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第12話 ユナ、最期の七日間

 “リオの消えた世界”で、ユナが目を覚ます


 リオの光が消えた直後――。


 ユナは、冷たい白砂の上で目を覚ました。


 空は色を失い、雲は裂け、

 風は生き物のように軋みながら擦れ合っている。


 世界は、もう「世界」ではなくなった。


 砂の上に落ちた涙の跡だけが、

 ユナがここにいた証として乾きかけていた。


「……リオ……」


 名前を呼ぶたびに胸の奥が裂ける。


 痛みが鋭く、深く、静かに広がっていく。


 もう声は返ってこない。


 もう手も、温度も、笑顔もない。


 ユナは、生きているのに“世界が死んでいる”感覚に包まれていた。




 立ち上がったユナの周囲で、

 地面がゆっくりと崩れ落ちていく。


 大地は砂のように流れはじめ、

 海は空へと逆流し、

 空が下から剥がれ落ちていく。


 かつての街の影が遠くに見える。


 家々は傾き、

 人々は空の裂け目から落ちた記憶の残像だけ。


 ユナが歩くたび、

 地面が「もう持たない」と言うように砕けていく。


「……これも……全部……私のせい……」


 言葉にするたび胸の奥の光が痛む。


 罪ではない。

 けれど――ユナはもう自身を責めることしかできなかった。




 歩いているのか、ただ崩れていく世界に流されているのか、

 ユナにはもう分からない。


 思考がまとまらない。


 感情がひとつに固まらない。


 胸の奥で青い光が脈動するたび、

 リオの面影が、

 消えていく笑顔が、

 伸ばした手が触れられなかった瞬間が、

 何度も何度も反復される。


「……触れたかった……

 たった一度でいい……

 抱きしめたかった……」


 言葉は風に溶けた。


 もう誰にも届かない。




 砂が舞い上がったとき、

 少し離れた場所に“少年の影”が立っていた。


 輪郭が流れ、

 色がなく、

 ゆらゆら揺れているだけなのに――


 ユナは、息を飲んだ。


「……リオ?」


 影は、ユナの名前を呼ばなかった。


 ただ、ゆっくり歩み寄ってきて、

 ユナの顔を覗き込む。


 瞳のない目が、

 まるでユナの痛みを覗いているようだった。


 ユナは震える手を伸ばした。


 触れられないと分かっているのに。


 影は――触れなかった。


 でも、ふっと薄く笑ったように見えた。


 その瞬間。

 ユナの喉から熱い嗚咽が零れる。


「ごめん……ごめんね……

 守れなくて……助けられなくて……

 全部……私のせいで……!」


 影は、言葉を返さない。


 ただそこにいるだけだった。




 影は口を持たないのに――

 ユナの頭の中に、誰かの声が響いた。


『……これは、リオの“欠片”……』


 影のユナの声だった。


『世界が壊れたとき、散ったリオの想いの一部よ。

 あなたが壊した世界の中に、

 まだ“あなたを想う欠片”だけは残っていた』


「じゃあ……この影は……リオ……なの?」


『違うわ。

 これはリオではない。

 リオの“心が最後に残した感情”が形になっただけ。

 本物では……ない』


 ユナは泣き崩れた。


 本物ではない。


 本物はもう、どこにもいない。


 それでも――


 影のリオは、

 ユナが泣くたび、そっと近づいてくる。


 まるで

 「泣かないで」

 と言っているように。


 その優しさすら、痛かった。




 影のユナは静かに告げた。


『ユナ。あなたの体は、もう七日しかもたない。

 世界の心臓を壊した代償が、

 あなたをゆっくりと削っていく』


「……七日……?」


『ええ。

 七日後、あなたの存在も世界と共に完全に消える。

 ――リオに会いたいなら、

 この七日のうちに“最後の選択”をしなければならない』


 ユナは顔を上げた。


「……リオに……会えるの……?」


『会えるわ。

 でも……その選択は、あなたに残された

 “最後の心”を壊すものになる』


 影のユナは続けた。


『最期の七日間で、

 あなたは“ひとりで世界を歩く”ことになる。

 リオの欠片と共に。

 そして七日目――

 あなたは最も残酷な真実を知り、

 最後の答えを出すことになる』


 ユナは震えながら問う。


「……私……どうすれば……」


 影のユナは微笑んだ――涙をこらえるように。


『大丈夫。

 この七日間は、

 あなたが“リオを愛していた証”になる』




 ユナの胸の金色の欠片が、

 弱く光る。


 近くにいる影のリオも、

 その光に反応して揺れた。


 影のユナが言う。


『その欠片――

 最後の日に、あなたが“どんな願い”を選ぶかで、

 すべての未来が変わる』


 ユナは、ぎゅっと胸の欠片を握る。


「……リオ。

 もう一度だけ……

 あなたの声を聞かせて……」


 返事はない。


 ただ、風だけがユナの涙をさらった。


 そして、

 “ユナの最期の七日間” が始まる。

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