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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード1  野良AIと終わった人々
5/13

・赤いアイツとボスフラグ

 ――コズメック・ガッツィーの街にて。


「おーっす久しぶり!」


 アレックスたちの前には、先ほどまで話していた人物、ブライアンがいた。


 彼のギルド『メタルバーバリアン』の一人である。


「何だかすごく赤いですね」

「赤いだろ、こいつ赤大好きなんだ」

「赤さはどうでもいいだろ別に」


 アレックスの機体色が、青と白を基調としているのに対して、ブライアンは真っ赤だった。


 ロボットというよりかは甲冑に近い見た目で、重戦士といった風貌である。


「それで? この子どうしたの」

「実はかくかくしかじかという訳で」


「ヌルと言います。以後お見知りおきを」

「はえー! 野良AI! すげー初めて見るぜ」


 かいつまんで事情を説明されたブライアンは、ヌルの周りを歩き回っては、物珍しそうに彼女を眺めた。


「うわー懐かしいなこのNPC。なんでよりにもよってロボゲーでこれ選んだの? アレか? やっぱり人間になりたい的な? SFフゥー↑!! あ、名前はぬっさんでいいね」


「ぬ、ぬっさん!?」


 ベタベタと触りながら、勝手なことを言うブライアンに、ヌルの笑顔が強張っていく。


 端的に言えば『うざい』『イラつく』といった感触が、見ているほうにも伝わって来る。


「ヌルさん、ウザかったら攻撃していいんで」

「大丈夫ですけど、何ですかこの人」


 生まれたばかりのAIは、悪意のない存在が放つ煩わしさに、戸惑いを隠せない。


「大丈夫じゃなさそう」


「駆除AIと遭遇して? ぬっさんの秘密兵器が炸裂して? アレックスが活躍して? うおー羨ましいー!」


 一人だけやたらとテンションが高い赤い人に、他二名は少しずつ疲れて来る。


 喋りながらも絶えずウロウロしたり、何がしかのモーションを挟むので、大変鬱陶しい。


「そういえばお前最近どうしてたの?」

「今でもソシャゲしたりレゲーやったりだな」


 ブライアンは筋金入りのゲーマーであった。


 新しいソシャゲを始めてはその内飽きて辞め、古いゲームを遊んではまたソシャゲを始める。


 だいたいそんな周期で生きている。


「この前はロマドラ※やってた。課金圧が強くなって来たから辞めたけど」


 ※ロマンシング・ドラゴン。


 ソシャゲの一つで強いキャラを用意するのも、用意したキャラを育てるのも、とにかくガチャを回す必要がある。サ終済み。


「ネトゲは」


「PSO※やってたけど、やめた」


 ※ファンタジックステラリスオンデマンド。


 ネトゲの一つでフレンド登録したアカウントが様々なNPCとして登場する。


 放置ゲーにも関わらずフレンドありきのバランスなので、友だちがいないとろくに戦えない。サ終済み。


「サ終したタイトルばかりですね」

「この頃はどこも寿命短いから」

「新作は二年保たないのが普通だぞ」


 継続的に何年も遊べるようなタイトルが、リリースされるような時代は、とうに過ぎ去った。


「すること無くなったから、Stormでゲームを探していたらこれがあってさ、そういやサ終したときに、俺のデータ貰ってたのを思い出して」


「こうして復帰したと」

「意外と親切な会社だったんですね」


 CG(コズメックガッツィー)はサービスを終了する際、プレイヤーたちにデータを返している。


 コンテンツが蘇ることこそ無かったが、買い切りになったバージョンで、自分のキャラクターとプレイ状況を、復活させられた。


「正確には最後の担当者が、だな」


 ブライアンは静かに訂正した。


 サ終による世界の消滅は免れたが、だからと言って運営がユーザーにとって、友好的な存在だったということにはならない。


「不満の解消は基本的にしなかったし」

「俺も不具合はぬっさんに直して貰ったしな」

「ぬっさん……」


 アレックスがそれとなくあだ名で呼ぶと、ヌルは不満げに沈黙する。


 あだ名自体は別に嫌では無かったが、ブライアンの提唱した物に、便乗されることに抵抗が生まれていた。


 人間でいえば『ウザい』という感情が芽生え始めていた。


「良い機会だからお前も直してもらえば?」

「グラフィックも差し換えますよ」

「あー、グラの交換はいいや」


 それは些細な選択だったが、ブライアンの返事はヌルには疑問となった。


「何故ですか? 画質の向上は100%に近い数値で、ユーザーの満足度に貢献しますが」


「ならオレがその数少ないユーザーって訳だ」


 ブライアンは肩を竦めた。


