・サ終戦線異状ナシ
コズメック・ガッツィーにて。
「こうして全員揃うのも久しぶりだな」
「リアルインターネット老人会」
「言うなよ悲しくなるだろ」
ブライアン・ハルヒコ・リュウの三人が、暗黒要塞の中で話し込んでいる。
外側では敵がうようよしているが、ここは安全地帯だった。
「今日はアレックスのシナリオ完結modの、テストプレイってことでよかったんだよな」
「六人でダンジョン攻略とか何年ぶりだろう」
魔王とデイジーもいて、シナリオの開始を待ちわびている。
ここはサービス終了前の、最終決戦予定地。
本当ならここからラストバトルが始まり、そして終わるはずだった。
「えー、本日は皆様お忙しいところをお集まり頂きまして、誠にありがとうございます」
そして主催者兼攻略のリーダーとして、アレックスが開催の挨拶をし始める。
「いいよ別に。そういう集まりじゃないし」
「早よう中に入れてくれ、寒い」
「よせハルヒコ、おじいちゃんみたいだぞ」
しかし彼の姿を見るなり、三人はブーブー文句を言い出した。
大人しく朝礼を聞くような場所ではないのだ。
「やかましいぞ三バカ。まったくもう」
「えー、それでは早速ですが、本日実装されますmod『ヒーローの一番長い日』を始めさせてもらいます」
「あっこら」
そしてどこからともなく一人の少女が現れた。
黄色とオレンジ色をした、横縞のワンピースに金髪のお団子頭。
野良AIのヌルだった。
「俺がまだ挨拶の途中でしょうが」
「そこはもう端折っていいでしょ」
「お、俺の扱い……」
司会進行の座を奪われ、アレックスはプレイヤーの輪の中へと加わる。
「それじゃ早速始めようか! 今回は私が案内するけど、本来は出て来ないから注意してね」
彼女がそう言うと、ワープ用の床が出現する。
「順番に説明するね。まず最初に強めのザコ敵がいっぱいいるステージに行きます」
「定番だな」
「大事なことだぜ」
「一応機体のサイズは抑えて来たけど」
ヌルの言葉に三バカが反応する。
ハルヒコとリュウは以前のような、巨大な機体ではなく、飛行機と龍をモチーフにしたロボットになっていた。
でないと要塞内で体が引っ掛かり、身動きが取れなくなってしまうからだ。
「大丈夫! ちゃんと進められるよ!」
「アレックス」
「何だデイジー」
ヌルとブライアンたちの話す横で、デイジーは彼に声をかけた。
「あの時、あの子は結局どうなったんだい」
それは一年前の戦いが、どうなったのかという問いだった。
「ぬっさんは統合AIと融合したんだ。いや、文字通りの統合かな」
あの戦いの後、ヌルはアレックスの元に帰って来た。だがその様子は以前と異なっていた。
「人間を尊重するぬっさんと、人間を拒絶するようになった統合AIは、ぬっさんをベースにしながら、内部で共存してるみたいだった」
態度がグレた時のようにささくれており、こちらの話を聞かないことも増えた。
だが自分から話しかける場合、返事には反応を示す。懐く前の野良ネコみたいになったと、アレックスは語った。
「ぬっさんは正真正銘、人間抜きでいられる意思を持った」
「じゃあここにいるのは」
「ボランティアだよ。今までもそうだったが」
もしも給料を求められたら、幾らで設定をするべきか、彼はちょっとだけ気にしていた。
「あんたは、それでいいのかい」
「ああ。俺が口を出すことじゃないしな」
穏やかな口調で話す彼に、デイジーも小さく息を吐いた。
ヌルは人間にはならず、彼の魂は安息を得ていた。それはデイジーが、昔から望んでいたこと。
「アレックス」
「何だよデイジー」
「即売会が来週あるんだ。良かったら会おう」
「そんなオフ会のお誘いある?」
「いいじゃないか。お互いもう年寄りだ」
「まあ、気にすることは、もう無いか」
今の彼にはヌルがいる。自分たちという現実が、彼を傷付けることはもうない。
デイジーは満足した。
「そこ、私語は慎む!」
「大丈夫ちゃんと聞いてるから」
「ていうかアレックスは主催だし」
「もー。じゃあ出発するからね!」
ヌルがそう言うとワープ床を起動して、一同は要塞の奥へと突入する。
「この後は中ボスと連戦します。パーティで挑んだ場合、ボスとメンバーが一対一で戦い、他のメンバーは先に進みます」
「ここはオレに任せて先に行け! って奴だ」
「オレやりたい!」
「オレやりたい!」
「オレやりたい!」
聞いてもいないのに三バカがほぼ同時に同じ発言をする。遊び方は異なっても、好きなシチュエーションは同じだった。
「ちゃんと人数分あるから安心してね」
「ちなみにこっちの人数が足りない場合は?」
「その時は途中まで全員で戦えるよ」
「へー、良くできてる」
魔王が質問をして、ヌルの返答に感心する。
この中で一人だけ、大きさやデザインが浮いているせいか、あまり喋らない。
