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16.四面楚歌

俺は部屋に押しかけて来た兵士達をじっと見つめる。



何しに来たんだと聞くまでもない。おそらく俺のことを捕らえに来たのだろう。

俺がベッドから身を起こして身構えていると、兵士の一人が言った。



「やはりこいつは、自分が囚われる理由に心当たりがあるようだな」


そして次の瞬間、十数人の兵士達は動き出す。



俺は猫の姿のまま、こちらに向かって放出された魔道具の縄を掻い潜る。

この厄介な黒い縄に捕らえられたら、以前のように魔法が使えなくなってしまう。



「くそ、そっちに行ったぞ!」

「どこだ!?おい、誰か灯りを点けろ!!」



部屋の暗闇が功を奏し、黒猫の俺は闇に溶け込んで兵士達の足元をすり抜けた。


そしてそのまま、部屋の扉を抜け出す。



「くそ、とりあえず人目に付かない場所まで行って、転移魔法で逃げるしかないか」



俺は廊下を俊足で駆け抜けながら、ロッセルに念話を飛ばした。


『おいお前、今どこにいる!』



しかしロッセルからはすぐに返事がない。

もしかすると奴らは、ロッセルまでも捕らえたのかも知れない。仮にも一国の王子だが、兵士達が洗脳されているとすれば話は別だ。





俺が部屋を抜け出す少し前、ロッセルは一人で兵士達に対峙していた。


剣を引き抜き、息を殺して身構える。



「お前達、私のことも捕らえるつもりなのか」


ロッセルが静かに問うと、兵士達はまた表情のない声で答えた。


「申し訳ございませんが、あの従魔とはこれ以上近づかないようにとの、国王様の命令ですので」


「父上に会わせてはくれないか。私が直接説明しよう」


「申し訳ございませんが、それはできかねます。我々は国王様の命で動いています」



『まさか父上まで、既に洗脳されたと言うのか……?』



ロッセルはギリリと歯を食いしばる。

その手段はまだ分からないが、俺達が思っていた以上に精神操作は進んでいるようだ。



じりじりと距離を詰めてくる兵士達を、ロッセルはじっと観察する。

そして次の瞬間、姿勢を屈めて兵士達に向けて突進した。



「うわああああっ!!!」



ロッセルは剣の一払いで数人の足元を切りつけ、兵士達はバタバタとその場に崩れ落ちる。

続いて背後から近づく者の腹を剣の柄で殴打し、前方から飛び掛かる数人の剣を一手に受け止めた。



「私は対人戦は得意なのだぞ。それにしょこらにも鍛えられたのだ」



飛び掛かった数人を跳ね飛ばし、全員が地面に崩れ落ちた瞬間に、ロッセルはその場を駆け出した。




『しょこら、すまん!さっき私に念話を飛ばしただろう。戦っていたので返答できなかった』


ロッセルは走りながら俺に向かって声を飛ばす。


『おう。とりあえず今は逃げるぞ。お前今どこにいる』

『今は二階の渡り廊下だ。しょこら、東にある別館の裏で落ち合おう。あそこなら護衛の数が少ないはずだ』



俺とロッセルはそれぞれ、別館目指して走り続けた。

途中すれ違う兵士や臣下達は、片っ端から魔法や剣で跳ね飛ばしていく。



数分の後、俺達は申し合わせた場所で落ち合う。


確かにそこには護衛隊の姿が見えず、建物の陰になっており人目にもつきにくい。



「はあ、はあ……しょこら、これはまずいことになったぞ……」


ゼエゼエと息を切らして、膝に手をつきながらロッセルは言った。


「私達が思っていた以上に、皆精神支配を受けているようだ……」

「おう。今はとにかくここを離れて、対策を考え……」


「残念だが、それはできない相談だ」



俺の言葉を、何者かの言葉が遮った。


どこかで聞き覚えのある、人の神経を逆なでするような嫌味な声だ。



俺とロッセルが声の方を振り向くと、建物の陰から二つの人影が現れる。

その人影が月明かりの下に足を踏み出すと、二人の顔が明らかになった。



「ギルバート、デルバート………お前達、一体なぜここに………」



ロッセルの声は思わず小さく震えていた。それは怯えからではなく、怒りの震えだ。



それはロッセルの従兄弟達だった。


以前俺がこの国を訪れた際、魔術研究所と組んで問題を引き起こし、その後大公爵位を剥奪されたのだ。



「お前達は、王宮の門をくぐる事を禁じられているはずだ!」



思わず剣に手をかけながら、ロッセルが凄んだ。

ギルバートとデルバートはその顔に、以前見た時と変わらぬ意地悪い笑みを浮かべている。



「この国の危機に、国王様は我々に助力を求められたのだよ。我々はこの国に取って大きな戦力だった。お前などとは比べ物にならないほどに」


兄であるデルバートは、小馬鹿にしたようにロッセルを見下ろす。


「お前が従魔に洗脳され、国に対する反逆に加担しようとしているのを、止めてほしいとの国王様の命令だ」

「何を言うか!父上はしょこらに感謝しているのだ。そのような命を下すはずはない!!」



すると今度は、兄そっくりに嫌味な顔つきのギルバートが答える。



「目を覚ませ、この無能め。もはやこの国で、その従魔を信じているのはお前だけだ。少ない脳みそでよく考えろ、なぜ従魔がこの国に来たと同時に、魔物の襲撃が起きたのだ?それは全くの偶然か?」


「だからそれは……私がしょこらに助けを求めたのだ!!」



するとギルバートとデルバートは、高々と笑い声を上げる。

その声は東館の壁に反響して夜の空気を震わせた。



「はははは、もう少しましな言い訳を考えたらどうだ!!お前が助けを求めてからこの国まで来るのに、一体何日かかると思っている!瞬間移動でもしたと言うのか!」



その通りだと叫びたいところだが、そういう訳にはいかない。

転移魔法のことが知られたら、それこそまた頭のおかしい研究所送りにされるだろう。


そもそも、洗脳されていようがいまいが、この二人には何を言っても無駄だ。



代わりにロッセルは剣を引き抜いて二人の方へ突き付ける。



「真実はいずれ分かる。すまないが今は行かせてもらうぞ」



しかしその時、背後からも別の影が近づいて来る。


そこにはさらなる兵士達が数十人、俺達をぐるりと取り囲んでいた。

兵士達の手にはあの厄介な黒い魔道具が握られている。



こうなればもはや、強行突破するしかない。



そう決めてからは一瞬だった。



俺は瞬時に、猫耳忍者に変身する。

変身することで、俺は瞬時に時速100マイルは出すことができる。



何が起きたのか兵士達が理解する前に、俺は既に走り出している。


走り出しざまにロッセルを拾い上げ、肩の上にかつぐ。


奴らが不意を突かれた表情すら見せる前に、俺はロッセルの従兄弟達を突き飛ばす。


そのまま疾風のごとく王宮の庭を駆け抜け、門を蹴破り外へ飛び出した。



「くそ、逃げたぞ!!追え、今すぐ追うんだ!!!」



憤怒に満ちた二人の声を遠くに聞きながら、俺とロッセルは闇に溶け込み姿をくらませた。



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