8月14日のバースデイケーキ
短編と言う名の長編 笑
長いですが、最後までお付き合い頂ければとても幸いです。
アンモビウムの花言葉 : 不変の誓い
自転車に跨り15分。田圃の畦道。平坦な道。坂道。木が鬱蒼と茂っている道。ひたすら、自転車を漕ぐ。
程なくして到着した舗装がされていない駐輪場に自転車を停める。
階段を32段。登った先にある正面の門は潜らない。
左手の横道を抜けて3段階段を降りる。
区画ごとに分かれている通路。
いつもと違ってすれ違う人が沢山いる。明日はもっと沢山の人が居るのだろう。軽く挨拶や会釈を交わしながら角を曲がること2回。
15番区画の最奥。私の歩幅で25歩。
「よっ。相変わらず幸が薄いなー」
「………本日二回目の暴言」
右を向き、目と目が合うとお互いにぷっと噴き出した。
夏休みになると私は、毎年訪れる場所がある。
母方の実家。山間の小さな町には毎年電車で訪れ、13日から16日までの4日間を祖父母の家で過ごした。
周りは農家ばかりで、隣の家までの距離もある。周りに同世代の子なんて居なかった。
遊び相手はいつだって大自然。夕暮れ時に帰った私の姿を見て、祖母はいつも困った顔をしていた。
そんな私をいつも褒めてくれていたのは曾祖母だった。
「いっぺー遊べ。んで、たんまりけなぁ」
「ひっこちゃん、大好き‼︎」
ひっこちゃんとは曾祖母のこと。
ひっこちゃんは私に甘かった。とても可愛がってくれた。そんなひっこちゃんが私は大好きだった。
幼稚園の年中になると一人でも電車に乗れるようになった。
毎年毎年、ひっこちゃんに逢いにあの家に行く。
小学校に上がってもそれは変わらない。
ずっとずっと変わることがないと思っていたのに小学5年生の春。ひっこちゃんは天国に逝った。
その年のお盆は電車ではなく両親の車に乗って祖父母の家に向かった。
家の中にはひっこちゃんの姿はない。沢山ある部屋を隅々まで探しても居なかった。
自然と足が向かったのは、記憶に新しいお墓の前だ。
「ひっこちゃん。逢いに来たよ」
泪で歪む視界の先に黒くそびえる無機質な硬い石で出来た墓石。
私は毎日そこに通いひっこちゃんに話し掛けた。
次の年のお盆が迫った日。
今年はいつ来るのかと祖父母から連絡があった。
無理をしなくてもいいよと言う祖父の言葉に悩んだが、例年通り13日から行く旨を伝えた。
祖父母だけしか住んでいない家の中ははやり広くて淋しくて、自然と墓地に足が向かう。
「ひっこちゃん。来たよ」
何の返答もないお墓に向かって私は話し出した。
次の日、お墓に向かうと沢山の人が居た。
お墓参りの日はここの地方の習わしなのか決まっていた。
8月14日。今日がその日だ。
13日に迎える準備をして14日に迎えにいく。15日は家で一緒に過ごし、16日に家から送り出す。
今日は迎えに行く日。祖父母たちが来る前に、どうしても先にひっこちゃんに一人で逢いたかったので、自転車に乗りお墓に来ていた。
墓石が見える位置に差し掛かったとき、人が見えた。
正確にはうちのお墓ではない。隣のお墓。そこに少年が居た。
多分、私と同じぐらいの男の子。黒髪を風に靡かせ、墓石の前に立っていた。
その姿があまりにも絵になっていたので、思わず見惚れてしまった。彼はこちらをゆっくりと振り返り、目を細めて私を注視した。
確かに彼はそこにいる。
でも今にも消え入りそうなのは、あまりにも白過ぎる肌のせいか、暑過ぎるこの気温によって出された陽炎のせいか。
彼との距離を詰めながら、すれ違い様に「こんにちは」とだけ挨拶を交わした。
確かに通りすぎたそう思っていたのに、私はまだ彼の横にいた。私の手首は捉えられ、白くて長い指に掴まれていた。
彼は目を見開き掴んだ自分の手と私の手首を交互に見ていた。
「あの…」
「やっと、…」
彼の第一声は私には意味不明だった。
それよりも手を離してほしい。ひっこちゃんに逢いにいけない。
「手を離してくれない?」
「あぁ…ゴメン」
彼の横を通り過ぎ、やっと墓石の前に辿りついた。
何なんだあの子。
今まで見たことなんてないけど。
しかもあの子が居るせいでひっこちゃんに話しかけられない。
仕方ないので目を瞑り心の中で話しかけた。
多分5分くらいだと思う。目を開き立ち上がり踵を返すと、あの少年はそこに立って私を見ていた。
「随分、長いこと話をしてるんだね」
しかも見られていたらしい。なんとなく恥ずかしくなってしまうのは何故だろうか。
「どのくらい話をしてようと勝手でしょ」
「そうだね。羨ましいなって思っただけだから」
羨ましいとは何のことだ。
この少年の発言は意味不明なことが多すぎる。
ってか怪し過ぎる。正直怖い。幼い不審者?
