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第二十二話 捕食

検討室の扉が弾け飛び、一行は凄惨な戦場と化したロビーへと躍り出た。


「散れ! 邪魔だ!」


叫ぶと同時に、『灼陽』サルヴァドルが右腕を振り抜く。 召喚されたのは、超高圧に圧縮された可燃性ガスの塊。


それは火柱となって通路を埋め尽くし、 襲い来る『魔級』の群れを瞬時に炭化させた。 単なる火炎ではない。 酸素を喰らい、空間そのものを焼き尽くす圧倒的な質量。


「僕のそばは危ないですよ」


巨漢の電童雷太が、そのゴム質の肉体を大きくしならせた。 彼の手から放たれた青白い電弧が、壁や天井を伝い、 誘導弾となって『災級』の怪鳥を撃ち抜く。


雷光が弾けるたびに、異獣の肉塊が爆散し、 独特のイオン臭が立ち込めた。


「ふんっ!」


『城塞』ドルガンの咆哮が轟く。 彼はDPで強化された拳を、床へと叩きつけた。


凄まじい衝撃波が円形に広がり、数体の異界生物を骨ごと粉砕する。 物理的な質量と暴力。 それだけで彼は、移動する要塞と化していた。


その横を、老人が静かに歩む。


『地落とし』岳翁が、杖を軽く地面に突いた。


瞬間、前方の床が数メートルに渡って陥没した。 陥没したのではない。 局所的に増大した重力が、空間ごと異界生物を床に縫い留めたのだ。


逃げ場を失い、自らの自重で圧壊していく異獣たち。 老人は一瞥もくれず、平然と死地を進む。


「……うざい」


『虚空』空羽ユラが、端末を操作しながら呟く。


彼女の周囲、数メートルの空間が歪んだ。 そこを通り抜けようとした異獣たちの身体が、 まるでパズルのピースをずらしたように、バラバラに切断されていく。


空間を切り取り、別の座標へ投棄する。 防御不能の転移攻撃。 彼女の周囲だけは、不気味なほどの静寂が保たれていた。


「神の御許へ還りなさい」


『聖鐘』セラ・ベルナータが、手に持った鈴を鳴らす。


チリン、と澄んだ音が響くと同時に、 彼女の背後に白銀の光を放つ守護者が姿を現した。


守護者が振るった光の剣は、 廊下を埋め尽くす異獣の軍勢を浄化の光で一掃する。 それは戦闘というより、一方的な儀式に近かった。


「……住処を狙うなど、卑怯なり」


『遊天』ラハムが、砂を纏った拳を突き出す。


彼が放った一撃は、目に見えぬ空気の刃となり、 遠方の異界生物を正確に、かつ無数に切り刻んだ。 砂嵐が吹き荒れ、視界を遮る血煙を瞬時に消し去っていく。


血が飛び散る地獄絵図の真ん中を、 『同化者』イヴが、ゆっくりと歩いていた。


彼女は戦うことすらしない。 爬虫類のような瞳で、死にゆく異界生物と、 それを蹂躙する人類の最高戦力を、ただ観察している。


彼女の影に潜む異形が、近づこうとする影を時折飲み込むが、 本人は至って興味深そうに、戦場という光景を愉しんでいた。


一方で、『千刃』コルトは焦っていた。


「死ね! 化け物共が!」


周囲に展開した数十本の短剣を操り、必死に『災級』の大型個体を解体していく。 だが、その背後の空間が歪んだ。


突如として現れたのは、漆黒の体躯を持つ『滅級』の異獣。 六本の腕から放たれた斬撃が、コルトの全方位防御を紙細工のように切り裂く。


「しまっ……!」


死を覚悟したコルトの目の前で、景色が歪んだ。


――ドンッ!


真空を切り裂くような衝撃音。 コルトを襲うはずだった『滅級』の腕が、目にも止らぬ速さで弾け飛んでいた。


「……前、出すぎっすよ」


そこには、淡い光を纏ったエリオスが立っていた。


『万有引力』エリオス。


彼の能力は、物質の最小単位である分子間の引力をDPで自在に強化すること。 自身の分子結合を強めて超高速移動の負荷に耐え、 拳が触れる瞬間に引力を爆発させ、相手の肉体構造を内側から崩壊させる。


エリオスが地面を蹴る。 分子引力による超加速で、彼の姿はもはや残像にしか見えない。


『滅級』の異獣は、反応すら許されぬまま、 その全身を分子レベルで粉砕された。


「さすがだな、エリオスさん」


カナタも滅級の異獣を殴り倒しながら先輩の戦いを遠くから見ていた。


エリオスとコルトの前方から数人の集団が歩いてきた。 それは、人類連合に協力している異界種族、『シャチ族』の戦士たちだった。


屈強な肉体に、滑らかな黒白の皮膚。 彼らは手慣れた様子で異獣の死骸を片付けている。


「助かった。被害はどうだ?」


エリオスが、親しげにシャチ族のリーダーへと声をかける。 リーダーは、その大きな頭を揺らし、人の言葉で答えた。


「ああ、問題ない。我らも、君たちの力になれて光栄だよ」


穏やかな、いつもの会話。 エリオスがふっと肩の力を抜き、次の指示を出そうと口を開いた。


「よし、それじゃあ――」


その瞬間。 シャチ族のリーダーの首が、ありえない角度で裂けた。


いや、それは裂けたのではない。 頭部そのものが、巨大な『口』へと変貌したのだ。


――ガシャッ!!


湿った、重苦しい音が響く。


「え……?」


カナタの視界の端で、エリオスの姿が消えた。 正確には、彼の上半身が消えていた。


シャチ族のリーダーが、その巨大すぎる顎で、 エリオスの頭から胸までを丸呑みにしていた。


真っ赤な鮮血が、白い床に勢いよくぶち撒けられる。


エリオスの、力が抜けた下半身だけが、地面に力なく膝をついた。


「…………は?」


カナタの思考が、一瞬だけ停止した。


平和的な協力者。 頼れる先輩。 人類の希望。


そのすべてが、たった一口で食いちぎられた。


シャチ族のリーダーは、口の中に残る獲物を咀嚼しながら、 濁った瞳で、凍りつくカナタを見つめ返した。


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