに感じる)社会福祉職。いわゆるケースワーカーの仕事をしたいと思い、この大学

に進学したのだ。

 ところが、甘くは無かった。大学での勉強は高校での勉強など比較にならなかった。

 一般教養科目に専門科目の履修。さらに仙台で一人暮らしをするためにはアルバイ

トをしなければならず、平日は大学が終わってから夜まで。また、土曜日は1日、仙台市内のグループホームで働いていたのだ。

 毎日ヘトヘトになりながら、3年生になってもろくな就活は出来なかった。そして

4年生になり、いよいよ就職を真剣に考えたとき

「働くようになったら、少し余裕を持ちたい。」という気持ちが強くわいた。

 しかし、自分がなろうとしている仕事は「3K」(キツイ、キタナイ、キモイ

(?)いや、カネヤスイ(?)。。。クルシイ。。(?)本当はキケン)の仕事。

 綾は今までにいろいろ聞いた話だけでなく、実際にアルバイトしていたグループ

ホームに正社員で働く年上の職員たちを見ていてもそう(福祉の仕事を3Kと)感じざるをえなかった。

 とはいえ、彼女には追いつめられたような悲壮感は無かった。彼女はのんびりした性格だった。

 綾の性格についてふれておきたい。彼女は明るくて、優しくて、粘り強くて、楽天的な

性格なのだ。

そんな彼女が唯一って言っていい「進路(就職)」への挑戦が横山市の社会福祉職

試験の受験だった。(本当にこの選択しかしていなかった。落ちたら。。。このグ

ループホームでアルバイトしながら浪人するつもりでいた。)

 試験も近づいた5月。

 とりあえず、同じゼミの小島 有紀が横山市の試験(大卒社会福祉職)を受けるっ

て聞いたので、いろいろ彼女の持っている資料をコピーしてもらった。それをもらい

全部レポート用紙に書いた。友人が「写経」と呼んでいる綾の独特な暗記法だった。

 そして、7月。横山市の市立大学で1次試験が行われた。綾はマークシートの50

点満点、4択の試験(制限時間3時間)に望んだ。

 不思議とスラスラ、マークシートを埋めていった。退場オーケーの時間から30

分、2時間で全問回答した。綾はこうゆう試験では中学時代から「見直す」というこ

とをしなかった。このときも一切見直さず、受験番号と氏名だけさらっと見て、試験

会場をあとにした。

 そして、8月初旬。1次試験の合格通知が綾のもとに届いた。

 写経の甲斐があり、1次試験は合格だった。

 とりあえず、実家の母親にメールで報告した。「がんばって」との返信が来た。

 そして、ゼミの仲間にも報告した。

 友達の小島 有紀は

「写経。効果あるね。わたしは落ちちゃった。」

と言った。

 綾は

「そか。」

とだけ言った。そして話題は2次試験へと移った。

 2次試験は論文と面接だった。

 彼女は論文は捨てるつもりだった。勉強の仕方がそもそもわからなかったから、

ぶっつけ本番でやることにした。

 しかし、面接はさらに勝手がわからなかった。

 そこで、大学が主催した模擬面接を時間を都合し、受けた。

最初彼女は「受験番号1番。中嶋 綾です。」という定型フレーズが言えなかった。

事前に教官から簡単な説明を受けていた。しかしまるで頭に入っていなかった。

 模擬面接が始まった。

 部屋のドアの前で立って待っていた綾に、教官の「始めて」って声が中から聞こえ

ると、彼女はドアをガチャッってあけて、つかつかって入って来て、ドカッってイス

に座ったのだった。 

「は」

教官が呆れた顔で綾に言った。

「ちょっと僕の動きを見て。」

そして教官自らドアから出て、

正しい面接室への入り方をやって見せた。

 「コンコン」「どうぞ」ガチャッとドアをあけ、「受験番号1番、菊池 隆(教官

の名前)です。」「ここで両手でこうゆう風にドアを閉めて、イスの方に来て」教官

は両手で音のしないようにドアを閉め、イスの横まで来た。「そして、すぐに座らな

い。」「面接官から、どうぞおかけください。って言われたら座るんだ。」

 綾もやってみた。教わるとちょっとさまになるもんである。

 そのあとの受け答えは、彼女の人見知りしない性格がプラスに働いた。グループ

ホームではスタッフや利用者と明るく優しく話す彼女である。面接官とのやりとりで

も、そんな彼女の人柄は場の雰囲気を和ませた。

 こんな感じの模擬面接を3回、彼女は受けた。面接官役の教官からも作った答えよ

りも綾の人柄をそのまま言ったほうがいいとの評価をもらった。

 そして、2次試験の日。最初は論文だった。論文は3問で、制限時間3時間。

 1問目は「あなたにとって社会人とはどういう存在ですか。」というものだった。

800字で記述しなさい。と。

 綾は論文を帰納法で書くことが好きだった。さらにアルバイトの経験があったので

そこでの実感をそのまま書いた。「私にとって社会人とは自分の仕事で人に喜んでも

らえる人だと思います。」

 こう書き出し、あとは自身のグループホームでの経験を記述した。利用者のおばあ

さんから「ありがとう」って言ってもらえたこと。いろいろな気持ちを話してくれた

おじいさん。そんな「実体験」を書いた。

 2問目は「介護保険制度について述べよ」だった。これもグループホームでの経験

が役にたった。

 また大学でのゼミの専攻も「高齢者福祉」だったから、なおさらだった。

 800字の論文を記述し、(これには説明式の論法で臨んだ。)無難に書けた。

 「あれっ」綾は2問目がおわったとき、何か不思議な感じがした。

 「問題があたしに来てって言ってるのかな。」

 3問目は「法定受託事務について説明せよ。」だった。

 これぞ、「写経」の中の例文だ。

 「ビンゴ」って小声で言っていた。

 「写経」した文章を書いた。はっきりいって「法定受託事務」なんてなんのことか理解していなかった。

 記憶は理解とは別物。

 

午前中の論文が終わり、試験会場の大学のキャンパスの中庭で、コンビニで買った卵

サンドと野菜生活の昼食を採り午後の面接を待った。

 午後、面接が始まった。3人の面接官が3人の受験生を面接する方式だった。

 綾は模擬面接は面接官2人に綾一人というスタイルでやって来たので、他の人と一

緒に面接をするって会場の控え室で説明を聞いたとき、「えっ。どんな感じになるの

かな。」って一瞬思った。

 しかし、すぐに気持ちは落ち着いた。「ありのままでいこう。」そう思った。

 綾は自分と一緒に面接を受ける他の2人を見た。長身の男性と、セミロングの細身

の女の子だった。そして、面接会場の会議室のドアの向こうから「どうぞ、お入りく

ださい。」と入室の案内があった。

 面接はあっと言う間に終わった。終わった安心感からか、質問の内容も答えた内容

も、あまりはっきり覚えていなかった。

 ただ一つ覚えていたのは「あなたが今までやりきったといえる事はありますか。」

という質問に対し

 「子供のころから、今も続けていることがあります。それは、バスケットボールで

す。」と答えたことだった。

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