表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

佐々木、倉田を誘う




──終業後のロッカー―――



巡回と点検記録を終えた佐々木が、コーヒー片手にうずくまっていた。


佐々木「……倉田さん……今日、行きません?」


倉田「どこへ」


「“ふくや”。定食屋。……日勤の岩田さんとこの間行ったの知ってますよ?」


(静かに頷く)


「たまにはどうすか。“朝活”ってやつ。朝からちょっとだけ飯食って、のんびりして。疲れてんでしょ?俺は疲れてます!」


「……味噌汁がぬるい」


「またそれ言う!!味噌汁にうるさいのはわかりました!いやでもあそこ、朝飲み可なんですよ?ビール冷えてますよ?」


(無言。だが、制服を脱いでロッカーに仕舞い佐々木に顎を出す倉田)


「……マジか、今のが“行く”ってこと?え、マジで?」


──


午前10時すぎ


「大衆めし処 ふくや」

開店直後ののれんが揺れる。まだ客は少ない。


店員「いらっしゃい。お好きな席どうぞ~」


倉田(奥のカウンター席へ無言で着く)

佐々木「えっと、とりあえず唐揚げ定食と、瓶ビール2本!」


「ビールはお二人で?」


「あっ……えっと、はい。でも……たぶん一本は全部あの人が飲みます」


(静かにメニューを見ながら、倉田はうなずく)


──食事が始まると、佐々木はよく喋り、倉田はよく食べた。


「それにしても倉田さん、酒強いですよね。前も全然顔色変わらなかったし」


「……体質だ」


「それで言うと俺、超弱いっすからね。たぶんすぐ酔うタイプ」


(味噌汁を一口すする)


「……今日は、ぬるくないな」


「またまたーー……ってほんとだ!」


──数分後、瓶ビールの栓が二つ。

唐揚げの皿が空になった頃。


「あの……倉田さん。失礼だったらスルーでいいんすけど……」


(目だけ向ける)


「……なんで夜勤、やってるんすか?」


(店内のテレビが流すニュースの音だけがしばらく響く)


「……夜は、静かだ。……それだけだ」


「……なんか、それっぽいなぁ。俺だったら“昼がうるせぇから”って言っちゃうけど……。あ、そうか、それ同じか」


(不意に、倉田が一本指で空の皿をトンと軽く叩く)


「……唐揚げ、レモンかけなかったな」


「えっ?……はい。嫌いなんすよ。しみるし。口の端とか割れてると地獄だし」


「……わかる」


(ふいに二人、同時に笑った。わずかに。ほんの一瞬だけ)


──会計時、倉田が先に立ち、伝票を持ってカウンターへ。


「あっ、俺出しますって!たまには後輩に奢らせ──」


「……先に食ったやつが、払う」


(しれっと財布を出す)


「や、やべぇ……かっこいい……。あの言い方、会社で使いたい……」


──


店を出て


日差しが強くなり始めた歩道。

コンビニの前を通る時、佐々木がふと思い出したように言う。


「あ、そうだ。夜勤のやつに、“おっさんの味噌汁論”が広まってますよ」


「……余計なことを吹き込むな」


「うへへ、バラしますよ?“温度で見抜く男”ってあだ名」


「……味噌汁は、鍋の最後の一杯で、温度がすべてだ」


「なんかそれ聞くと、人生論に聞こえる……」



---


佐々木の心の日誌


> 倉田さんと朝定食。

たぶん、あの人はひとりが好きだ。でも、誰かと食う飯も嫌いじゃない。


“夜が静かだから”なんて言ってたけど、本当は──

自分の声を、誰にも聞かせたくないだけなのかもしれない。



あんなに人間かどうか疑ってたのに、気づいたらなんか仲良くしたい気持ちになってきたんだよなあ……


これは……マインドコン……いや、直感を信じるんだ!倉田さんは悪い人じゃないと俺のセンサーに引っかかっている!!

ん……引っかかっるとまずいのか?……逆かな?俺今何考えてたっけ?……ま、いいや。


でもまあ、今日の味噌汁、俺はちょっと熱すぎたな……やっぱ母ちゃんのが1番だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