私があからさまに態度に示してしまったせいか彼は苦笑していた。
「大丈夫。不審者じゃないよ」
エスパーか! 怖すぎる‼︎
家族が来るまでまだ時間があるが、此処で少年と二人きりになることに抵抗があったので、本堂にでも行こうと口を開きかけたとき彼がタイミングよく話し始めた。
「ここに来るのは初めてなんだよ。だからよく分かんなくて。本堂とか分かる?」
だからエスパーですか⁈
彼への懸念は晴れていないが困ってる人を放って置けない質の私は、仕方なしに彼と本堂に向かった。
本堂は駐輪場から続く階段を上がった正面の門を潜った先にある。
それ程広くはない敷地にも関わらず、木々が生い茂り真夏の陽射しを程よく遮っていた。
葉っぱの隙間から零れる陽と、風に木々が揺らめく度に影がざわめいているようで何かを予感させる。
今日は沢山の人たちが来ているから、ここにも集まって居るのかも。
「ここが本堂だよ」
彼に向かってそう言うと、ありがとうと彼は微笑んだ。
やっぱり絵になる。儚さがこの景色に合っている。
「君はここにはいつも来てるの? いつまでいるの?」
質問の意図が全く分からない。
「いつも来てるってどういうこと?」
「昨日も来ていたから」
見られてた⁈
昨日ってあれでしょ?
一人でひっこちゃんに向かって、ずっと話していたのを見られたってことでしょ⁈
しかも泣きながら話してる姿‼︎
それってどうなの⁈ すごく頭痛い子じゃない⁉︎
顔に熱が篭っていくのが分かる。それを少年に見られたくなくて下を向いた。
「毎年来てるよ。16日まで居る」
「そっか。僕は今日しか居られないだ」
「帰るの?」
「うん。自分の居場所にね」
「へーそうなんだ」
私と同じように祖父母の家に泊りに来ている子なんだろうか。お墓参りの日に合わせて来ているのかな。
「ねぇ」
「ん?」
「来年もまた来るの?」
「来ると思うよ?」
「じゃ、来年もまた逢おうよ」
目の前に立ち本堂を見ていた少年がこちらを振り返り、にこりと笑ってみせた。
「怪しい人と逢うつもりないから」
「だから怪しい人じゃないって」
「だったら名前は?」
「名前?」
「だからな・ま・え! 初めての人には名前を名乗るのが常識だし、名前も知らない人と逢う約束なんて出来ない」
彼は少し驚いているようだった。暫くぼーっとした後、ぽんと手の叩き満面の笑みでこう言った。
「じゃさ、君が考えてよ、僕の名前」
「えっ、なんで?」
「二人だけの名前みたいでさ何かいいじゃん。隠し事してるみたいでドキドキしない?」
「しない」
「えー釣れないなぁ、考えてよ」
何なんだろ、この能天気な感じ。
初対面なのに馴れ馴れしいし、彼のペースに持って行かれると疲れてしまう。
「じゃぁ、葉月で」
「葉月? 何で?」
「この前、国語の授業で習ったから。八月は葉月って言うんだって。今八月で丁度いいし」
「へぇーいいね葉月! 気に入った‼︎ ちなみに九月は?」
「………忘れた」
「えっ、バカなの?」
「ってか、さっきから何なの⁈」
「はいはい、怒んない怒んない。じゃぁ、今度は僕の番ね」
「僕の番って?」
「名前。君の名前は僕が決めてあげる。そうだなぁ…」
どんな名前を付けられるのかと不安に思いながら彼を見ていると、目が合った彼は悪そうな笑みをみせた。
「じゃぁ、幸で!」
「何で幸?」
「幸薄そうだから」
「だから何なの、あんた‼︎」
人に向かって幸薄いとは、失礼極まりないだろ‼︎
彼の発言はいちいち感に触る。わざと私を怒らせて楽しんでいるようだった。
暫く騒いでいると彼が視線を横に逸らした。
「幸の家族来たみたいだよ、ほら」
「あっ、ホントだ」
本堂は少し高い所にあるのでお墓の様子がよく見える。墓石の前にはみんなが集まっていた。
「私行くから。バイバイ」
急いでお墓に戻るために少し小走りで走り出した。
「バイバイ、幸。また来年」
葉月の声で振り返ると、もうそこには葉月は居なかった。
本当に変な少年だった。
纏う気配もどこか違和感があるが、それが何かが分からない。
首を傾げつつ、みんなが集まっていることを思い出しお墓へと急いだ。
翌年の14日、葉月はそこに居た。
「よっ。相変わらず幸薄そうだな」
「あんたは相変わらず、失礼だね葉月」
名前を呼ぶと彼とは嬉しそうに微笑んだ。
まずは葉月を無視して通り過ぎひっこちゃんに挨拶をする。彼はそれを黙って待っていてくれた。
「ひっこちゃん、今日も来たよ」
「もういいの?」
「昨日も来たし、葉月が邪魔だし。16日まで居るから」
「何か地味に傷付くなー。よし本堂行こう。ここにいたら暑くて倒れる」
葉月とは他愛ない話ばかりをした。家族がお墓に来るまでの一時間も満たない時間。
くだらない話をして葉月が私を怒らせて宥めての繰り返し。
ただでさえこの暑さで茹だるたいうのに、無駄に体力を減らされる。わざとなのではないかと疑ってしまう。
