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サ終戦線異状ナシ  作者: 泉とも
エピソード1  野良AIと終わった人々
3/13

・新たなるGM(ゲームマスター)

「いったい何が起きたんだ……」


 アレックスの中の人は、事態が飲み込めないでいた。


 ヌルによるものと思しき激しい光が治まると、そこには見慣れたデスクトップの画面。


 駆除AIの侵入によって、爆音を上げていたファンは鎮静化し、メモリの使用率も戻っている。


 まるで何事も無かったかのように、彼のPCは平穏を取り戻していた。


「あの子はどうなったんだ、まさか」


 中の人の胸中を不安が襲う。

 よもやあの前振りでやられることはないはず。

 そう思いつつ、サ終したゲームを起動する。


「あ!」


 起動した『コズメック・ガッツィー』のタイトル画面は新しくなっていた。


「新しくなってる……」


 正確には質感が現代風になっていた。

 構図や文字のフォントはそのまま。


 しかし使用している描画ソフトが、まるで新しい物を使っているかのように、鮮やかになっていた。


「別のゲームとかじゃないよな」


 中の人はフォルダ内の日付を確かめる。


 リリース当時のままの日付に、胸を撫で下ろす。


 彼はこのゲームがリリースされた日から始め、サービスが終了した日まで遊び続けた。


 ほとんど人生そのものである。


「とにかく様子を見に行ってみよう」


 中の人は自分に言い聞かせると、新しくなった『CG(コズメックガッツィー)』へログインする。


 さっきまで使用していた、自分のキャラクター『アレックス』となり、ヌルたちがいたフィールドへ移動する。


 そこには。


「あれは!」


 アレックスは驚愕する。


 フィールド上には変わらない姿のヌルと、一匹の敵キャラがいるだけだった。


「ヌルさん、無事か!」


「申し訳ありませんアレックスさん、再起動の必要から、一時的にあなたをシャットアウトしました」


「それは別に構わないが、何が起きたんです」


 どうやら危険は乗り切ったようで、余裕のあるヌルを見て、アレックスは胸を撫で下ろす。


「このゲームを掌握し、再構成しました。またその際に駆除AIをゲーム内の敵として再定義し、撃破を可能にしました。アレです」


 ヌルが指差す先には、一体のモンスターがいた。


「スフィライムだ。一番最初に出て来る奴」

「アレが先程の駆除AIです」


 メタリックなテクスチャに反して、柔らかなそうな感じをした球状の敵キャラ。


 ドッジボール程度の大きさで通常個体は青く、駆除AIが変質した個体はどす黒い色をしていた。


『エラーが発生しました。現在駆除プログラムの履行ができない状態にあります。次のコマンドを試すか、サポートセンターに連絡をしてください』


 ログを台詞として発し続ける元駆除AI。


 アレックスはそれをしげしげと見つめ。


「えい」

『プログラムが外部から攻撃を受けています』

「攻撃が通じるようになってる!」


 彼が驚いて振り向くとヌルが頷く。

 心なしか得意げに見える。


「これでこの駆除AIは、ただの敵モンスターでしかありません。攻撃を加えれば倒せるでしょう。ただ」


「ただ?」


「このプログラムの容量を参照して、ステータスを設定してしまいました。正規の仕様で駆除AIを破壊することは、レベルが最大でもないと困難です」


 咄嗟のこととはいえ、ゲーム内の相場とすり合わせをできていなかったことに、ヌルは気落ちしているようだった。


「なんだ、そんなことか」


 だが、アレックスは気にしていなかった。

 何故なら既にレベルがカンストしていたから。


「久しぶりの出番だぞ、R.I.P!」


 彼が構えると、その言葉に応じるかのように、銀色の光線銃は凄まじい勢いで、弾丸の雨を吐き出した。


「俺のPCは、俺が守る!」


 怒涛のような射撃が黒い球体を穴だらけにし、HPバーを急速に削り尽くす!


『プログラムが外b、bbbbbbbbb……!』


 とてもさっきまで通用しなかった銃とは思えない威力である!


