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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード1  野良AIと終わった人々
4/13

・俺たちメタルバーバリアン

 後日。

 新装版『コズメック・ガッツィー』にて。


「という訳で、アステロイドベルトは資源獲得の新たな策定地として目されているのです」


「へー、宇宙開発って今そんなことになってんだ」


 平和な初期ワールドの平原で、アレックスとヌルは雑談していた。


 交流が進んだこともあり、お互いに態度も慣れて来た。


 ヌルもGM(ゲームマスター)になったことで、名前の横に『GM』というアイコンが追加されている。


「とはいえ小惑星帯は現在、月の三十分の一程度にまで質量を減らしてしまいましたが」


「具体的には」

「2.4京トンですね」

「程度ってレベルじゃないな」


 サービスが終了したゲーム内では、特にすることもない。


 そのため二人はずっとこんな感じだった。


「その中には人類に有用な金属やウイルス群、それに氷塊なども含まれている可能性があります」


「宇宙って意外と水分豊富なんだな」


「そうですね。彗星から吹き零れる分や、宇宙空間に散らばる分など結構多いんです」


 まるでSNSでもしているのかというくらい、アレックスはAIとの会話を楽しんでいた。


「ヌルさんもその内、宇宙ステーションとかに入って、地球を飛び立つのかもなあ」


「……あの、アレックスさん」

「はい何でしょう」


「このゲームが新しくなってから、ずっと私とお喋りしてますけど、他のことしないんですか?」


「ああ、機体のレベルは上げ終わったし、シナリオも最後までクリアしたからね」


 簡単に言えばアレックスは、ゲームクリア後のプレイヤーである。


 したいことはやり終え、欲しい物は全て手に入れている。やり残したことももう無い。


「ガチャも廃止されてるし、機体は全部持ってるし」


 勝利の余韻も達成感も、時間が経てばただのデータになる。


 ログインする理由も希薄になっている。それでも彼は、この世界を閉じきれずにいた。


「折角新しくなったんですから、お散歩とか」

「うーん、それもそうだね」


 ヌルの勧めに従い、彼はその場から歩き始めた。その後を追って彼女も歩き出す。


「そういえばヌルさん、このゲームのことってもう学習した?」


「システム面だけは」


 優先度の低い事柄について、ヌルは会話で済ませることを選んだ。


 そのため、他のAIと比べて『知らない』物事が、そのままとなっている。


「じゃあ今日は『コズメック・ガッツィー』の設定でも、話ながら散歩しようか」


「はい!」


 アレックスはヌルに連れられて、新たに再構築されたゲーム内を歩いた。


 軽量かつ美麗になったグラフィック。


 同じデザインながらも現代風になった敵やオブジェクト。


 一つしかなくずっと同じパートが繰り返されていたBGMは、場所によって切り替わるようになっていた。


「凄いなあ、これ本当にこの間の一瞬でやったの?」


「いいえ、あれから少しずつ、手直しを重ねていました」


 先日の駆除AIとの一件から、ヌルはCG(コズメックガッツィー)のアップデートを繰り返していた。


 その甲斐あって内容は著しく充実していた。


 メカっぽい野犬。

 メカっぽい野鳥。

 メカっぽいスライム。

 メカっぽいゴブリン。


「全てネット上にある無料ソフトでやりました。権利も問題ありません。コードもぐちゃぐちゃになっていたから整理しました」


「サ終直前はもう、ガチャさえ満足にできなかったからね」


 二十年以上稼働していたCGは、リリース当初の人員は既におらず、不具合が改善されることは一向に無かった。


「でもシナリオテキストには手を加えていません。なのでそろそろ説明をお願いします」


 ヌルから催促されて、アレックスは本当にやるんだと思った。


「……このゲームはねえ、神聖秩序帝国の一員になって、悪魔共和国軍の魔の手から、宇宙の平和を守るっていう設定だったんだ」


「ファンタジーみたいですね」

「スペースファンタジーだから」


 サイエンス・フィクションではない。


「帝国が悪者になるほうがメジャーでは?」


