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第十七話 旅の道中

ローデンを発った一行は、北へ続く道を進んでいた。


道を行く隊列は三十名ほど。

治安維持部隊、後方支援班、医療班、そしてエリオスとリゼが先頭に立つ。


カナタ達三人は、隊列の中心付近に配置されていた。

連合兵たちがちらちらと視線を送ってくるが、敵意はない。


隊の中から聞こえてくるささやき声。


「例の三人か……滅級を倒したっていう…本当なのか…?」

「エリオス中尉が直々に迎え入れたんだ。

あの人が信頼するなら問題ないだろ。」

「黒白の髪の子……あれが噂の?」


兵士たちには既に情報が共有されているらしく、

カナタ達に対する警戒というよりは好奇心めいた空気が漂っていた。


エリオスが歩きながら後ろへ振り返る。


「一応、連合規則に従って隊員全員に説明はしたから安心していいっす。

特別扱いってわけじゃなく、正式に協力者として迎えたって形ね。」


マルタが小さく頭を下げる。


「ありがとうございます……」


エリオスは軽い調子で手を振り返した。


「固くならないでいいっすよ。ここから先は長旅だし、気楽に行こう。」


やがて、森の入口に差しかかったところで小休憩が取られた。

隊員たちは手早く焚き火の準備を始め、馬たちは水を飲む。


エリオスは地面に腰を下ろしながら、鞄から連合の標準資料を取り出した。


「さっき言ってたランク制度とか、災害コードとかの話……

今のうちに一度ざっと押さえておくといいっすよ。」


マルタが横に座り、銀とカナタも集まる。


エリオスは雑なようで慣れた手つきで資料を広げる。


「召喚者ランクはデルタから始まって、ガンマ、ベータ、アルファ、そして最上位のオメガ。

上に行くほど規模が跳ね上がる。

アルファは国家レベルの戦力。

オメガは……まあ、存在そのものが戦略級だな。」


カナタが少し視線を落とす。


「オメガ……テンポリオンさんがそうだった。」


リゼは焚き火のそばで静かに聞いていたが、

テンポリオンの名にだけ反応して顔を上げた。


「ガリアで戦死したと記録にあります。

あなたたちは……あの人と共に行動していたのですね。」


カナタは短く息を吐いた。


「守られたんです。最後まで。」


静かだが、重みのある言葉だった。


エリオスは資料の次のページへめくりながら続ける。


「脅威コードの方は、陰級から始まって魔級、災級、滅級……

で、最後が終級。

今回ローデンに現れたのは滅級。

放置したら国が吹き飛ぶレベルっす。」


マルタは思わず背筋を伸ばす。


「俺たち……よく生きていたね……」


銀が短く言う。


「カナタがいたからだ。」


エリオスは茶髪をかき上げ、少し柔らかい笑みを浮かべた。


「ま、ここに座って話してる時点で全員大したもんだよ。

普通は災級以上に遭遇したら記録すら残らない。」


リゼも静かに言葉を添える。


「本部でも、あなたたちの報告は最優先で扱われるでしょう。

融合を止める手掛かりになる可能性が高い。」


カナタは灰色の瞳で火を見つめた。


「……だったら、どんな情報でも渡したい。

テンポリオンさんのことも、俺たちが見た異次元人のことも。」


エリオスは頷いて立ち上がる。


「心配すんな。俺たちも全力でサポートするから。」


焚き火の音がぱち、と弾ける。

森の匂いと夕方のひんやりした空気が混ざり合う。


「よし、休憩はこんなもんで。

あと二時間ほど歩けば野営地だ。

本部までもう少し。気張っていこうぜ。」


カナタ、銀、マルタは立ち上がり、隊列へ戻った。


隊列に戻った行軍の先頭で、エリオスが片眉を上げた。

空気が一瞬だけ、ねじれたように震える。


カサ、と草を踏む小さな音。

次の瞬間、茂みが爆ぜた。


黒い影が飛び出す。

人型にも見えるが、輪郭が揺らぎ、骨格が定まらない。

赤い裂目のような光が身体を走った。


異獣だ。


森の影から、六体が一斉に跳びかかる。

隊列が揺れ、先頭の兵士たちが槍を構えた。


「来るぞ、構えろ!」


槍が突き出され、鋭い衝撃が走る。

しかし異獣の外殻は異様に硬く、兵士の腕を逆に弾き返した。


「硬すぎる……全然通らない!」


「DPで毒のようなものを振りまいているぞ!急げ、早く落とさないと!」


