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14.陰謀

「さあ、しょこら、今日も元気に特訓しようではないか!!」



ロッセルは朝から目を輝かせて、俺の部屋に飛び込んでくる。

まだ日が昇ったばかりで、俺もまだ目覚めてすらいなかった。



「ったく、お前、なんでそんなに急にやる気に……」


叩き起こされたことに舌打ちをしながら俺はつぶやく。




あの日、ロッセルに全てを話してから、既に三日が経過した。


俺はロッセルを部屋に引き入れると、これまでの経緯を全て残らず説明したのだ。

女神の手違いで俺が勇者になった事、アルクを従魔にしている事、そして魔王討伐までに経験した事。


しかし俺は、異世界や過去に転移した話まではしなかった。


以前の女神の話によると、神が時空を操れることを、本来人間は知るべきではない。

特に時間転移は完全なる禁術だ。


うっかりロッセルに話してしまうと、神王とやらに何をされるか分かったものではない。




説明を聞き終えたロッセルは、なぜか目をキラキラを輝かせて俺を見つめていた。

そしてガバっと猫の俺の体を抱き上げる。


「すごい、すごいぞしょこら!!まさかしょこらが勇者だったなど、夢にも思わなかったぞ!猫の勇者など前代未聞だ、かっこいいではないか!!……アイタタタタ……」



俺は右足でロッセルの頬をぐぐぐぐと押し返す。


「おい、調子に乗るな。それよりまだ話すことがある。二日前に俺が聞いた女神の声についてだ」



従魔契約の話をすると、今すぐにでも契約しろとせがまれそうなので、俺はそこは伏せることにした。


ただ女神から警告めいた声を聞いたことを、ロッセルに説明する。



「だから今回も、やはり魔王が絡んでいる可能性は高い。それも今までの阿呆の魔王とは違う。お前、調子に乗って油断するんじゃねえぞ」



しかしそれからというもの、ロッセルは日々うきうきしていた。

すれ違う臣下や兵士達が、場違いな明るさに思わず眉をひそめるほどだ。



一つ良かった事といえば、ロッセルが特訓にかなり積極的になったことだ。

以前は度々弱音を吐いていたが、今では倒れそうになるまで剣を振るいつづけている。



「お前、だいぶ間合いが分かってきたな。次の討伐依頼が入ったら実戦といくか」


珍しく褒められたことで、ロッセルは無駄に整った顔をキラキラと輝かせる。

いちいち表情がうるさいやつだ。



「望むところだ!!勇者の相棒として、私は全力で勤めを果たす……アイタッ!!」


俺はジャンプして、パシーーーーーンとロッセルの横っ面を張る。


「お前な、大声で話してんじゃねえよ!!」



その時訓練場には誰もいなかったが、どこで誰が聞いているとも知れない。


俺はロッセル以外の者には、自分が勇者であることを話すつもりはなかった。

王宮の人間含め、俺はこの国の人間を信用してはいないからだ。



ここ数日、俺達は辛抱強く情報収集に努めたが、魔王に関する手がかりは全く手に入らない。

怪しい行動を取る人物も特に見当たらなかった。



しかし俺は、王宮内や町中で、度々視線を感じるようになっていた。


人々は俺の姿を見つけると、じっとこちらを見つめたり、ヒソヒソと何事か囁き合ったりする。

浮かれているポンコツのロッセルは、俺に言われるまでその異変に気付かなかった。




「皆、しょこらと話したがっているだけではないのか?どれ、私が話を聞いて来よう!」


昨日、町中を散歩していた最中、そう言ってロッセルは突然町人達の元へ駆け出した。

しかし近づいて来るロッセルを見て、町人達はそそくさとその場を離れてしまう。



何やら帝国の人々は、俺に関する良くない話でもしているらしい。

だがそれがどのような内容か、俺にもロッセルにも分からなかった。





その日の夜、俺は先に部屋へと戻る。


一人で王宮内を歩いていたロッセルに、その時、数人の兵士達が近づいた。



「な、なんだお前達?こんな夜更けに……」


突然周囲を取り囲まれ、ロッセルは思わず剣の柄に手を伸ばす。

無表情の兵士達は、どこか物々しい雰囲気を放っていたからだ。



「ロッセル様。我々と共に来てください」

「なぜだ。理由を聞かせてもらおう」


ロッセルが身構えると、別の兵士が無表情を崩さずに話し出す。


「ここ最近の魔物騒動は、全てアゼリア国の勇者の差し金だと言われています。勇者があの黒猫の従魔をこの地へ送り込み、何等かの手段で魔物達を刺激していると」


「な、なにを馬鹿なことを……!!」


あまりに突飛な内容に、ロッセルは思わず声を荒げる。


「これまで魔物の被害が最小限で済んだのは、全てしょこらのお陰ではないか!お前達、その恩を忘れてそのような戯言を……」


「では、魔王領もないこの大陸で、なぜここまで魔物が増えたのですか?聞けばあの従魔は、魔物の被害が増えたと同時期に、この大陸へ渡って来たという話ではないですか」


「だがそれは……」


「この国が窮地に陥った時に、たまたま運よく、勇者の従魔がこの地を訪れていた?そんな都合の良い話はありません。この騒動は全て勇者の陰謀です。

奴らは力に任せてこの国を混乱に陥れ、自国に服従させるつもりです。その証拠に、アゼリア国へ救援要請しても、かの国はだんまりを決め込んでいます」



ロッセルはそう言われてぐっと言葉に詰まる。



本来、アゼリア国からバルダン帝国までは船で5日間を要する。

そうすると俺は、バルダン帝国での魔物発生よりも前にアゼリア国を出発したことになるのだ。


転移魔法のことは誰にも言えないので、俺がロッセルの命を救うため一瞬で駆け付けたなどと、説明する訳にもいかない。



それに、バルダン帝国からの書状に対して、なぜかユリアンから返事がないことも事実だ。


何等かの力で、この国と外部との接触が遮断されている可能性は高いが、そんな不確かな情報を与えても無駄だろう。



それでも負けじとロッセルは声を張り上げた。


「とんだ濡れ衣だ!待ってろ、私がしょこらの無実を証明してやる!!お前ら、しょこらに何かしたらただでは置かないぞ……!!」




しかしその時、俺の部屋には既に、別の兵士達が押し寄せていた。




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