休日
―――倉田家―――
夜の闇が平屋の屋根を優しく包み込む。
障子の向こうでは、街灯のぼんやりとした灯りが揺れていた。
倉田は縁側に腰を下ろし、静かに茶を注ぐ。
窓際に丸くなっている猫、巽が顔を上げる。
「ミャー」
一声だけ、いつものように。
倉田は何も言わず、茶碗を差し出す。
巽は一瞬ためらうも、
背伸びをひとつして、縁側に伸びた。
「お前は変わらないな」
「……変わりたくもない」
静かなやり取りが続く。言葉は少ない。だが、空気の中には重みが漂っていた。
「あの頃を思い出すか?」
巽が問う。
「時々な」
倉田の視線は遠く、過ぎ去った影を探しているようだった。
「過去が重いのは、誰もが抱えるものだ。お前もだろう?」
巽の声は静かだが、確かな響きを持っていた。
「俺は地味に暮らしたい」
倉田がぽつりと言う。
「派手な過去の代償だ」
巽はその言葉を受け止めるように、ゆっくりと目を閉じた。
「お前、
あのときよく死ななかったな」
「お前が、俺の代わりに呪われたからな……それに……俺に過去はもうない。ただ……生き残っただけだ。」
倉田の目が、巽に詫びる。
「俺は死んだようなもんさ。姿も名も、もうどこにもない」
巽の声は落ち着いていた。だが、縁側の木材が爪で小さく削られる音が、彼の苛立ちを語っていた。
「……悔しかったか?」
倉田が問う。巽は間をおいて、小さく頷いた。
「お前だけ、何事もなかった顔して平然と地味に暮らしてるんだからな。腹が立たないわけがない」
「なら、なぜ戻ってきた」
巽は目を細め、こう言った。
「居場所があるからさ。他には、どこにもない」
沈黙が二人の間を包んだ。だが、それは不安でも気まずさでもない。
ただ、生き延びた者たちの、静かな呼吸の重なりだった。
倉田
「泊まっていけ、本鮪缶買っといた。」