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ひもじさの中の火よ

 異世界といえば、中世ヨーロッパを舞台にしたような、魔法と剣の世界として書かれるが、実際の文明とは、けしてそのようなものではなかった。現実的に、人間が作り出した世界だ。疫病や飢えで日々生きることも難しい。そのうえ、時には侵略に合うこともある。

 世界有数の国家、というのは薄っぺらい見栄で、本当は水道も下水もないこの土地に沢山の戦士がいた。実に住人の9割が戦士を希望し、そこから選別された3割のみがなるわけであるが、畑の連作障害という言葉もまだ無い時代。とても食べていけない。位の低い戦士のほとんどが日課として畑仕事をしていた。そのほとんどが肉など口に出来ず、日々、粉にしたとうもろこしを茹でたり焼いたりして生活しているくせに、とりわけ、階級へのこだわりが強かった。


 西陣秀俊の産まれたロクティワカの町は、神殿のやや西にある。4人の素晴らしき戦士を排出したこの町は、舗装もされていない、日本で言うところの空き地のような土地である。上級戦士や貴族の家は石作りの立派な物であったが、下級戦士や平民の家は土壁の粗末なものである。必ず家の近くに畑があり、トウモロコシを育てていた。環境汚染とは無縁の小川はそのまま飲み水としても使われた。


 西陣が産まれた神印142年というと、昨年に凶作があったものの、大量の餓死者がでていない、恵まれた年であった。西陣の親はグンダといって、いっぱしの戦士としてその身を立てた。切り込み隊の頭で戦士の位は下から3番目だ。母はとなり町から嫁いできたアワテといって、子供を5人も産んだ。そして、その長男が西陣であった。


 戦士の家は苦労が多い。何分、一日中つきっきりで農業が出来ないため、母は身を粉にするようにして働いた。

 その上、母には気がかりな事がある。長男だけがいつまでも言葉を話さず、変わりに変な言葉ばかりを口にするので、回りの家からも白い目で見られているのだ。


 西陣がは日本人の転生者として産まれた。

 アワテは他の母たちと同様に子供を可愛がり、暇な時間を見つけては熱心に言葉を教えた。

 西陣は名前をコテとつけられたが、とても身体が弱かった。走っても年下の兄弟に追い付けず、好き嫌いも激しい。母は決まって自分の分のご飯の中からすこし西陣に食べ物を分けて嬉しそうに抱き上げるのだった。


「またすこし重くなったわ!これなら立派な戦士になれるわ!」


 母の言う通りにはならなかった。14になる頃にはやっと言葉を話し始めたが、今度は地面に変な文字を書き始めた。よほど頭がおかしいのだと皆が噂したほどだ。

 それに、西陣の風体と言うのが変わっていてひとを引き付けた。髪を切られるのを嫌って肩まで延びた髪の毛が女の子みたいであったし、長い前髪の中から見える鼻筋もどこか高く見える。その黒目がちな目が髪の毛の下からでてくると、どういうわけか女たちは色目きだった。


「どうしたことだろう……」

 暴力的で敵を倒すことしか頭にない戦士の町で、誰とも口をきかず、一人でポツンといる様がどこか後ろ髪を引かれる思いでたまらないのだった。


 母はもう成人間近の息子に説いた。

「長男は家族を守らなくちゃいけない」

 外敵から守らなくちゃいけない、という意味である。

 それから西陣は毎日畑を耕すことにした。少しでも家族が腹一杯食べられるようにとのことだった。冬になればせっせと服を編み、あるいは靴を作った。

 冬の夜ともなれば、標高の高いこの土地では大変に寒い夜となる。わずかばかりの布団により集まって暖を取り眠るのだが、西陣はいつも端っこに陣取って、自分が寒いのも関せず、一番したの妹を一番暖かい布団の真ん中にすえて眠った。


「なあ、ハル。うちは貧乏だけどいつか兄ちゃんがきっと良い仕事をして皆に腹一杯食わせてやる。それまで我慢しろな」

「私は優しいお兄ちゃんがいるからそれで幸せだわ」

 他の家々では、年の若く血からの強い男の子が兄妹から飯を奪うなど当たり前、そのような時代であった。


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