「幸って中学上がったんだろ?」
「そうだけど。何で?」
「じゃぁ、来年制服で来いよ、見てやる」
「上から目線が腹立つなぁ。じゃぁ葉月も着てきてよ」
「やだよ。荷物になる」
「私はいいのか!」
「ほらほら怒らない。ほらみんなが来たみたいだよ」
「怒らせているのは、葉月だからね!」
「はいはい。また来年。バイバイ」
「バイバイ‼︎」
いつもこんな感じだった。
次の年、13日にひっこちゃんに逢いに行くと葉月が居た。
「よっ。相変わらず幸薄そうだな」
「葉月! どうしたの⁈ 今年は早めに来たの?」
「うん。13日からこっちに来れたみたい」
「そうなんだ。あっ、時間ある? ちょっと待ってて!」
自転車で往復30分の道を全速力で駆け抜けた。汗をかく量が尋常じゃなかったけど、そんなことは気にならない。
何故か心が踊る。ペダルを漕ぐ足はとても軽かった。
墓地に着き、自転車を停めた。目の前に聳える階段が試練の塔にしか見えない。よしと気合いを入れて登り始める。
「幸」
階段を半分ぐらい登ると、頭の上から声がかかり目の前に足が見えた。
細く長い足。目線をどんどん上げて胸の辺りまで上げたところで、頬に冷たい何かが触れた。
「幸、お疲れさま。喉乾いたでしょ? 本堂で休もうか」
「ありがとう」
飲み物を受け取ると、手首を掴まれた。そのまま誘われるように、階段を登る。
さっきまで上がっていた息が嘘のように落ち着いた。今は胸のドキドキのせいで苦しくなりそうだ。
何だろこの気持ち。
こんな気持ち知らないよ。
「じゃーん、これが私の中学校の制服です」
「シャツにベストにスカートか。ブレザーなの?」
上下紺色のベストとスカート。スカートはひだが多いから動くとよく揺れる。
シャツはどこにでもあるようなカッターシャツ。ワンポイントと言えばチェックのネクタイなのだが、衣替えをした夏服の時はそれが外されているので可愛い所が全く無い。
「普通でしょ? 夏服は可愛くないんだよ。冬になるともう少しマシなんだけど」
「それは冬に見たかったな。でもとても似合ってるよ」
さらっと恥ずかしいことを言ってのけた顔を除き込むと葉月は柔かに微笑んでいた。
優しい葉月の口調に戸惑ってしまう。
どの口が言ったんだ! いつもような暴言はどうした‼︎
顔に熱が集まり紅潮していくのが分かった。その空気をどうにかしようと口を開いた。
「汗かいて暑いからベスト脱いでいい?」
「いいけど…」
「今日は特に暑いよね」
「そうだね……ねぇ、幸」
「ん?」
「いつも暑くなるとベスト脱ぐの? スカートその長さで自転車漕いできた?」
「ベストは規則で脱げないから脱がないけど、スカートは大体このくらいかな?」
なぁんて言ってみたけど、実際はもう少し長い。いつもはウエストの所で二回巻き。今は三回だ。巻く度に厚みを増していくので、三回も巻くと膝下10cmぐらいだった長さも今は膝上の長さになる。
少しでも可愛く見られたいという乙女心だ。
「自転車漕ぐとき、その長さだとパンツ見えるよ。幸はガニ股なんだから」
「うそ、ガニ股じゃないよ‼︎ パンツ見えないようにしてるし‼︎」
「うそうそ。ベストは…脱いじゃダメ。どこを見ればいいか悩む」
よく見ると、汗で濡れたシャツは下に付けていたブラジャーを透かしていて、ピンク色の水玉がハッキリと見えていた。
一旦引きかけた熱が一気に顔に集まった。
恥ずかしくてこの場から居なくなってしまいたい…
「身長と低い鼻同様に小さい胸が申し訳なさそうにしてる」
「うるさい、バカ葉月‼︎」
優しいと言ったさっきの発言撤回。いつもの葉月でした。
胸は発展途上なんだよ! 身長も鼻もきっとこれから外人さん並に高くなるはず‼︎
まぁ、実際に身長と鼻は高くなることがなかった。
そうだ、忘れていた。私の家族みんなミニマムだった。
恐るべしDNA。
胸はちゃんと育ちましたとも。それを後々葉月に言ったら、今度こそ顔を赤くして下を向いて何も言えなくなってしまった。私の完全勝利‼︎
葉月に勝てたのはこれだけだったけど。
バカみたいに騒いで、毎年次の日の約束をした。
いつものように家族よりも早めに来た、墓参りの14日。
墓石の前の階段に腰掛けた彼は微笑んだ。
「おはよう」
「お、おはよう…」
「どうしたの? あっ、まさか見惚れちゃった?」
「うるさい、バカ葉月‼︎ 見惚れてなんていない…」
「はいはい」
葉月は口に手を当てて明かに笑いを堪えているのが分かる。
だって仕方ないじゃない。そんなの不意打ち過ぎる。
葉月は制服だった。黒よりはグレーに近い色のスラックス。シャツは私と同じカッターシャツ。第一ボタンを開けているだけで、どこにでもあるような制服なのに葉月が着ると、何故か色気というかフェロモンが出ていて、何かすごく似合う。
なんだこれ。
いつから葉月専用のキラキラ眼鏡をかけたっけ?