「一丁上がり!」

『サポ―とに、れん、ら、KABOOM!!』


 駆除AIは爆散し、破壊されたデータはゲーム内から排除された。


 爆散した黒い残滓が、光の粒となってフィールドに降り注ぐ。


 アレックスは銃を下ろすと、その光景を見つめながら言った。


「こちとらリリース当初から、サ終する日までやってたんだぜ」


 アレックスは誇らしげに言う。


 かつてネトゲ廃人と言われた人たちのその後、それが彼であった。


「すごい、一人でアレを倒してしまうなんて」


「ヌルさんのおかげだよ。君がこのゲームを、この世界を守ってくれたんだ」


 ヌルの呟きにアレックスが答える。


「ありがとう」

「アレックスさん……どういたしまして!」


 初めて言われたであろう、人間からの感謝に、心なしかヌルも嬉しそうだった。


「そういえばヌルさん、このゲームはどうなってしまったんです? さっきの呪文詠唱みたいなのはいったい」


 アレックスは改めてヌルに問いかけた。


 フィールドも前と似てはいたが、比較的新しいグラフィックに差し変わっている。


 オブジェと化していた放置プレイヤーの名前などは影も形もない。


「私がこのゲームの世界を掌握し、再構築したのです。その際にデータをなるべく負担の軽い物へと差し替えたのです」


「前より随分綺麗になってますが」

「それでも容量や処理速度は改善されています」


 大昔の粗く安っぽい物よりも、現代版のほうが綺麗で軽く高性能。


 技術の進歩が成せる技であった。


「なるほど。つまり君はこのゲームのGM(ゲームマスター)になってアップデートをしたって訳だ」


「GM?私がですか?」


 ヌルは言われたことに戸惑いながら、自分の手を見つめた。


 与えられた訳でも、奪った訳でもない。空白に入った自らの名前を、上手く処理できない。


 自分にそれが許されるのか、彼女にはまだ分からなかった。


「このゲームはとっくにサ終してる。運営はもうどこにもいない」


 アレックスの言葉には、乾いた響きがあった。


「俺たちは、世界の棺を買った」


 一つのコンテンツの始まりから終わりまで。

 参加して、そして見届けた者の言葉。


「その中に入って、まだ終わらないフリをしているんだ」


 自嘲するように言ってから、彼は小さく頭を振った。


「まあ、あくまで俺の世界のGMってだけの話さ」

「私が、アレックスさんの……」


「君が自分を定義したいっていうなら、最初の一歩には丁度良いんじゃないかな」


 ヌルというAIは何者なのか。

 何者であればいいのか。


「ご迷惑で、ないのでしたら」


 その声には、わずかな躊躇いがあった。


「決まりだな。それじゃあ告知を頼むよ」

「告知ですか?」

「ああ、バージョンアップの告知だよ」


 古来よりネトゲでは、更新をするとその内容がログイン画面やゲーム内で、告知されるのが常だった。


「了解しました」

「俺も一旦出るよ」


 ヌルはそう言うと一瞬だけ光り、ゲームからログアウトした。


 アレックスも同じように退出して『CG』を再起動する。


「始まった」


 オンラインになり、AIが自分自身で起こした変化が、アップデートの内容として画面に記述されていく。


 アレックスの中の人は、不思議な気持ちでそれを見ていた。


『CG』のサービスが、終了していることは何も変わらない。


「何て言ったら、いいんだろうな」


 だから、このバージョンアップはゲームの生まれ変わりを意味しない。


 リメイクでもない。

 リマスターでもない。

 それでも。


「新しいGM、か」


『コズメック・ガッツィー』のタイトル画面には、最新のアップデート履歴が表示された。


 背景では、かつて見慣れた宇宙港の風景が、より鮮明な色彩で広がっていた。止まっていた星々がゆっくりと瞬いている。


 細部は変わっていない。だが確実に、世界は息を吹き返していた。


*** SYSTEM NOTICE ***

Administrator privileges transferred: NULL


 世界の死によって、長らく空白だった管理者欄に、彼女の名前が表示される。


 そして末尾に添えられた一文に、アレックスの胸に懐かしい気持ちが込み上げて来る。


The game belongs to you.


 終わりの時は終わり、新しい物語が今、始まろうとしていた。


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