叫びと焦燥が重なり、隊列が乱れる。


一体が兵士めがけて跳んだ瞬間、空気が低く唸った。

エリオスが一歩だけ踏み出し、手を軽く上げる。


周囲の空間がたわむように歪む。

異獣の体が、見えない重力の握力で締め上げられた。


ぎしりと骨の折れる音。


「逃がす気はないっすよ」


圧が一気に跳ね上がり、異獣は圧壊して霧のように消えた。


残る二体が左右に散り、兵士たちへ襲いかかる。

その前に、リゼが静かに歩み出た。


手を伸ばしただけで、周囲の空気が波打つ。


触れた瞬間、二体の異獣が前のめりに崩れた。

リゼから放たれた無色の波が異獣を包み込み、外殻の奥のDPを根元から削いでいく。

赤い筋がひとつ、またひとつと消えていった。


弱ったところへ兵士の攻撃が降り注ぎ、二体は肉塊に変わる。


同時に、別方向へ回り込んだ三体が、後衛へ向けて跳躍した。


その前に、銀が立った。


銀の周囲で金属がざらりと震え、地面に散らばる鉄片が吸い寄せられる。

彼が腕を払った瞬間、鋼の破片が二体の異獣へ真っ直ぐに飛んだ。


金属の束が異獣の脚部を貫き、勢いを殺す。

そのまま銀は片腕を引き寄せるように動かし、周囲の鉄片を再び集束させた。


「逃がさない。」


銀の指先が、ほんのわずかに動く。


次の瞬間、鉄片が槍のように伸び、二体の異獣の胸部を内側から破裂させた。

赤い裂光が散り、残骸だけが地に落ちる。


三体目が吠えながら跳びかかる。

銀がそちらへ向き直ろうとしたその刹那——


風を裂く音が横を走った。


カナタが走り抜けた。

ただの突進ではない。爆ぜるような加速が地面をえぐり、灰色の瞳が異獣を正面から射抜く。


そのまま拳を放つ。


一撃。


たった一発で、三体目の異獣は外殻ごと弾け飛び、内側から泥のように崩れ落ちた。


そのとき、

森の奥から、ひときわ大きな影が現れた。


二足で立ち、体長は三メートル。

胸部の赤い線が心臓のように脈動し、人面めいた歪んだ模様が浮かんでいる。


明らかに格が違う。


巨獣は地面を割る勢いで突進した。

兵士のひとりが弓を射る。


だが矢は、触れた瞬間に蒸気のように砕け散った。


「効かない……!」


凄まじい跳躍。

兵士が二人、避けきれず吹き飛ばされ木に叩きつけられた。


隊列が崩れる。


巨獣はもう一度跳んだ。

中央の兵士が影に覆われ、声を振り絞る。


「来る……誰か……!」


踏み潰される——その一瞬前。


カナタが前へ出た。


地を蹴る音と衝撃が同時に響き、

灰色の瞳が空中の巨獣を見据える。


彼の身体が線のように消え、次の瞬間には空中にいた。


回転しながら放った蹴りが巨獣の顔面へ直撃。

そのまま地面へ叩き落とし、轟音が森を揺らす。


着地したカナタは無駄な構えを見せず、ただ最短距離で踏み込んだ。

右ストレートが巨獣の胸を撃ち抜く。


プラズマホールと融合した肉体が発する膂力が、

ただの殴打を、滅級すら砕く一撃へ変える。


巨獣は膨らんだ袋を破裂させたように弾け、残滓だけが地に落ちた。


沈黙。


懐疑的だった若い兵士が震えながら呟く。


「……本当に……滅級を倒せる男なんだな……」


その一言が、空気を変えた。


エリオスが肩を回し、笑う。


「いやあ、助かったっす。

カナタがいると本当に作戦が楽でいい」


リゼも静かに頷く。


「護衛戦力としては十分以上です」


カナタは視線を落としたまま、短く答えた。


「俺だけで得た力じゃないから」


風が静まり返り、隊列はゆっくりと前へ進み始めた。


だが兵士たちの目に宿るのは、

さきほどまでの警戒ではなく、

確かな信頼だった。


異獣の襲撃の後もしばらく歩くと、森の木々の輪郭が薄れていき、道がわずかに開けた。

空が赤く染まり始め、連合兵のひとりが空を見上げる。


「もうすぐ夜だな……野営地は近いはずだ。」


その声に、エリオスが先頭を歩きながら軽く振り返った。


「安心していいっすよ。本部までもう一息だから。

バルバスタから派遣された支援部隊の通り道でもあって、治安も整ってる。

あんな襲撃があった後だから説得力ないっすけど。」


カナタは問いかける。


「……軍事国家バルバスタに本部があるって聞きました。人類連合って、バルバスタの国軍とは別の組織なんですよね?」


エリオスは少し笑った。

「その質問、よく聞かれるんすよ。