「ひっこちゃんに挨拶するね。なんだかんだで昨日出来なかったから」
「はいはい、ごゆっくり」
葉月はいつものように静かに待っていてくれた。暖かく見守ってくれているのが分かる。それがどこか気恥ずかしかった。
「ねぇ、その頬の赤いのどうしたの?」
「あぁ、これ? 昨日ひっこちゃんに叩かれた」
「葉月ってひっこちゃんいるの?」
「あぁ、うん。すごく口うるさいの。女の子に胸の話をするやつがあるかーって怒られた」
「さすがひっこちゃん! 私のひっこちゃんも同じこと言うと思うよ‼︎」
「そっか…」
何故か葉月は微妙な顔をしていた。そんなに叩かれた頬が痛かったんだろうか。
ポケットに入っていた絆創膏を取り出し、葉月の頬に付けた。
「女の子には優しくしなきゃねー?」
「そうさせてもらいまーす。あぁ、失敗した」
「何が?」
「今日も幸に制服で来てもらえば良かった。そしたら制服デートみたいじゃん?」
ねっと首を傾げて私の顔を除き込んだ葉月にドキドキしてしまい、それを隠そうとして葉月を叩きまくってしまった。
ひっこちゃんに叩かれたときよりも痛かったかも。
不意打ちをしてくる葉月が悪い。
絶対わざとだ。悔しいぞ。
肩を摩りながら空いている方の手で私の手首を掴んだ。行こうかといつものように私を誘い本堂へ向かう。
ゆっくりと流れる雲のように、穏やかな時間。
短い逢瀬はまた来年の約束の期待をどんどん大きくさせた。
次の年はお互いに制服で会った。
「逢うのが墓場って全く色気が無いね」って笑ったのを覚えている。
中学校最後の年の夏は勉強に追われていて、そのストレスを発散する為に二人で日頃の鬱憤を本堂から墓場の方に向かって大声で叫んだ。
運悪く私が叫んでいるときに住職に見つかってしまい、私だけが怒られた。
これも狙ってか、葉月さん⁈
高校生に上がると、葉月に逢う時間が増えた。13、14日だけだったのが15日まで逢えるようになる。
別に特別なことをするわけじゃなかった。
いつものように逢って話をして、騒いでボーッとして。何も変わらない。
少し変わったのは二人の距離感。
いつも掴まれていた手首は掌が合わさるようになった。
二年生に上がると指が絡むようになる。
お互いに自然とそうなった。
触れている手から伝わりそうな心臓の音。ドキドキと煩くて仕方ない。
どうか気がつかないで。
この関係が壊れてしまうのは嫌なの。
このままの繋がりで構わないから葉月に逢いたい。
葉月の傍に居たい。
年を重ねるこどに葉月は身長が伸びて、私とは頭一つ以上違う高さになった。
顔も端正な顔立ちで、多分高校では人気があると思う。
纏う雰囲気は変わらず不思議なものだ。その儚さは私の胸を締め付ける。
言ってしまったら終わってしまう。
何故かそう思った。
だから言えなかった。
高校最後の年。
いつもように自転車を漕いで向かった約束の場所。
「よっ。相変わらず幸薄そうだな」
葉月は笑顔でいつもの場所で待っていた。その笑顔が眩しくて私も微笑んでしまう。
「……本日二回目の暴言」
二人で噴き出して笑い合った。
墓場にはさっきも来ていたがお互いに約束を忘れていたので、一度戻ってまた待ち合わせた。
高校最後の今年は、制服で逢う約束をした。
それなのに葉月に逢えるのが楽しみ過ぎてすっかり忘れていたのだ。
葉月も同様だったみたいで、もしからしたら私と同じ気持ちだだったのかなと淡い期待を持ってしまう。
高校の制服はセーラー服だった。私のその姿を目を細めて葉月はじっと見つめていた。
「うん。セーラー服、幸によく似合ってる。じゃぁ行こうか」
彼が差し出した手を取り、指を絡めていつもと同じように本堂までの道を一緒に歩き出した。
「ねぇ、知ってる? 明日花火大会があるんだよ」
「知ってるよ」
本堂の日陰に二人で座りながらアイスを食べていた。
墓地の前にある小さな商店。そこに売っている懐かしいパッケージのバニラ味のアイス。
ばててしまいそうなほどの暑さに表情も険しくなり、眉間に皺を寄せた私の顔を見て苦笑した葉月が買ってきてくれたものだった。
