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第1話 夜勤ドラキュラ出勤する
深夜のオフィスビル街。
ビルのロビーに、コツン、コツンと革靴の音が響く。
「倉田です……」
静かな声で名乗り、打刻機の前で出勤処理を終えると、
紺色の制服に身を包んだ男は、警備室へと歩き出す。
倉田。年齢不詳。都内某所で夜間警備を担当する男。
寡黙で真面目で、無駄口を一切叩かない。
その正体は――吸血鬼。
もちろん、人間には内緒だ。
鏡に映らないため、社員証の写真はいつもブレている。
顔認証が使えないので、スマホは指紋認証オンリー。
食事は持参の“赤い液体”入りタンブラー。
十字架や日光、ニンニクはうまく避けながら、
彼は今日も、誰にも気づかれないように「人間」として生きている。
それが、彼なりの“平穏な人生”だった。
……少なくとも、今日までは。