疑惑の始まり
「倉田さんて、独身なんすか?」
ある日の夜勤明け、
詰所で缶コーヒーを開けながら佐々木が聞いた。
返事はない。というか、すでに倉田さんはロッカー室へと姿を消していた。
「いや、別に詮索とかじゃないんすよ? ただ、……」
佐々木は呟く。
あの人、いつも誰とも喋らず、淡々と業務をこなす。
そうそう、でもこの間、日勤の岩田さんが
倉田さんに日勤と夜勤のシフト交換を
お願いしてた時、最初断固として断ってたのに
「シルバニアファミリーのカエル。
手に入りましたけど……」の一言で引き受けてたから子供いんのかな?とは思ったけどね。
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そんなある日。
佐々木は見てしまった。
倉田さんがロッカーから小さな鍵付きの箱を取り出している姿を――
「……あれは……何かの機密?」
しかもその時、倉田さんが何かをメモしていた。「 0時 」「 T 裏口」……?
──その夜、佐々木はそっと職場の裏手へ向かった。
0時、ぴったりに。
が、そこには──
配達のトラックと、猫の餌を抱えてる倉田さんの姿があった。
「あっ……(えっ)」
彼は、餌を金属のボウルに移しながら、近くの野良猫に丁寧に話しかけていた。
「食え。今日はカツオ風味だ。塩分は控えめにした」
……あのセリフをなぜ、
あそこまでかっこつけられるのか。
でもなんか脳内で声だけ
津田健次郎にしてみたら許せた気がする。
業務終了後の朝、佐々木はとうとう倉田さんを尾行してしまった。
そして見てしまう。
倉田さんが、自宅で「誰もいない部屋」に向かって語りかけている姿を。
「……〇〇〇?」
小さくてよく聞こえない。
何もない部屋だな。誰と喋ってるんだ?
「……あの佐々木という男、多少面倒だな。手段は選ばない」
だ!だれの声なんだ!!
倉田「あいつは、む……」
その時
がたっ、と佐々木が盛大に植木鉢を蹴ってしまった。
倉田さんが即座に振り向く。
目が合った──気がした。
母ちゃぁーんっ!!
おれ、お、おれ終わった……!
最後に母ちゃんの味噌汁ううー!
トンカツぅー!!ハンバーグぅー!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!
【次回】
佐々木のズボン。
ちょい漏れで母激怒