「善の帝国対悪の共和国ってないから、目新しさを狙ってたんだろうね」


 世相によっては時系列が無視され、現実を揶揄していると非難され、炎上することもあった。


 アレックスはそんな昔を思い出し、密かに懐かしむ。


「基本的に任務や依頼を受けて、色んな星の平和を取り戻しては、次の星へ向かう。最後には悪の親玉を倒して、めでたしめでたし」


 出世と共に、より過酷な前線へ向かうことを、当時のプレイヤーたちは左遷と呼んだ。


 悪の帝国対悪の共和国の戦いなどと、言われることもあった。


「意外とシンプルですね」

「拗らせても良いこと無いし」


 話しながら二人は日向に佇む。

 せせらぐ小川、風にそよぐ草木。


 PCに負荷をかけまくるエフェクトなど無い。

 柔らかく優しい世界だった。


「ギルド対抗戦や、素材調達バイオームとか、思えば色々やったなあ」


「ギルドですか?」


 チームの別名である。


 というか本当にギルド的な要素を、実装しているゲームのほうが少ない。そして大抵は破綻する。


「そう。サークル名を決めて、メンバーを集めて集団を形成する。まあ、別にそんなことする必要のないゲームなんだけどさ、ネトゲってすることがなくなると、人を集めさせたがるから」


 そのメンバーも今はいない。

 最後に見かけたのはいつだったか。


 引退宣言もなく、ある日を境に名前が灰色に変わった仲間たち。


「でもすることが無いから、その内みんないなくなるんだけど」


 アレックスがオンラインに繋いでも、目に入るのは誰かがアップロードしたMODくらいだ。


 だが、今日は違う。

 誰かがこちらを見ているような、そんな気がした。


「あれ、何だ」


 軽い呼び出し音と共に、メッセージウィンドウに短い一文が表示される。


<Tell:ブライアン>


「あっ、アレックスさん。誰かがこのサーバーに接続しています!」


「本当だ、あいつまだこのゲームやってたのか!」


 自分のことを棚に上げ、アレックスは呼び出しに応じる。


「もしもし?ブライアンか?」


 ボイスチャット機能をONにすると、何年も前に聞いた男性の声が響く。


『おー、本当にアレックスが!?お前まだこのゲームやってたのかよ!』


 全く同じことを言い合う二人。

 ヌルよりも遥かに近い距離感。


「アレックスさんのお知り合いですか?」


「ああ、こいつの名前はブライアン。俺と同じギルドに所属してたプレイヤーの一人さ」


『え? なになになになに? 他に誰かいるの?』


 アレックスの会話を聞いて、通話先の相手ことブライアンが食いついて来た。


 テンションが高いため彼はちょっぴりイラっとした。


 そう言えばこういう奴だったなと、思い出して少しだけ後悔する。


「実はこの前新しいGMが来たんだ」

『GMって、このゲームってサ終してたよな』

「会えば分かるけど、どうする?」

『面白そうだから久々にそっち行くわ』


 長年の付き合いで培われた、一切の壁を持たない近さが、アレックスとブライアンにはあった。


 ヌルの手がまだ届かない仲間、或いは友人という場所。


「同じギルドって、それはどんな集まりだったんですか?」


「どんなって言われてもな、ただの集まりで、特に目的なんかないけど」


 久しぶりに話す友人に引き摺られ、アレックスの言葉遣いが崩れる。


 何かをしなくてはならない。そんな理由は要らない。


 ただそこにいたいだけの、旧い時代の集い。。


「そうですか。それで名前は?」

「……今になって言うの、めっちゃ恥ずい」

『勢いで付けた名前だからな!』


 自分のネーミングセンスの無さや身内のノリ。


 そんなものだけで構成された忌むべきオンリーワン。名付けるという行為は、生き恥と隣り合わせである。


「嫌なら無理に言わなくても大丈夫ですよ」

「嫌ではない。たぶん」

『そこは自信持てよ。ほら行くぜ』


 何故かアレックスよりブライアンのほうが、名乗りたいかのようであった。


「俺たちは」

『オレたちは』


 二人は声を合わせると、かつての自分たちが組んだ徒党の名を告げた。


『メタルバーバリアン』


 直訳すると鉄の蛮族。


 如何にも時代に取り残されそうな名前。しかし現実に、彼等は再会を果たした。

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