第13話 ユナの願い
七日間の終わり――死にゆく世界の朝
七日目。
生きているものが何ひとつない朝に、
ユナは目を覚ました。
空はもう、空の形をしていない。
色が剥がれ、裂け目から静かに砂のような光が降る。
影のリオは、いつものように
ユナのそばに揺らぐ形で立っていた。
もし“声があったなら”、
きっとこう言っていただろう。
――行こう。
ユナは頷いた。
「……うん。行こう。最期の場所へ」
七日間のあいだ、ユナは影のリオと共に世界を歩いた。
昔リオと過ごした街。
笑い声の残像だけが漂う花畑。
屋根の上で星を見た丘。
どれも、今は崩れ落ちる寸前の骨のような風景だった。
ユナは、影のリオにそっと手を伸ばす。
もちろん、触れられない。
けれど――
影のリオは、触れようとするように手を上げた。
その仕草だけで、胸が張り裂けそうだった。
「……リオ。
もし、今触れられたら……
もうそれだけでいいのに……」
影は答えない。
風だけが、さみしく泣く。
七日目の夕刻。
影のユナが現れた。
『――来たわね。ユナ』
ユナは息をのむ。
「ここが……?」
『ええ。世界の心臓。
リオが消えたときに、壊れた場所。
そしてあなたの命も、今日ここで終わる』
影のリオは、どこか不安そうに揺れている。
ユナは拳を握った。
「……ここで願うんだね。
“私の願い”を」
影のユナは静かに頷く。
『言っておくわ。
あなたが選べるのは、たった三つ』
影のユナは指を三本立てた。
『ひとつ目――
“リオを蘇らせること”』
ユナの心臓が激しく脈打つ。
『でも、代償として
あなたは完全に消える。
リオはあなたの記憶も存在も知らずに生きる』
地獄のような救いだった。
『ふたつ目――
“世界を元に戻すこと”。
リオは戻らない。
でも、人々も街も、未来も取り戻せる』
それは優しさの形をした残酷さだった。
『みっつ目――
“願わない”こと。
あなたもリオも、この世界も、
すべて終わる』
影のユナは言う。
『これは、あなたにしか選べない』
ユナは震えながら、影のリオを見る。
影のリオは、ただユナの涙を見つめるように揺れた。
「……どうして……
こんな選択しかないの……」
『これは――愛の代償』
そのとき。
影のリオが、初めて動いた。
ユナの頬に近づき――
触れられないのに、触れようとする。
その瞬間、影の形がわずかに震え、
ユナの胸の奥で、金の欠片が強く光った。
そして。
影のリオは
“声を持たないはずなのに”
ユナの耳にだけ届くほどの小さな声で――
『――ユナ……』
ユナの膝が崩れる。
涙が止まらない。
「……リオ……
もう一度だけ……
あなたの声が……聞きたかった……」
影のリオは、消えてしまうほど儚く揺れながら、
『……泣かないで……』
と言った。
その声は、
かつてユナが愛した少年そのものだった。
ユナは涙で視界をぼやかしながら、
影のリオの手を取ろうとする。
「……リオ。
私、決めたよ……」
世界が崩れる音が近づく。
影のユナが問う。
『ユナ。
最後の願いは……何?』
ユナは――
泣きながら、それでも笑って言った。
「私の願いは――」




