嘘か真か。
サバの日用、小咄。
坊ちゃん×使用人。
午前中、朝。
開口一番。
私の顔を見るなり、「好きだ、君と結婚したい」と真っ赤になった坊ちゃんから、不意打ち気味にそう言われた。
一瞬、混乱しかけたものの。
ちらりと坊ちゃんの肩越しに見える、カレンダーを見て気が付く。
――ああ今日は例の日だったか。
と、私は納得する。
こんなに真っ赤になるほど恥ずかしいなら、もっと別の「嘘」にすればいいのに。
「嘘」だとわかっていても、私の心臓は早鐘を打つ。
そしてよりにもよってなんでこんな「嘘」をつくんだろう。
だから、私はこう言った。
「ごめんなさい、坊ちゃん。私は他に好きな人が居るんです」
半分は嘘、そして本当。
「そ、そうか……」
面食らった顔をして、坊ちゃんはそう言って去って行った。
うーん。面白くない切り替えししちゃったかな?
まるで芸人さんが滑ったときのような白けた顔というか雰囲気だった。
そして、午後。
掃除用具を持った私は、廊下で坊ちゃんとすれ違う。
すると、思い切り気まずい顔をしてそらされた。
「スベったからって、そんなに避けなくてもいいじゃないですか」
「……」
「大丈夫ですよ、坊ちゃん。来年がありますから、来年頑張ればいいんです」
「……来年?」
「来年の嘘には、期待してますから!」
「嘘……?」
「ですよーもうちょっと、ソフトな嘘にしていただけると私も切り替えしやすいんですが」
そう言って一礼すると、私は坊ちゃんの横を通り過ぎるはずだった。
のに。
「……ちょっと待って」
「へ?」
腕を掴まれて、それは出来なかった。面食らう。
「どういう事だ?」
「どういう事だ? って……エイプリルフールは午前中までですよ?」
「!!」
一瞬驚いてから、坊ちゃんは耳まで真っ赤になった。
「昨日一晩中悩みぬいていて……今日が何の日か忘れていた」
そう呟く。
「へーそうなんですか……って。え!!??」
私は「え」を思い切り叫んでしまった。
だって、今日が何の日か忘れていたという事は……坊ちゃんのあの言葉は「嘘」ではなく「真」
「と、言う事は君の返事は……嘘だったという事だな、とすると」
――――ごめんなさい、坊ちゃん。私は他に好きな人が居るんです。
裏を返して読み返せば。
プロポーズの返事は「はい、私は貴方の他に好きな人はいません」
満足げに、そう結論付ける、坊ちゃま。
誤解です――いや誤解でもないけれど、誤解です。
幸せな笑みで、そのままぎゅっと強く抱きしめられて、私は――そう、口にだせなかった。