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第七話 旅の始まり

夜が完全に明けると、壊れた町のあちこちに生存者たちの声が響き始めた。

泣き声、抱き合う家族、誰かの名を必死に呼ぶ声が重なった。


その中で、少年達の名前が何度も何度も叫ばれた。


「御藤くんが……守ってくれたんだって!!」

「白上くんだ! あの滅級を倒したって……!」

「二人がいなかったら……ガリアはもう……!」

「マルタっていうお兄ちゃんが僕たちを逃がしてくれたんだ!」


涙を流しながら感謝する人々の間を、カナタと銀はゆっくりと歩いた。

瀕死のマルタは救護所へ運ばれ、生き残った医療者が必死の処置を続けていた。


そのとき——


「いやぁ……やっと追いついた……!」


息を切らせて駆け寄ってきたのは、ガリアDP省大臣・ログ=モルタルだった。

破れた服と割れかけた眼鏡、そして肩の擦れ跡が、彼も戦場を駆け抜けてきたことを物語っていた。


「よく……よく耐えてくれましたね……! 御藤くん、白上くん……!」


モルタルは涙ぐみながら、崩れ落ちそうなほど深く二人へ頭を下げた。


「敵の司令官は人類では歯が立たない相手でした。…お父様のことは非常に残念でした。

しかし、あなたのおかげでガリアは助かります。」


カナタは静かにうなずく。

その手には今も、マルタの血が残っていた。


「……でもバリアは破られたんですよね。もうガリアは……」


「いえ、それが……想定外の“奇跡”が起きていましてね。」


モルタルは研究塔の方向を指さした。

そこでは、倒壊したバリア塔——そしてそれらと融合して黒く輝く塔があった。


「御藤くんが召喚した《バベル》が、倒れたバリア塔と融合したのです。

 そのエネルギーが暴走せず“安定”していて……

 半永久的にバリアを維持できる可能性があります。」


銀が目を丸くした。


「バベルって、あの黒い……? あれをカナタが?」


「その召喚能力と、あの異次元人を倒した事実をふまえると……

 あなたは人類最上位の戦力といえるでしょう。

 ディメンションガードの規定で言えば——あなたはオメガクラスに相当します。」


周囲で作業していた兵士たちが一斉に振り返り、驚愕と期待の視線がカナタへ向けられる。


「オメガって……テンポリオン様と同じ……?」

「17歳で……?」

「あの黒い鎧はいったい……」


モルタルは続けた。


「今回、人類連合からの援軍が来なかったのは……

 どの国も同時多発的に侵略を受けていたからです。

 あまりに急すぎた……ガリアだけの問題ではありません。

 人類国家間の結束を急がないといけません。」


モルタルの目が真っ直ぐカナタを向いた。


「そして、異次元勢力との戦いにおいては、御堂君……あなたの存在が鍵になることは間違いないです。」


「俺は最初からなんでもやるつもりです。」


カナタの表情を見て、モルタルは深く頷いた。


「ガリアの復興はお任せください。」


戦いが落ち着いた後、カナタと銀は研究塔の裏手に静かな場所を見つけ、新作の遺体を丁寧に埋葬した。


風が冷たく吹く中、銀が口を開いた。


「なぁ、カナタ……親父さんって……どんな人だったんだ?」


カナタは土を押し固めながら、少しだけ笑った。


「親父は……昔、異次元の裂け目が初めて開いたとき、研究者だったんだ。

 アメリカって国の研究所にいて……俺を拾ったときには、もう150歳を超えてたらしい。」


銀は驚いた。


「150……そんな年には見えなかったな……」


「まあ、親父はDPも使って、体の半分以上を機械にしてたから。」


少しの静寂の後、研究塔から回収した金属ケースを開く。

中には、新作の手書きのメモが残されていた。


「これは……鎧の設計図か?」


カナタは紙をめくりながら、あるページで手を止めた。


「……これ。」


銀が覗き込む。


