ドラキュラ疑惑と濡れズボン
帰宅した瞬間、佐々木は力尽きたようにその場に崩れ落ちた。
「終わった……完全に目が合った……あの目……絶対ただの人間じゃない……」
震える指で靴を脱ぎ、うわの空でズボンも脱いで、洗濯かごに放り込む。
母ちゃんの怒号が飛んでくる前にシャワーを浴びて身を清めようと思ったのだが、
心はすでに“人間じゃないかもしれない職場の同僚”でいっぱいだった。
「もしかして……ドラキュラ……?」
お風呂の湯気の中で、佐々木の脳内が激しく回転を始める。
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(脳内会議 開催中)
「まず、日勤拒否してるのも夜型生活だからだ!ドラキュラは日光ダメって決まってるからな!」(アレ……この間日勤出てたよな……)
「いやでも!無口で、他人と距離を取る!人間と関わりたくないからだろ!」
「以前、にんにくラーメン断ってたって小山さんが言ってた!完全にアウト!」
「あと目!!あの目!!光った!!あれは人間の光り方じゃなかった!!」
「やっぱりそうだ!!倉田さん、ドラキュラだ!!」
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「……まさか、吸血はしない代わりに、鍵とかセキュリティの知識を吸って生きてるタイプかもしれん……!!」
謎の着眼点に到達した佐々木は、寝巻きのまま白目をむいてノートを開いた。
表紙には大きく赤いペンでこう記された。
《倉田=ドラキュラ説》
佐々木、完全に自分の世界へ。
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一方そのころ。
洗面所で洗濯かごに入ったズボンを見た母は、
「……なんでココ濡れてんの……?」
ズボンの股下をつまんで、ぎゅっ。
ぽたっ。
ほんのり生暖かい感触が指先に残る。
「………………」
彼女は無言で臭いを嗅ぎ、ズボンを再びかごに戻した。
そして深く息を吐いてつぶやく。
「……今度、ちゃんと家族会議しなきゃダメだわね」
その声には、母としての覚悟がにじんでいた。
【次回】佐々木プリンに負ける。