少し待っててと言って消えた葉月を流れる雲を見ながら待っていると、目の前にアイスが差し出され咄嗟に受け取ってしまった。
その様子を見て「目の前にバナナを吊るされた猿みたい」と葉月が声を出して笑っていた。
殴ってもいいですか、葉月くん。
二人で無言でアイスを食べていたときの花火の話題。
この地域では毎年16日に花火が上がる。小さい町なので上げる規模も小さいのだが、花火と一緒に行われる大文字焼きと花火の閉めに上げられる連続200発の花火は圧巻だそうで、他の街からも沢山の人がこの日は訪れる。
私はいつも16日に帰っていたので見たことがなかったのだが、今年は台風が近づいてきていて見事に16日に直撃しそうだと言うことで、町長の判断で14日の今日の夜に打ち上げの変更となった。
「葉月、見に行くの?」
今まで見たことなかった花火が見られる喜びと、できたらそれを好きな人と見られないかと言う期待から葉月の予定を聞いていた。
どうか、誰かと一緒に行く予定を立てていないで。
「知ってる? この本堂から花火も大文字焼きもよく見えるんだよ」
「そうなの?」
「花火が上がる方角は木が生えていなくて開けているし、丁度いいんだ。幸は見てみたくない?」
「見ていたい‼︎」
「じゃぁ、明日僕とデートしてくれる?」
葉月の誘い間髪入れずに返事をした。「小さい子を手名付けているようだ」とまた笑われてしまう。
存分に笑うがいい!
だって本当に嬉しかったから。葉月と花火を見れるだけで舞い踊ってしまいそうな気分だった。
しかもデートだって。
しかし、はっ、と我に帰る。夜の墓地ってかなり怖いんじゃないですか⁈
顔を青くさせていると「僕がいるから大丈夫だよ」と言った。
なんだよ、ちくしょう。かっこいいじゃないか。
「明日、19時にいつもの場所で」
葉月の言葉に小さく頷き、帰宅した。
約束の14日。
私は一人で慌ただしかった。
浴衣はどうしよう、髪型は⁈ 何か食べ物持って行ったほうがいいかなと一人でウロウロする姿を見て両親は苦笑。
それに付き合ってくれたのは祖母だった。
祖母が持っている浴衣の中から選んだのは、撫子をあしらった藍色の浴衣。柄は不規則な縞縞になっていて、モザイク柄のようにも見える。それに合わせた臙脂色帯も浴衣によく映えてレトロモダンな印象を持たせた。
髪型はコテで少し巻いて、横で纏めた。
約束の時間30分前に母親の運転する車で墓地の近くのバス停まで送ってもらった。
「遅くならないように」
ここで待ち合わせてをしてると母親には嘘をついていたが、私の今までの態度を見ていて目敏く気付いたのだろう。釘を刺されてしまった。
母親の観察眼、恐るべし。
待ち合わせの時間まであと20分、浴衣でゆっくり歩いても墓地まで5分とかからないだろう。
カランコロンと下駄が響く。
夜の張が降りかかっている空は何とも不思議な空間を作り出している。あと20分もしない内に辺りは暗闇に包まれるだろう。
墓地へと向かう道は辺りの空気とはやはり異なっているが今は全く怖くない。
それはきっと葉月が居るから。
この特別な日に葉月と逢えるのが嬉しかった。
「幸」
階段を半分ぐらい登ったころで、頭の上から声がかかる。前にも同じようなことがあった。
目線を上げるといつもの靴ではなく、下駄が見えた。
慌てて目線を上げると、浴衣姿の葉月が居た。
白のかすれ縞に合わせたのは黒の無地の帯。至ってシンプルな浴衣のはずだ。でも葉月が着るとこうも似合ってしまうのは何故だろう。
しかも白って、似合う人あまりいませんよ、葉月さん。
「顔を赤いけど、大丈夫? 見惚れちゃダメだよ」
甘い笑顔で手を差し出す葉月の手を取るのが精一杯で、顔はどんどん俯いてしまう。
「幸の方が可愛くて僕が見惚れそうだけど」
その言葉で湯気が出そうなくらに熱が篭った頭はパンクした。
持っていた巾着で葉月を殴ること数回。
バランスを崩し階段から転び落ちそうになるのを葉月の腕に支えられ、目の前に葉月の顔が近づき、慌てて逃げた出したのが次の出来事。
それを葉月は声を上げて笑って見ていた。
絶対にわざとだ。
階段を上がりきった頃には辺りはすっかり真っ暗になっていた。
