5.予想外の展開
そろそろ前書きのネタというかオチが浮かばなくなってきました。
こんな調子じゃ先が思いやられますが、気にせず本編をよろしくお願いします。
サービスエリアで食べそうで実はあまり食べないものといえば?
午前一時、おれは車を走らせていた。
深夜の高速道路は、驚くほど静かだった。たまにトラックを追い越していくくらいで、乗用車はほとんど見かけない。
指定されたサービスエリアに到着したのは、午前一時二十分。
大型車の影に黒いスポーツカーを滑り込ませて車を停め、エンジンを切った。
周りを見回す。トラックが数台、仮眠を取るように停まっている。
その中で、街灯の光を不吉に反射する一台の車が、おれの数台隣に停まっていた。
黒いドイツ製のクーペ。ボディは磨き上げられ、ローダウンされた車高が攻撃的な印象を与える。マフラーは明らかに社外品で、エンジン音が漏れ聞こえてくる。
『俺は俺だって分かるような車で行く』
冴木の言葉が脳裏をよぎるが、その車からは人の気配が感じられない。
考えている間に、時計は午前一時半を指した。
おれは無線機を手に取った。
「こちら陽介。聞こえるか?」
ザリッ、というノイズの後、冴木の声が返ってきた。
『ああ、聞こえてる。状況は?』
「サービスエリアに到着した。周りには特に変わったことはない」
『了解。二時まで待機しろ。動きがあったら、すぐに知らせろ』
「わかった」
無線を切る。おれはシートに深く沈み込み、本線を見つめた。
時間が異様に長く感じられる。一分一分が、まるで一時間のようだ。
午前一時五十八分。
本線のカーブの先から、規則正しく並んだ光の列が現れた。
「来た......」
心臓が早鐘を打つ。おれは無線機を握りしめた。
ヘッドライトの列が近づいてくる。
先頭は、威圧感を放つ黒の護衛用セダン。続いて、重厚な音を立てて走る暗緑色の軍用トラック。一台、二台……三台。
「三台? 話と違うぞ」
最後尾にも護衛車。計五台の鉄の塊が、時速八十キロほどでPAの前を通過していく。
そして、その近くを──場違いなほど目立つオレンジ色の回転灯を回しながら、道路公団の黄色い車が走っていた。
「まさか......冴木?」
一瞬、そう思った。
確かに、あの車なら目立たずに車列に接近できる。公団の車なら、誰も不審に思わない。
おれは無線機を口元に持っていった。
「こちら陽介。目標確認。護衛車が二台、軍用トラック三台を前後に挟むように走行している。それと、公団の車が近くを走行中」
『三台? クソッ......了解した。どのトラックに積まれてるかは分からないな』
「わからない。全部同じに見える」
『仕方ない。予定を変更して行く』
冴木の声に、僅かな緊張が滲む。
車列は、サービスエリアの前を通過していく。
その時──
おれの隣に停まっていた、あの黒いクーペのエンジンが爆発的な咆哮を上げた。
ブォォォンッ!
爆音が夜の静寂を引き裂く。
「なっ......!」
タイヤがアスファルトを削り、ゴムが焼ける白煙を上げて、その黒い影は本線へと弾け飛んだ。
おれの乗る車が衝撃で揺れるほどの加速。
黒い影は瞬く間に車列に追いつくと、最後尾の護衛車へ容赦なく体当たりを食らわせた。鈍い金属音がPAまで響く。護衛車がバランスを崩す隙に、そのクーペは狂った獣のようにトラックの間を縫い、先頭を狙って強引に割り込んでいく。
「おい、冴木!おれの隣にいたなら、最初からそう言ってくれよ」
おれは無線機に向かって叫んでいた。
『は?何言ってる?俺はまだ追いついちゃいないぞ』
「何だって?おれのいるPAから黒いクーペが車列に突っ込んでいったぞ」
無線機から冴木が舌を鳴らす音がした。
『構うな。そいつは同業者だ』
同業者だって?
なんなんだよ、あいつは……!
