陣/ユミ 1-2
『こちら東西戦争特別隊指揮、莱だ。聴こえるか?』
無線機の向こうから、感情のこもっていない声が聴こえた。
陣は無線機の向こうにため息が聴こえないよう、音を押し殺して息を吐いた。
「こちら東西戦争特別隊隊長、陣。聴こえております」
『よし、無線機に問題は無いな。少し前の型だから少し心配したが、問題なさそうだな』
「はい、異常ありません」
『わかった。それで陣よ、目的地には到着したのか?』
「はい、1時間前から街から800メートル離れたところから視察しております」
『そうか、わかった。まだ部隊は動かすなよ? 今回は王からの指示で動いてもらう。王からの指揮なんて滅多にない話だ。より迅速に、容量良くな』
「心得ております」
本当はやる気が無くて部隊を動かしていないだけだが・・・。
相手はただの女の子だ。さらうだけなら造作もない。しかし・・・。
『お前、間違っても命令に背くようなことはするなよ』
「・・・っはい?」
心臓が跳ね上がるような感じがした。
まさか、見透かされているのか。
『大丈夫ならいいんだがな。今日の朝のお前はどうもいつもと違ったからな』
「はあ・・・」
『たぶんだがそろそろ、王からの指示が届くと思う。それまでゆっくりくつろいでいろ。ただし、街の誰にも見つからないようにしろよ』
「承知しました」
『じゃ、いったん切る。ちゃんと覚悟くらい決めておけよ? では』
プツリと、ノイズの混じった声が途絶えた。
もう一度、ため息をつく。
どうも理解できない。いったい今回の戦力集めは何がそこまで大事なんだろうか。なぜ、こんな小さな子がこんなにも重要視されている?
「あーあ」
分からない。
俺はたまらず、その場へ寝ころんだ。
「隊長、指示は?」
隣にいた部下が俺に訊いた。
「指示が出るまで寝ころんでおけだってよ」
俺は目を閉じた。
聴こえるのは川の流れる音や虫の鳴き声。
この静かで平穏な音も――直に、悲鳴へと変わる・・・。
『王からの指示だ。聴こえているか? もう一度繰り返す。王からの指示だ。聴こえているか?』
「はい、聴こえております」
『今から指示を下す。これは王の言葉だ。王からの命令は絶対だ。心せよ』
「ハッ!」
『よろしい、今回はその娘の捕獲を優先とする。実力行使だ。街を焼き払え』
「・・・は?」
『街を焼き払え。そこから娘を見つけ、引きずってこい。娘の扱いには注意しろ。拒否した場合は致命傷以下の最低限の負傷で済ませろ。わかったな?』
「何を言って・・・」
『異論は認めない、とのことだ』
口に出そうとしていた言葉がさえぎられた。
街を焼き払ってまで連れてこい? そんな馬鹿な・・・。
「待ってください! 相手はただの子供です! 子供相手に何をそんなにムキになっておられますか! 娘を連れ去るだけでもその子は心に大変な傷を負う羽目になるッ! あんたたちが言ってることは無茶苦茶だ!」
『異論は認めないと言っただろう!』
「・・・!」
『今更何をほざいてるんだ、若者が! 前にも言ったはずだ! 子供子供って言っているがお前もまだ立派な子どもだと。いちいち文句を言うようなら二度とその口開かないようにするぞ!』
「・・・・・・」
『若者の分際で、調子に乗るな。この時代に生まれてきた方が悪いんだ。それぐらい君も分かっているだろう? この時代に生まれたときから、この娘の人生は終わってるんだよ』
拳を固く握りしめた。
何言ってんだ、こいつは・・・ッ!!
激しく怒りを感じた。いらついた。
『わかったならすぐにでも実行しろ。行動は迅速に、容量良くだ』
その瞬間、俺は無線機を床へ叩きつけた。
「あの・・・陣様・・・?」
部下たちが恐る恐る俺に近付く。
俺からの命令を待っているのだ。
「・・・・・・だ」
「はい?」
「くそったれな王とやらからの命令だ! 第1と第2部隊は家に火つけて焼き払え! 第3部隊はここで見張りを続けろ! そして残りの部隊で・・・・・・」
部下たちの顔がみるみる変わっていく。
今までにない俺の姿と命令のせいか、場に緊張感が走った。
「戦力の未来をぶっ壊して来い」