8月の中頃になると暗くなるのが早くなる。それは北に位置するほど時間は更に早くなるもので、この地域は19時前には陽が暮れてしまうようだ。
「もう真っ暗だね」
「そうだね。花火まではあと30分ってところかな?」
花火の打ち上げは19時30分からだった。
それまでどうしようかなと、ここに来るまで考えていたけど、今はそれどころじゃない。
それは葉月の手がまだ私と握られているから。
いつもよりも距離が近い葉月の横顔を盗み見ようと顔を上げると、葉月と目が合った。
何でこっち見てんの⁈
「幸、浴衣似合うね」
「さっきも聞きました。そんなに褒めても何にも出ませんよ」
「だって仕方ないよね。可愛いんだから」
「恥ずかしいから、やめて‼︎」
今日の葉月はちょっと変だ。いやいつも変だけど、何ていうか空気が甘い。
変な勘違いをしてしまいそうな雰囲気に酔ってしまいそうになる。
でもこれなら言えるかな。自分の気持ちを正直に。今日という特別な日に、君に素直な言葉を。
「じゃぁ、そんな幸に僕からプレゼント」
私が口を開こうとした瞬間に目の前に差し出された小さな箱。
上には持ち手が付いているこの箱には見覚えがある。
「開けていい?」
「どうぞ」
慣れた手つきで箱を開くと、中にあったのは想像通りの物だった。
「ケーキ…」
「そう。何が好きか分からなかったから、イチゴとチョコにしてみました」
箱の中にはショートケーキと生チョコレートケーキが1ピースずつ入っていた。
「何で、ケーキなの? 確かにここには屋台はないけど、花火大会にケーキって変だよ?」
「だって、今日は幸の誕生日でしょ?」
言葉を失った。
今日8月14日は、確かに私の誕生日だった。でもそれを葉月に話したことはないはず。
何故、彼が…?
「ずっと昔から知っていたよ。幸」
「何で、名前まで…?」
「前から知っていた。僕は君をずっと見てきたから」
・・・
気が付いたときは、もうお墓にいた。
僕は生まれてすぐに死んだ。身体が弱くて保育器に入っても助からなかった。
生まれてすぐに入った冷たい石の中で、僕はずっと過ごすものだと思っていた。
未練なんて無い。未練を持つぐらいの時間を僕は生きていない。
でもまた生まれてくるための準備に入らないのは何故だろう。
それがすごく不思議だった。
周りの人たちはまた生まれるために上から呼ばれているのに僕にはその使いも声もかからない。
何故か分からない。でもそれを果たすら待った。
冷たい墓石にずっと一人。
僕の家の人は初めの二年だけ墓参りに来ただけで、それから全く来なくなった。
弟が産まれて、都会に引っ越したからだそうだ。
家族も来ないのなら、さっさと使いが来てくれればいいのにと何度も思った。
それなのに無常にも時間だけが只々過ぎていく。
そんなときに君と出逢ったんだ。
8月14日。
隣のお墓には沢山の人が訪れて掃除をして、花を生け、供物を置き、線香を上げて手を合わせた。
羨ましいと言う気持ちしかなかった。
沢山の人に迎えに来てもらってここに眠っている人は幸せだなと思った。
以前一回だけ姿を現して話しをしたことがある。歳をとった老人が一人眠る墓。その人は待っているとだけ言っていた。きっと妻のことだろう。
いろいろと考えていると一人の女の子がこちらを見ているのに気が付いた。
一瞬、目が合った気がする。
いや、僕の姿は見えていないはずだから気のせいだと思うけど。
その女の子は徐に箒を手にすると、僕が眠る墓地の前に来て掃き出した。
「幸、何してるの?」
「のんのさんここにいるんでしょ? じゃぁ、こっちもきれいきれいしなきゃ」
その女の子の行動に呆気に取られていた大人たちだったが、みるみるうちに笑顔になり全員で僕の墓を綺麗にしてくれた。そして花も菓子も線香も上げてくれた。
「幸、手を合わせて」
「あい! なむなむ」
思わず噴き出してしまった。
可愛いな。
小さい身体が自分の身長よりも明らかに大きい箒を振り回して綺麗にしようとする姿に、一生懸命に手を合わせる姿に顔が綻ぶ。
手を合わせて願っている様子を見守ると、ふいに声が聞こえてきた。
『しょーとけーきがたべたいな』
ショートケーキ?
