クソガキの戯れ
──午後10時すぎ。団地裏の階段下。
夜風に揺れる草むらの中、ひときわ目立つ青いフード。
例の“クソガキ”が、階段の縁にちょこんと座っていた。
倉田(静かに足音を忍ばせ、懐中電灯の灯りを避けて近づく)
ガキ「……来ると思った」
倉田「……そこは死角だ。蛇もいる。座るな」
「なんだよ、また説教か。別にさ、怒られに来たんじゃねぇよ」
(無言)
「……ただ、ちょっとだけ、……なんか──気になっただけ」
「……巽に何かしたのか?」
「してねーよ、してねー。……あいつ、たまに見かけるけどさ、目ぇ合わすと逃げんだよな。……ちょっとムカつくけど、まあ、しょうがねぇか」
(風が吹いて、少年の髪が揺れる。足元を見ると、履いているのは前よりもサイズの合った、けれど古びたスニーカー)
倉田「……靴は?」
「施設の人がくれた。親が昼間いないから、週に何回か来てんだって。……なーんか面倒くせぇんだよな、いろいろ」
「それでも──お前は、生きている」
(少年、一瞬だけ倉田を見上げる)
「……おっさん、あの時──マジで、俺のこと怒ってた?」
「ああ」
「……でも、なんか、変な感じだった。殴られたわけでもないのに、ズキズキしてさ……頭ん中が」
「それは──お前の心が、生きてる証拠だ」
(小さく鼻で笑う)「……は?詩人かよ、おっさん」
(そこへ、遅れて巡回から戻ってきた佐々木がやって来る)
佐々木「うわ!なに!?え、また君!?てか今夜もいるの!?あれっ、でもなんか……顔がちょっとマシになってる?」
「は?うっせーよウザいんだよ兄ちゃんは」
「やっぱり口は悪い……!何このツンデレ構造!」
「つん……?でれ?なにそれ意味わかんねぇ」
倉田(小さくため息)「──佐々木、味噌汁は?」
「えっ、また!?あれ俺担当なんですか!?職務にないんですけど!?」
「お前“味噌汁飲ませたいやついるからさ多めにお願い……”ってこの間母ちゃんに電話で頼んでたろ。オレは覚えてるぞ」
「くっ……子どもにマウント取られるとは……」
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その夜、警備室前のベンチで、少年は味噌汁を手に静かに座っていた。
あの頃より、少しだけ姿勢がまっすぐで
少しだけ、口数が少なくなっていた。
(ぽそり)「──おっさん、今日も見つけてくれて……ありがとな」
(聞こえたかどうかもわからないような声。けれど、倉田は確かに小さく頷いた)
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佐々木の日誌
クソガキ、再び来訪。
あの態度で「ツンデレ」要素まで搭載してきやがった。
でも……なんか可愛くなったような……
うん。気のせいだ、また味噌汁増やすよう母ちゃんに頼んどくか。うん。