そこには歪んだ地球の図と、

異次元の領域を示す黒い染みのようなものが描かれていた。


さらに、その中心に《プラズマホール》の文字、

そして“ある座標”が赤で囲まれていた。


カナタは震える指でそこをなぞる。


「……この座標……」


銀が静かに言う。


「昔……アメリカって国があった場所らしい。異次元との裂け目が発生した場所だ。」


カナタはメモを読み上げた。


「“融合は進行している。

 このままでは地球は数十年以内に完全に異界へ沈む。

 だが——無尽蔵のエネルギー源があれば、融合を逆流させ、境界を固定できる。”」


銀が息を呑む。


「無尽蔵のエネルギーって……プラズマホールか。」


ページの下部には、新作の強い筆圧でこう書かれていた。


「“次元の窓は、アメリカ座標に固定されている。

 境界を止められるのは、プラズマホール適合者が触れられる時のみ。

 いずれ、安全に制御できる者が現れると信じる。”」


カナタの胸に、重い意味が落ちていく。


「親父……俺がこのことを知れば無理に鎧を着ようとするから隠してたんだな。」


銀がほんのわずかに頷く。


「……あの人らしい。」


カナタは続きを読み上げる。


「“プラズマホールを託せる者が現れたとき、その者に告ぐ。

 次元八宝を探せ。そして……次元の窓に向かえ。”」


銀が眉を寄せた。


「次元八宝って……他にもあるのか?」


「ああ。

 例えば、軍事国家バルバスタに秘匿されてる“断界の絲”。

 親父の計算じゃ、プラズマホールと組み合わせれば……

 研究塔の次元砲より強い《次元斬》が使えるらしい。」


銀は呆れたように笑った。


「お前……とんでもない未来を用意されているな。」


カナタも苦笑した。


「だけど……地球を守れるなら、使えるものは全部使いたい。

 そして……親父が最後に指し示した場所へ行く。」


風が二人の間を吹き抜け、遠くの空へ消えていった。


救護所の方から慌ただしい声が聞こえた。


駆けつけると、包帯だらけのマルタがゆっくりと目を開けていた。


「……カナタ……銀……生きてる……?」


カナタは駆け寄って手を握る。


「マルタ。すごいDPだったな。でも、無茶しすぎだよ。」


マルタはかすかに笑った。


「ガリアは……大丈夫……だよ。

 僕も……まだ戦えるし……バリアも……残ってる……

 だから……二人は……行って……」


銀が目を丸くする。


「行ってって……どこにだよ。」


マルタは薄い唇を震わせて言った。


「人類連合……でしょ?

 このままじゃ……世界のどこかで……また誰かが死ぬ……

 カナタ……君が行かないと……」


その言葉が、カナタの胸に重く沈んだ。


「……マルタ。ガリアのことは必ず戻って守る。だから……」


「うん……信じてる……

 だから、僕のコピーを連れて行ってよ。

 肉体の複製はコピーもできるし……ガリアに何かあったときは、本体間で共有できる……」


カナタは少し驚きながらも頷いた。


「……マルタ……ありがとう。一緒に冒険しよう。」


「本当は本体で行きたかったけどね。

 まだ動けるようになるには……時間がかかるみたいだから。」


そう微笑むと、マルタは力尽きるように再び眠りについた。


◆出発


夕暮れ。

瓦礫の町の中で、風が静かに吹き抜ける。


カナタはバベルを背に、黒い鎧を少しだけ光らせながら銀へ向き直った。


「……行くか。」


銀は周囲に銀色の球体を浮かばせながら言う。


「最初の目的地は人類連合の本部だ。」


マルタも少し緊張しながら答える。


「うん…!!」


夕日が三人の影を長く伸ばし、瓦礫の町の上に新しい道を描き出していた。


崩れたガリアの町の中で——

新たな旅の始まりを告げる風が吹いた。

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