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18.決心

俺とロッセルは王宮を抜け出すとすぐ、帝国西部の森へと転移した。



バルダン帝国は、周囲をぐるりと森に囲まれているのだ。

森に転移するや否や、ロッセルはがばっと猫耳忍者姿の俺に抱き着いて来た。



「すごいぞ、しょこら!!あの人数を一瞬で出し抜くなど、さすがしょこらだ!!アイタタタタ!!」


俺はまた右手でロッセルの頬を押し返しながら、フンと鼻を鳴らす。



「フン、あんな阿呆の二人組なんざ無視してさっさと逃げられたんだが、一応何か情報を得られないかと思って話させてやったんだ」


それを聞いてロッセルはますます目を輝かせた。


「さすがしょこらだ!!だが、特にこれと言った情報は得られなかったな……。ただ、父上も既に精神支配を受けている可能性が……」



ロッセルが頭を抱える隣で、俺も考え込む。



ギルバートとデルバート然り、国王然り、一応俺のことを疑う理由は筋が通っている。

確かに俺がこの国にやって来たとされる時期とほぼ同時期に、魔物の襲撃が起こっているのだ。


普通なら、突然この国に現れた俺が原因だと考えるのも無理はない。



もしかするとこの国の者は精神操作などされておらず、単純に事実を見つめた上で、俺のことを疑っているのだろうか。

しかし国王や兵士達は、俺がこれまでどれだけ魔物討伐に協力してきたかも見てきたはずだ。


それすら、アゼリア国や俺がこの国を陥れる作戦の一部だと思っているのだろうか。



あるいは俺達が気づかないほどの巧妙さで精神操作は進み、既に俺とロッセル以外の大半の人間は、何者かによって洗脳されているのだろうか。


女神の警告のことを考えると、おそらくその可能性のほうが高いように思える。




俺とロッセルはとにかく木立に隠れてテントを張り、野営の準備を整えた。


結界魔法を施したが、幸い周囲には魔物達の気配はない。




テントの前に座り込み、三角座りで小さな焚火を見つめながら、ロッセルは突然頼りなさそうに言う。




「……しょこら、本当に済まない………」

「何がだよ」

「だって、私が安易にしょこらに助けを求めたせいで、このような事態に……。私がもっと強ければ、そして自分の身を自分で守れていれば……」



俺は今更だというようにはあっとため息をつく。


「気にするな。俺が自分で選んだことだ」




しばらくの間、沈黙が夜の闇を包んだ。




「しょこら、これから一体どうする?このまま逃げ回っていても、いずれ捕まるだろう……」


「おう。精神操作を解くには、元凶を断つしかない。魔王だか魔族だか分からないが、この事態を引き起こしている奴を探すしかない。おそらく魔物の増加もそいつの仕業だろう」


「だが、一体どうやって……。そもそも私達は、精神操作の方法すら掴めていないのだ……」



俺はそれについてもう一度考える。



これまで俺は、魔族が人を操るには、何かしらの媒介が必要だと思っていた。


スラシア事件のように、領主として人々の上に立つこと。

または四百年前のように、麻薬を介して精神に影響を与えること。

あるいはミーシャがしたように、飲食物を経由するか、物理的に相手に触れること。



俺達は町を歩き回り、兵士達が口にする食事や町人の間で流通している薬など、可能性のありそうなものは徹底的に調べたのだ。

だが人々が共通して使用しているものは見当たらなかった。


それならば人々の上に立つ者が怪しいが、どの人物にも目立った変化はない。



そうして手がかりが掴めぬまま、いつの間にかじわじわと洗脳は進んでいた。

まるで噂がゆっくりと広がるかのように。



「もしかすると今回の魔族は、精神操作するために、媒介を必要としないのかも知れない」


俺は独り言のようにそう呟く。

ロッセルは驚いた様子で俺の方を見た。


「そんな、まさか!ただ空気を介して感染するかのように、洗脳が広がったとでも言うのか?」



俺はその時ふと、ロッセルの顔を見て何かが引っかかる。

そのままじっと顔を見つめ続けると、突然あることに気が付いた。



「おい、しょこら、どうした?そんなに見つめて……。そうか、しょこらもついに、この私の美顔に気が付いたのか……」

「チッ、全く……なんで今まで気づかなかったんだ……」

「まあまあ、しょこら!今からでも遅くはない、たっぷりと私の顔を見るが良い!アイタッ!!」



とりあえず俺はパシーーーーーンとその顔を引っぱたく。



「おい、お前はなんで、洗脳されていないんだ?」


俺がロッセルに尋ねると、ロッセルもやっと気が付いてあっと声を上げる。



「そうだ、なぜ私は影響されていないのだ?……もしや、私の中に、何か特別な力が……」

「おい。隙を見て、また王宮に戻るぞ」

「ええっ!なぜまた王宮に……」



まだ確かなことは分からないが、俺はとりあえず仮説を立てる。


ロッセルはこの国の中で唯一、俺が無実であることを知っている。

自分が俺に助けを求めた張本人だからだ。


もしかするとそのお陰で、精神支配を免れているのかも知れない。



しかし何も知らない者達は、俺が騒動の原因だという噂に惑わされ、疑心暗鬼になる。

その疑う心こそが、洗脳の媒介であるとも考えられる。



そして、俺がこの国にいることを最初に知ったのは王宮の者達だ。

噂を広めた張本人は、王宮の中にいる可能性が高い。




俺がそこまで説明すると、ロッセルは感心したように頷いた。

そして突然真顔になり、何事かをじっと考え込む。



「……おい、しょこら」

「なんだよ」

「今の私では、とても戦力になれそうにない。対人戦は得意だが、実際はギルバートやデルバートほどではないんだ。それに今回の相手が魔王や魔族であれば、むしろしょこらの足を引っ張るかも知れない」



俺は一瞬、だから一緒に行きたくないと言い出すのかと思った。

しかしロッセルは真面目な調子を崩さずに続ける。



「だから、もし可能であれば、私を従魔にしてくれないか。そうすると、私ももっと役に立てるだろう」


その申し出に対して、俺は即座に首を振る。


「言っただろ。従魔契約は一個体としかできない。お前と契約するなら、アルクとの契約を解除しないといけないんだ」


「ああ、分かっている。無論この騒動が終わったら、私との契約はすぐ解除してくれ。ただ今は、私は足手纏いにはなりなたくないのだ……」



その時、俺の頭の中には再び、女神の声が蘇る。



「……と従魔契約を……。あの子の事は……配しないで」




「あの子」とはおそらく、アルクのことだろう。

女神は俺がロッセルとの契約を拒否することを予想して、わざわざ最後に付け加えたのだ。



「あの子のことは心配しないで」




全く無理を言う女神だ。



しかし、今ここでロッセルを従魔にすれば、確かに戦力としては各段に上がるだろう。

国中が敵かも知れず、敵の得体も知れない今、ロッセルと契約することは合理的に思えた。



それに、ここでしくじれば、それこそもうアゼリア国には帰れないかも知れないのだ。



「チッ、心配するなと言うだけの根拠があるんだろうな!もしなかったらこの世界ごとぶっ飛ばしてやる」



俺は腹を決めて、右の手のひらを上に向ける。

小さく呪文を唱えると、ピンクと紫の間の色の魔法陣が現れた。



そしてあの無機質な声が、俺の頭の中に響き渡る。



「しょこらとアルクの従魔契約が、解除されました。」




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