おれは震える手で双眼鏡を覗き込んだ。
謎のクーペが、荒っぽい蛇行運転で車列を切り裂く。
護衛車が銃撃しているのか、火花が夜の闇に散る。
だが、その暴力的な乱入者をあざ笑うように、追い越し車線を「光の矢」のような速度で突き抜けてくる別の影があった。
低い、地を這うような真っ青なシルエット。
「冴木……!」
『俺は俺だって分かるような車で行く』
確かに、あれなら一目で分かる。
冴木の車は、先行して暴れていたクーペの挙動を一瞬で見切った。
追い越しざま、冴木はターゲットではなく、邪魔な「黒いクーペ」の後輪側面に、自車の鼻先をミリ単位の精度で接触させた。
ピットマニューバー。
高速で横から突かれた黒い影は、制御を失って独楽のようにスピンを始め、激しい火花を上げながら前を走っていた護衛車とトラック一台を巻き込んで中央分離帯へと激突、大破した。
「……嘘だろ」
おれは絶句した。
そのまま冴木の車は、混乱で急ブレーキをかけた車列の先頭へ回り込む。並走していた道路公団の黄色い車が、まるで示し合わせたように斜めに本線を塞ぎ、後続のトラックを強制的に停止させた。
公団の車は、冴木の仲間だったのだ。
立ち往生した軍用トラック。冴木は一ミリの迷いもなく、真ん中を走っていた一台に横付けした。
群青の車体から、月光を背負った冴木が降り立つのが見えた。
彼はパニックに陥るドライバーを尻目に、冷静な手つきで荷台のロックを吹き飛ばす。
そのまま手際よく荷台の奥へと身体を滑り込ませ、鈍く光る銀色のアタッシュケースを掴み出した。
「あれが……目標か」
双眼鏡越しに見る冴木の動きは、無駄のない獣のようだった。
だが、勝利を確信したはずのその瞬間、事態は最悪の方向へと転落した。
停止した軍用トラックから、迷彩服を纏った男たちが飛び出してきた。民間警備会社などではない。本物の軍人だ。
彼らは手慣れた動作でアサルトライフルを構え、冴木に向けて容赦のない銃弾の雨を降らせた。
「嘘だろ……銃撃戦かよ!」
乾いた破裂音が夜の静調をズタズタに切り裂く。
冴木の仲間が乗る公団の車からも、窓越しに銃口が突き出され、オレンジ色の火花が散った。応戦しているのだ。
冴木は奪ったケースを抱え、自身の青いスポーツカーの陰に身を投げ出すようにして隠れた。
だが、軍人たちの放った銃弾が、燃料系統か何かを直撃したらしい。シュルシュルという不吉な音の直後、冴木の車のボンネットから、どす黒い煙とともに鮮烈な紅い炎が噴き出した。
「冴木!」
おれは思わず叫んだ。
青いボディが炎に包まれ、夜の闇を地獄のような色に染め上げていく。絶体絶命だ。仲間が助けに行くはずだ──おれはそう信じて公団の車を見つめた。
しかし、現実は非情だった。
公団の黄色い車は、激しくなる銃撃を嫌うように急加速し、冴木を燃え盛る車列の真ん中に置き去りにしたまま、逃げるように走り去っていった。
「おい、待てよ! 仲間を見捨てるのか!」
その直後、後続の軍用トラックがタイヤを鳴らし、逃げる公団の車を追って本線へと消えていく。
残されたのは、炎上するスポーツカーの陰で孤立した冴木と、彼を包囲するように距離を詰める軍人たちだけだった。
銃声が響くたび、冴木の背後の車体が火花を散らす。彼はどこかを負傷しているのか、アスファルトに片膝をつき、苦しげにケースを抱え直していた。
おれの視界の中で、冴木がゆっくりと顔を上げた。
双眼鏡のレンズ越しに、彼と目が合ったような気がした。
その瞳には、諦めではなく、おれに向けた「逃げろ」という無言の警告が宿っているように見えた。
おれの全身を、猛烈な震えが襲った。
今ここを出れば、おれも標的になる。警察が来る。人生が終わる。おれの頭は「逃げろ」と叫んでいる。アクセルを反対に踏んで、バックでこの場を去れ、と。
だが、それ以上に熱い何かが、おれの右足に宿った。
『お前、退屈してたんだろ?』
冴木の声が、耳の奥で爆音のように鳴り響く。
退屈な大学生として死ぬか。
それとも、この地獄の中で「共犯者」として生きるか。
思考が真っ白になる。
おれは、震える手でシフトレバーを叩き込んだ。
「クソッ、クソがああッ!」
叫びながら、アクセルペダルを床まで踏み抜いた。
黒いスポーツカーのエンジンが、主人の狂気に呼応するように野太い咆哮を上げる。
タイヤがアスファルトを食い破り、おれの車は大型車の影から、銃弾と炎が渦巻く本線へと、一直線に弾け飛んだ。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル通りの急展開、やっと某映画っぽくなってきました。
いや、某映画ってなんやねん。
前書きのこたえ
クレミア(あくまで個人の見解です)