簡単に言うと……連合はバルバスタの一部じゃなくて、人類全体の組織。

たまたま中枢がバルバスタの国内に置かれてるだけって話。」


銀が少し首をかしげた。


「じゃあ、バルバスタの王や政府が連合を動かしてるわけじゃないんですね。」


「そういうことっす。

バルバスタは土地と防衛設備を提供してるだけ。

もちろん仲は悪くないけど……連合はどこの国にも偏らないように作られてる。

異次元相手に国ごとの思惑を持ち込まれたら、面倒っすからね。」


リゼが歩きながら淡々と補足する。


「連合の指揮権は、加盟国すべてから選ばれた代表委員会にあります。

軍事力はバルバスタも多く提供していますが……

政治的な主導権はどこか一国に偏らないよう、厳しく調整されています。」


マルタが感心したように目を丸くする。


「そんな仕組み……よく成り立ってるね。

だって、どこの国も余裕がないのに。」


エリオスが肩をすくめる。


「余裕がないからこそ成り立ってるんすよ。

誰も単独じゃ異次元の災害を止められない。

だったら、国境なんて気にしてる暇はないってわけ。」


銀は納得したように息を吐いた。


「連合って……そういう意味では本当に、最後の砦なんだな。」


リゼが静かに頷く。


「ええ。

人類が国という形を保てた理由でもあります。設立には、御堂新作氏ら先人の尽力がありました。」


その言葉に、カナタは短く視線を落とし、

やがて前を向いた。


エリオスは歩調を保ったまま指を折り始めた。


「せっかくだし、加盟国のこともざっくりおさらいしとくっすか。

本部に着く前に知っておくと話がスムーズだからね。」


隊列の周囲に夕陽が差し、影が長く伸びる。

兵士たちもざわつくことなく淡々と歩を合わせていた。


エリオスは歩きながら指を折る。


「まず人類連合の中心になってるのが、本拠地……バルバスタ。

軍事国家って言われるけど、召喚者教育も進んでて、防衛技術は世界トップクラス。」


リゼが補足する。


「次に、信仰国家イシュタリア。

神官召喚者を中心に、独自の守護体系を持ちます。」


カナタが思い出すように言う。


「それから……異界共存国家のゼリスだよな。異次元存在と共生してる国。」


「そう。価値観の衝突は多いけど……調停役としては貴重な立場にある。」


エリオスはさらに続ける。


「封建制度のカスターナ。ローデンもその一つ。

領主によって差はあるけど、今回みたいに連合の支援が不可欠な領も多い。」


マルタが重く頷く。


「ローデンだけ見ても、領主ごとに状況が全然違ってたし……。」


エリオスの指が最後にもう一度折られた。


「ノマディア。遊牧国家で、自然系のDPに強い召喚者が多い。」


そして、リゼが静かな声で付け加える。


「忘れてはならないのが……ガリアです。」


カナタは足を止めかけた。


リゼは淡々と続ける。


「科学と召喚の融合が進んだ国家。

技術者と召喚者が協力して文明を維持し、外部との接触は厳しく制限されていました。

召喚者管理制度も極めて厳格で……あなたの故郷でもあります。」


エリオスが横目でカナタを見る。


「ガリアの技術は、連合の研究部門の基盤になってるっすからね。

カナタ君の存在は、いろんな意味で貴重なんすよ。」


カナタは短く息を吐き、前を向いた。


「……融合を止めれるなら、何でもいいよ。」


銀が静かに言う。


「つまり、人類が生き残ってる国は全部バラバラだけど、連合が一本に繋いでるってことか。」


エリオスは笑いながら肩をすくめる。


「繋いでる、って言うほど格好良いもんでもないっすけどね。

どの国も余裕があるわけじゃないし。」


リゼは、砕けた言葉に小さく息をついた。


「それでも……繋いでいることが重要です。

異次元との融合を止めるには、どの国の力も欠かせない。」


その言葉に、三人は自然と歩を緩めた。


カナタは灰色の瞳で北を見つめる。


「……連合本部で、融合を止める方法を伝えよう。」


エリオスが隊列全体に声を飛ばした。


「全員、その調子でいくぞ。本部まではあと三日。

今日のうちに川沿いの野営地まで進む!」


兵士たちが小さく気勢を上げ、歩調が揃う。


到着は近い。


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