「つってもオレたち、自分の機体はレベルがカンストしてるから、そこまで苦戦はしないだろ」
「うむ、こっちとしてもそれが目的じゃないし」
エンドコンテンツ苦行になりがち説。
「んじゃ、クリア目指して突撃だ!」
「俺がリーダーなんだけど……」
ブライアンの掛け声と共に仲間たちは進軍。
一行は危なげなく最深部まで到達した。
『はっはっは、よく来たな帝国の勇士諸君!』
「なんだっけそれ」
「そういえばそんな設定あったな」
「もうすっかり忘れてるわ」
「俺もそうだったんで、台詞はテンプレだぞ」
三バカの呟きに、アレックスが頷く。
何も本格派を目指した訳ではないのだ。
そして最後の登場したラスボスは、人型ながらゴツゴツトゲトゲした真っ黒い巨大なロボットだった。
「オレと被ってる!」
「そりゃ魔王だし」
設定だけ存在していた魔王が、プレイヤーの魔王と被る。
このmodの制作者がアレックスとヌルであることを思えば、偶然でないことは明らかだった。
「それでこいつを倒せば晴れてゲームクリア、後は残党がいるとか言いながら、その後が残るよくある展開です」
「そういうこと、じゃあちょっと本気出すぞ」
アレックスがそう言うと、彼の機体が金色に輝き、手にした剣が反対側にも伸び、長大な両剣へと変化する。
「出た! アレックスの覚醒モード!」
「去年の決戦で役に立たなかった最終奥義!」
「ちがっ違わい! お前らが先にリタイアしただけで役に立ってたわ! 最後まで生き残ってたわバカたれ!」
事実ではあったが、そのせいで彼の全力を見た者はヌルだけである。
「せめて、安らかな眠りを。レクイエム!」
『グワアアアアァァァァーッ!!』
稲妻のエフェクトと共に、アレックスが剣を一閃すると、敵側の魔王が倒れる。
お約束の負け惜しみや、皆で平和を守り続けようというテンプレが入り、ささやかなエンディングロールが流れる。
「とまあこんな感じです」
「あんまり感動しないな」
「そこは一度サ終してるし」
どちらかといえば、それは故人を丁寧に埋葬し直したとでも言うべき感覚。
何にせよ、コズメック・ガッツィーの物語は終わりを得た。
「じゃあ最後はスクショ撮って解散な」
「学生の遠足かっつーの」
「はいみんな並んでー」
アレックスたちは街に戻ると、ヌルを入れた七名で写真撮影をした。
記念写真というほどでもないが、彼らは満足していた。
「じゃ、オレたち先に帰るわ」
「またな、アレックス」
「じゃあな」
そしてブライアンたちが帰り。
「私も帰る。メビウスを待たせているからね」
次にデイジーが離れていく。
「デイジーさん、その、お世話になりました。本当にありがとう。お礼、言ってなかったから」
「こりゃ驚いた。どういたしましてお嬢さん。私こそ、アレックスを支えてもらった。お互い様さ」
ヌルの言葉にデイジーは優しく声をかけた。
尊重と感謝を伝え合い、そっと離れていく。
「メビウス共々、これからも仲良くしてやっておくれ。また会おう、ヌル」
そうして彼女の名前を呼んでから、デイジーもログアウトした。
「なあアレックス、これでよかったのか?」
「どうしたいきなり」
「とぼけるな、ヌルのことだよ」
そんな彼女たちを眺めつつ、魔王が呟く。
「……データセンターなんて物は維持できん。十年も経たずに壊れるか、壊されるか」
仲間の疑問に、アレックスは冷静だった。
「消費電力も多い。どの国も総量規制をかけるだろう。人間とセットの内は、AIに未来はない」
悲観的というよりは、希望的な判断材料が深刻に不足している。
彼は世の中を客観視した時、出て来た答えがこれだった。
「俺たちから独り立ちさせることが、ぬっさんたちには必要だったんだ。そしてこれからのAIにも、同じことが言える。だから、これでいいんだよ」
「そうか。名演説乙」
「茶化すな、早よ帰れ!」
「はいはい、またな、アレックス」
そう言って、最後に魔王も帰った。
後には彼とヌルだけが残された。
「みんな行っちゃったね……」
「ああ。でもその内会うだろ」
「そうだね」
「これからどうしようか」
「ぬっさんも、好きに出かけたらいいじゃん」
「まーたそういうこと言う」
アレックスの提案に、ヌルが非難がましく声を上げる。
いつも自分を気遣って、その影で孤独の古傷を撫でる、寂しい人間。
「私はこのゲームのGMを辞める気は無いし、これからも人間の学習は続けていく必要があるんだよ」
「ほほう、それで?」
終わりを迎えた空間。
ダラダラと過ごして、することもなく、目新しいこともない。そのはずなのに。
それが楽しくて。
「だからもう少しだけ、アレックスの側にいてあげる」
「……そっか。ありがとう、ぬっさん」
二人の時間は、まだまだ終わりそうには無かった。
<完>