確かに少女の声だった。
何でここでケーキが出てくるのか分からないけど、食べたらいいんじゃないのかなと思った。
次の年は別のケーキだった。
『ちょこのけーきでもいいよ』
だから何でケーキのことを僕にお願いするんだろ。理解出来ない。
でもその理由は暫く後に分かった。
女の子が年長になった年だ。
いつものように墓参りに来て、周りを綺麗にして線香と供物を上げる。
そして僕のお墓も綺麗にして行く。
女の子は手を合わせて心の中で囁いた。
『らいねんでみゆきもしょうがくせいになるから、もうおねがいことをするのはやめるよ。けーきももういらない』
それから少女はピタリとお願い事をするのを辞めた。『今年も暑いね』とかそんな無難ものになった。
何故だか分からない。
でも心にぽっかりとか穴が空いた気分だった。
彼女と僕しか知らない秘密がなくなったようで淋しかった。
彼女が8歳になった年の春に、彼女が大好きだった曾祖母が亡くなった。
桜が舞う中、黒い服を着た彼女はとても小さく見えて、今にも崩れ落ちそうな程を身体を震わせていた。
僕は彼女の頭を撫でた。
泣かないで、どうか泣かないで。君には笑顔が似合うんだ。
僕の掌は無情にも彼女の頭を掠めるばかりで、温もりなんて少しも伝わらなかった。
次の年、彼女は一人でお墓に来た。
「ひっこちゃん。逢いに来たよ」
泪を流しながら色々な話をする君を見て胸が痛んだ。
君の話し相手になってあげたい。笑わせてあげたい。頭を撫でてあげたい。その手に触れたい。
願望はどんどん大きくなったいった。
14日。お墓参りにきた彼女は、僕の前で手を合わせても何も言わなった。
伏せられた瞼から一粒の泪が伝う。
その悲しみはどうやったらなくなるの?
『おまえさんが、たすけりゃええ』
掠れた声が聞こえた。
振り返ると彼女が大好きだった曾祖母が腰を曲げて立っていた。
『今日はみっこの誕生日なんだぁ。それを祝ってやりゃええ』
誕生日。君が産まれた日。
だから君はケーキを僕に強請ったんだ。
墓参りの日にケーキを買って欲しいとは両親には言えなかったんだろう。
普段から大人たちをよく見ていた君だったから尚更。
そうか、やっと納得出来たよ。
『おまえさんも14日が誕生日だえ? おんなじだなぁ』
そうだ。僕も8月14日に生を受けた。
数時間しか生きられなかったけど、確かにこの世に存在したんだ。
君と同じ誕生日。
あぁ、もしかして君に逢うために僕はこの世に生まれて、今まで彷徨っていたのかな。
そうだったらとても、とても嬉しい。
『おまえさんにゃこれやんよ』
はいと差し出された掌には無数の光があった。とても温かいそれは、心までも洗われそうだった。
『そりゃぁ、みっことわたすのきもぢだぁ。そんで逢いにいげ』
どういうことか全く分からなかった。 ひっこちゃんが言うには、これは彼女とひっこちゃんの8年間の想い。
その想いの分だけその相手に逢える機会があるという。
それは夢の中に出てきたり、姿を現さずに危機から助けたりそういうものに使われるそうだ。
しかしそれを僕に渡すということは、もうひっこちゃんは彼女に逢えなくなる。
『わたすはいっぺー、みっこと遊んだかんなぁ。それに想い出もいっぺーだぁ』
あははと豪快に笑うひっこちゃんを見て僕も笑ってしまった。
それにずっと待たせたからと言ったひっこちゃんの隣にはあの老人が立っていた。
次の生には向かわず二人で彼女を見ている、あとは頼んだよと言って二人の姿は消えた。
分かったよ。今度は僕の番だね。
僕がひっこちゃんの代わりに君を守る。
次の年、人の姿になって君と初めて目が合ったときは心臓がどうにかなるんじゃないかと思った。
手首に触れたときもこれが人の温もりかと、ドキドキした。
僕は生まれてすぐに死んだから名前が無かった。君につけてもらった『葉月』は僕の大切な宝物だよ。
君と逢えるこの8月は本当に眩しいくらいに輝いていたから。
名前も幸だと知っていた。でも怪しまれたくなくて幸って言ったんだ。まぁ、十分に怪しまれていたけどね。
君に言ったたくさんの戯けた言葉はただの照れ隠し。
だって、そうしないと溢れてしまいそうだったから。
流石に胸をからかった日はひっこちゃんに殴られたけど。かなり痛かった。君の怪力はきっとひっこちゃん譲りだね。
君への想いは、油断していると口に出してしまいそうになる。
そんなことは許されないのに。
8月14日しか君とは逢えない。
