倉田への報復
夜の街路灯が、濡れたアスファルトに冷たく反射している。
倉田さんと佐々木が歩く足音だけが響く。
巽は少し遅れて、影の端でしなやかに歩く。
「……なんか、今日は妙に静かですね」
佐々木がつぶやく。
倉田は無言で横を歩き続ける。
その瞳は、遠くの闇の動きを淡々と追っていた。
次の瞬間、鋭い光と轟音。
「――っ!」
黒い車が突っ込んでくる。
倉田は、冷静に車の動きを読み、反射的に、横に一歩踏み出すが、同じタイミングで佐々木が咄嗟に倉田の前に飛び出した。
佐々木の体が地面に叩きつけられる。
車のバンパーが佐々木の身体を強打する。
「ぐはっ!!」
巽がすり抜けるように車の側面に飛びつき、タイヤの影に身を潜める。
社員か、謎の報復者か――誰かの叫びが、夜の空気を裂いた。
倉田は言葉を発さず、ただ無表情のまま、赤く光る車のライトを睨む。
巽が一声低く鳴き、佐々木の傍に飛び乗る。
まるで「これ以上はさせない」とでも言うかのように、影に潜む敵を威嚇している。
倉田は静かに歩み寄り、佐々木に背中を向けたまま何かを敵に向かい吐き出す……
圧倒的なオーラと圧。
誰もその空間に入ることは許されなかった……
佐々木からの視界には、倉田の背後で残像だけを残し、中にいた男の強ばった表情とともに車は闇に溶けた……
冷たい夜風だけが、戦場の余韻として残った。
―――続く―――