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無謀な計画

「無理だって、明夏(めいふぁ)姉さん! こんなの正気じゃない……!」


 寝込みを襲われ、縄でぐるぐる巻きにされた双子の弟が、寝間着姿でわめいていた。その口に布を噛ませた明夏は、弟の細い体を軽々持ち上げる。物置に小麦袋を降ろすように弟を放りこんだ。

「あでっ!」という悲鳴があがり、転がった拍子に口に噛ませていた白布が外れる。涙目になった弟は、小麦袋のように転がったまま、涙目で訴えた。


「絶対に無理だよ! 僕の代わりに後宮に行って、後宮料理人になるなんて──!」

「なんで無理なの?」

「後宮料理人には男しかなれないんだよ!? 明夏姉さん、女じゃないか!」


 悲鳴のような声に、ふん、と明夏は鼻息をもらした。


「私は並の男より力があるし、背だって高いんだよ。声も低いからばれっこないって」


 そういう問題じゃないだろぉ! と聞こえたが、無視してまた弟の口に猿ぐつわを噛ませる。あまり騒がれると、眠っている他の家族に計画のことがばれてしまう。弟の後ろには古い鏡があり、曇った鏡面に自分の姿が映っていた。大丈夫、と思っていたが、ついそこで姿を確認してしまった。


 髪を男のように結い、青い服を着た少年がひとり。不機嫌そうに唇をとがらせている──どこからどうみても少年にしかみえない。今年十四になる明夏は、弟そっくりの精悍な顔つきだ。凛々しい眉、健康的に焼けた肌。筋肉だってそれなりについている。鏡にむかって微笑みかけると、白い歯が覗いた。隣近所の少女たちを黄色い声で騒がせる、爽やか系少年の爆誕だ。鏡に映る姿をみて、あまりの男ぶりに我ながらげんなりしてしまった。前から男らしく凛々しい顔だと思ってはいたが、こうして男ものの服を着ていると、とても女にはみえない。涙目でもがく弟を座らせて、目を合わせる。


「あんたの料理の腕じゃ、後宮料理人の試験には受からないよ。でも安心して。私が必ず試験に受かって、後宮料理人になってみせるから。あのぼんくら公子にも会って、くだらないお触れを撤回させてやる」

「んん──っ!?」


 もう一度猿ぐつわを噛ませたせいで、弟がなんと言ったのかはわからなかった。この物置には数日に一回、家族の誰かが必ずやってくる。小麦や砂糖などを補充するためだが、運がよければ、不在を心配した両親や他の兄たちが、明日にでも弟を見つけてくれるだろう。ここに弟を放置しても、死ぬ心配はないはずだ。小さくまとめた荷物を持ち、明夏は物置を出た。空には黄金飴みたいに甘そうな満月が出ている。息を吸い込むと、繁華街のほうから香ばしい匂いが流れてくる。街の大通りは夜中でも賑わっていた。赤い提灯がたくさんともされ、屋台に群がる人々で混みあっている。


 ここは美食で有名な烏羅魔(うらま)国、王宮の裾に広がる広大な城下町だ。町の端がこのあたりで、すぐ後ろに城壁がみえている。反対端が王宮だが、そこまで歩いていくのにまる一日かかるほど広大な町だった。美食の国らしく、大通り沿いには飲食店がずらりと並んで華やかだが、どの店も今は息をひそめ、怯えているようにみえた。明かりをすこし落とし、王宮の兵からの罰を恐れるかのように、華やかさに翳りをみせているのだ。屋台を物色して歩きながら、思わずため息がこぼれてしまった。この町の飲食店は今、どこも大変だ。すべてはあのぼんくらのせい、第四公子のせいだった。


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