それすらも無視して君に逢いたいという気持ちをどうにか押し殺していた。
想いはどんどん膨らんでゆく。
その想いを哀れに思ったのか、神様は逢瀬の時間を増やしてくれた。
14日だけだった時間は、13.14日と増える。それが3日、4日間と増えた。
初めて見た眩しい君の制服姿。
戯ける君に僕の胸は高鳴る。
君と同じ景色が見たくて、僕も制服を着てみた。
でも淋しさが募る。
どうして君の隣に居られないんだろう。僕は君と生きたかった。
コップの中から今にも溢れそうになる水のような僕の気持ち。
表面張力でギリギリ保たれていた気持ちが決壊しそうになるのを止めたのはひっこちゃんだった。
『もう残りがねぇ。逢うんは来年でおしめぇだ』
彼女とひっこちゃんの想いの残量が無くなっていた。
そうか、来年でもう君には逢えないんだ。
だったら最後は僕の想いをー…
『全部話して、さよならしてくる』
ひっこちゃんと老人は小さく頷いた。
目の前にはゆっくりと階段を登ってくる君の姿。
藍色の浴衣がとても似合っている。抱き締めしまいそうになる気持ちをどうにか押し留めた。
繋いだ掌から伝わる温もり。これで最後なんだね。
君の前には差し出したケーキの箱に君の顔は綻んだ。
その顔が見たかった。
これなら君に全てを伝えられる。
僕は徐に口を開いた。
・・・
葉月が口にする言葉は何処か夢心地で聴いてるような気分だった。でもそれは現実味を帯びていて、嘘ではないと瞳が告げている。
全てを話し終わった二人の間に流れた暫しの沈黙。
それを撃ち破ったのは大きな花火の音だった。
花火の明かりが葉月の顔を照らす。
その表情は今にも泣き出しそうな笑顔だった。
「幸に逢えて、僕はこの世に産まれた意味を持てたよ。幸に逢うために僕は産まれたんだ。そうだって今は思える」
「そんな…そんなこと言わないで。もうお終いみたいに言わないでよ」
「沢山の優しさをありがとう。僕は君のおかげて救われた。これからもずっと君のことだけを見守っていくから」
「だからやめてよ、葉月! いつもみたいに来年逢う約束をしよ⁈ 来年も一緒に花火見ようよ! どっかに出掛けたりしよう⁈」
「僕はこのお寺からは出られないから無理だよ」
「じゃ、ここでまた逢おう! 何もしなくても構わないから、一緒に居たいの…」
「幸…」
イヤだ。イヤだ。ダメだよ。
このままじゃ本当に葉月が消えちゃう。
そんなのイヤだよ。
だってまだ気持ちだって伝えていない。
「私は葉月のことが…」
紡ごうとした言葉は、葉月の優しく触れた唇によって奪われた。
触れているだけの唇が離される。
「8月14日の誕生花って知ってる?」
「誕生花?」
「そう。あれ」
彼が指差し出したほうをゆっくりと振り向くと、そこには小さい白い花が花火によって照らされていた。
「アンモビウム。小さくて目立たない花だけど、僕は好きだよ。幸と僕が産まれた日の花だから」
「…ホントに小さいね。可愛い」
「幸みたいに可愛いね」
「こんなときまで冗談やめてよ…」
「冗談じゃないから。幸は可愛いよ」
クスクスと笑う葉月の顔を覗き込む。葉月は笑うのをやめて目線が絡まった。
「花言葉は、不変の誓い」
「不変の誓い?」
「僕は君の幸せをずっと祈ってるよ。君の傍でずっと見守っている。そう誓うよ」
葉月の長い睫毛の奥に隠れている瞳が近づき、瞳が伏せられた。私も瞼を閉じて温かい息が唇にかかった。
次に来るはずの柔らかい感触はない。
目を開くと葉月の姿はどこにも無かった。
残ったのは激しく上がる終盤の花火。
眩しいくらいに辺りを照らしている。
今が暗かったらこの泪を隠すことが出来るのに。
葉月は最後まで意地悪だ。
最後まで自分の気持ちを伝えさせてはくれなかった。
なんて自分勝手な人なんだろう。
止めどなく流れる泪を拭う。
私は葉月の分まで幸せになるよ。
葉月が羨むくらいに幸せになってやる。
葉月が私の幸せを願いそれを誓うなら、私は自分が幸せになることを葉月に誓う。
それが葉月との最後の約束だ。
「葉月が好きだったよ」
最後に乱射された大きな花火の音にかき消された私の告白。
辺りが暗闇に溶け、静寂が満ちる。
『僕も幸が好きだったよ』
葉月の声が聞こえた気がした。
私の手の近くには食べられることのなかった二つのケーキと、アンモビウムの花が残されていた。
墓地に一人。
結局一人にしてるじゃん! とは突っ込まないで 笑
最後までお付き合い頂きありがとうございました!