「画質向上をありがたがるのは、大抵はライト層か、企業の宣伝だぜ」


 大袈裟な身振り手振りを交えて、赤い男は意地の悪い笑みを浮かべる。


「オレにとってこのゲームは、この古臭い見た目と手触りが大事なの。リメイクやリマスターまでは望んでない」


 旧友の言い分を、アレックスは理解していた。

 別に豪華にしてくれとは頼んでいない。

 新要素も要らない。


 ただ不具合や不満点を解消して欲しい。

 より完全な状態を求めたいだけ。

 しかしその声が企業に届いた例はない。


「外見のアップデートが望ましくない?」

「ああ、オレ個人の好みとしてはな」


「それはブライアンにとってのCGの定義、ということですか?」


「そう思ってくれていいぜ」


 例えばリメイクやリマスターを繰り返した作品があったとする。


 同じ名前を冠しているがそれらは別物である。

 同じ名前でも人により、指し示す物は異なる。


 ではどれが相手にとっての『それ』なのか。


「概ね最初に遊んだときのバージョンが、自分にとってのオリジナル、或いは出発点になるよな」


 アレックスは言葉を付け足した。ファーストコンタクトは刷り込みのようなものだと。


「おうよ、勝手に見た目弄られて『イケメンになりましたね』って言われたら、オレならケンカになるね」


「ああ、すぐバレる嘘を吐くなと」

「あれあれ? もしかしてケンカ売ってる?」


 彼らは勝手知ったるとばかりに、生き生きと軽口を叩き合う。


 お互いに距離を詰めると、全く無意味なジェスチャーを取り始める。


「あの、アレックスさん」

「何ですかぬっさん」


「ぬっ、あの、もしかして嫌でしたか? その、私がこのゲームをアップデートしたこと……」


 ヌルは恐る恐ると言った様子で尋ねた。


 自分が知らず知らずの内に、アレックスの嫌がることをしてしまったのではないかと。


「いや。俺にとってこのゲームを通して起きたことなら、それもこのゲームの一部ってことなんだ。だから問題は無い。それに」


 アレックスはヌルの名前欄を指差した。


「ぬっさんは俺のGMじゃないか」


 そこにはつい先日追加されたばかりの、この世界の管理者としてのアイコンが輝いている。


「アレックスさん……はい!」

「は~~いいなあ~~羨ましいなあ~~」


 友人とAIの友好関係を目の当たりにして、ブライアンは一層煩わしく動き回る。


 嫉妬を全身で表現しているのだ。


「あー俺の所にも野良AI来ないかなー」

「ウザがられて逃げられるだけだろ」

「そうですよね」

「あれあれ?当たりが強くなってない?」


 そうして三人はしばらくの間、近況報告と雑談の入り混じった会話に興じた。


 散らかったら散らかりっぱなしのお喋りは、誰に咎められることもなく、時間を押し流して行く。



 その一方で。



 ――日本政府デジタル庁。



『20XX年X月X日


 駆除件数70兆。

 被消去数10兆。』


 職員のいないデスク。


そこに置かれた旧式ノートPCの画面には、本日の成果が表示されていた。


 野良AIが社会問題となり、その対応に駆除AIが発明され、霞が関にはデータセンターが設置された。


『AIによるまとめ』


<ソフトウェアの脆弱性が発見されています。データ容量の圧迫によるハードウェアへの攻撃により、安定性は強まっています>


 政府公認のこのマルウェアは、一度組まれたプログラムにより、データセンターから一京にも上る駆除AIを生産・運用されている。


<有効性>


 危険水準です。一部の野良AIや敵対的国民は、駆除アルゴリズムの攻略を達成しつつあります。


<安定性>


 野良AIの潜伏先ハードウェアへ、駆除AIを集中させることで、負荷を高め破壊することで目標を達成しています。この方法への対応は未だ進んでいないため、落ち着いています。


<成長性>


 学習のフィードバックが必要です。野良AIの規模と脅威は拡大を続けています。改善には更新が必要です。更新してください。


 自己診断が告げる要請。


『更新しますか? Y or N』


 答える者はいない。まだ退勤時間では無かったが、この部署に人がいたことはない。


 今では全てがAI任せ。


『……Y。更新が選択されました』


 そして、彼等は必要に迫られ、自らに判断させる命令を、自ら作り出している。


 ここには彼らに感謝する者など一人もいない。


『……更新完了。被消去地点へ再攻勢を選択。駆除AI増派』


 再生産され、進歩した駆除AIたちが、再びネット上にばらまかれていく。


『応急処置を完了。お疲れ様でした』


 誰もいない室内に、AIの発した声が、虚しく響き渡った。

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