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第9話 光の欠片が呼ぶ声

 リオが消えた海辺は、

 嘘みたいに静かだった。


 さっきまで世界が震え、

 空が逆流し、

 海が泣いていたのに――


 まるで

 「最初から何もなかった」

 みたいに、穏やかな波の音だけが続いている。


 ユナは、砂に膝をついたまま微動だにしなかった。


 胸に残る感触は、

 まだ温かい。


 けれど腕の中にはもう、

 誰もいない。


 「……リオ……?」


 呼んだ声は震えていた。

 返事はない。


 その現実だけが、

 ひどく重く、冷たかった。




 ふと。


 砂浜で、小さな光が瞬いた。


 ユナは涙のにじんだ目で、

 その光を見つめる。


 それは――

 リオが消えた瞬間に落ちた“金色の欠片”。


 そっと手を伸ばして拾い上げる。


 手のひらの上で、

 欠片は心臓の鼓動のように微かに脈打っていた。


「……あったかい……」


 それは間違いなく、

 リオの“存在の残り香”だった。


 胸が苦しさでぎゅっと縮む。


 触れているだけで、

 リオの声が遠くで微かに震えたような気がした。


 “ユナ……泣かないで……”


 ユナは首を振る。


「……泣くよ。

 だって……

 あなたがいない世界なんて……」


 手のひらで光が震えた。


 その瞬間――


 ユナの胸の奥から、

 鋭い痛みが走る。


「っ……!」




 胸に触れた手が震えた。


 皮膚の下で、

 青い光が“鼓動”している。


 脈打つたびに、

 全身の血が沸くように熱くなる。


「なに……これ……」


 息が荒い。


 視界が歪む。


 そして――

 胸の中心で何かが“開く”ような感覚。


 そこから、

 青い波紋がユナの周りの世界へ広がっていく。


 波紋が触れた草は、百年前の海辺の姿へと変わり、

 空は淡い青の残像を帯びた。


 世界が、ユナの記憶と混じりはじめていた。


「私……壊れていく……?」


 違う。


 “ユナの中に眠っていたものが覚醒している”。


 胸の痛みが強くなる。


 その痛みに合わせて、

 記憶の断片が脳裏に浮かび上がった。


 ――百年前のユナが、誰かの名を叫んで泣いている。


 ――海が割れ、少女が光の中に吸い込まれていく。


 ――リオが手を伸ばして、叫んでいる。


 断片的な映像。


 そしてその最後に、

 はっきりと映る“ひとつの残酷すぎる真実”。


 ユナは震え、目を見開いた。


「……これ……私……?」




 涙がぽろりと落ちた。


 百年前。

 ユナは海でリオと手を繋ぎ、

 ひとつの約束を交わしていた。


 「もし私が消えたら――

  必ず、迎えに来てくれる?」


 リオは笑って答えた。


 「何度でも迎えに行く。

  たとえ世界が壊れても」


 この言葉は、

 ただの恋の約束ではなかった。


 百年前のユナは、

 “世界を守る存在”に選ばれた少女だった。


 彼女が消えれば、

 世界が壊れる。


 だからリオは、

 ユナを探し続ける運命を背負わされた。


 ――何度生まれ変わっても

 ――何百年経っても

 ――何度失っても


 ユナが帰ってこなければ、

 リオは“代わりに消える”。


 それが約束の本当の意味だった。


「そんなの……知らないよ……

 そんなの……約束じゃないよ……」


 ユナの声は涙で震えた。


「リオ……

 私を助けるために……

 あなたが……犠牲になったの……?」




 胸の青い光が激しく脈動する。


 世界の風が巻き起こり、

 波が空へ逆流しはじめる。


 ユナの心の痛みが、

 そのまま世界へ滲み出している。


 涙が地面に落ちる。

 そのたびに地面が青く光る。


「リオの……欠片が……

 私の中に……呼んでる……」


 ユナは胸の痛みに顔を歪めながら、

 手のひらの金色の欠片を見つめた。


 その欠片は、

 はっきりと“声”を放っていた。


 『ユナ……

  君を……迎えに来た……』


 ユナの顔から、

 涙が止めどなく溢れた。


「迎えに来たのに……

 どうして……あなたが消えちゃうの……

 どうして私じゃないの……?」


 海風が泣くように吹いた。


 ユナは欠片をぎゅっと握りしめ、

 胸に押し当てた。


「返して……

 リオを返して……

 世界なんて壊れていい……

 私を壊していい……

 だから――

 リオだけは……連れていかないで……!」


 青い光が弾けた。


 世界が、

 ユナの悲痛な叫びに反応した。




 ユナの体が光に包まれはじめる。


 金色の欠片が胸に溶け込む。


 世界の奥底から、

 微かにリオの声が聞こえる。


 『ユナ……助けて……

  俺……帰りたい……』


 ユナの心臓が砕けた。


 ここから――

 ユナは人生最大の“選択”を突きつけられる。

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