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11.尋ね人

「やっと少し、魔物の動きが落ち着いたみたいだね」



宿屋に泊まった翌日、モントールの町を歩きながら、ジーナが言った。


これまでは一つの依頼を終えると、すぐにユリアンから念話が飛んできて、次の場所へ向かうことの繰り返しだった。

だが、今朝のユリアンからの念話によると、やっと魔物の数が減少してきたらしい。



『本当にありがとうございました、アルク様。アルク様がいなければ、事態は一層悪化していたでしょう。ですがまだ油断はできません。数こそ減りましたがまだ被害は続いていますので、またお力をお借りするかも知れませんが……』


『うん。なにかあったら、いつでも念話で連絡してよ』



アルクがそう言うと、ユリアンは念話の向こうで沈黙する。

一瞬、念話が途切れたかと思いきや、突然ミーシャが割り込んできた。


『アルク様、お時間があればまたユリアン様のところへお越しください。個人的にお礼がしたいそうですので。今もアルク様へのお気持ちが溢れて泣き出しそうになっています』

『ちょ、ちょっとミーシャ、あなたまた余計なことを……』



またユリアンとミーシャの言い合いが始まったので、アルクは笑いながら念話を切った。


アルクがジーナの方を振り向くと、ジーナは笑いながらアルクを見つめている。



「えっと、ジーナさん、なんで笑ってるの?」


またからかわれるのではと思い、アルクは何となく身構える。

するとジーナは嬉しそうに言った。


「アルク君、やっと笑うようになったね」

「え………」

「だって君、ずっと落ち込んでいたから。しょこら君がいなくなっちゃったから」



アルクは何となく気恥ずかしくなり、ジーナから目を逸らす。

まだ出会ったばかりだというのに、何となく自分のことを見透かされているような気がした。



「うん。………ジーナさんのおかげだよ。ありがとう」


アルクは俯きながら言う。


「もし一人で旅をしていたら、きっと僕はまた、駄目になっていたと思う」


正直に礼を言うアルクに、今度はなぜかジーナが苦笑した。



「けど本当に元気が出たみたいで良かったよ。……時にアルク君、今日は魔物討伐がないみたいだから、少し人探しを手伝ってくれないかな?」


「人探し?うん、いいよ……誰を探してるの?」


「それが、名前は分かるんだけど、どんな風貌かは分からないんだ。えっと、確か名前は……」



しかし、ジーナのその言葉は、突然アルクの頭に響いた念話により遮られる。


「ま、待ってジーナさん、今急に念話が……」


『アルク様、申し訳ございません!!少し応援をお願いしたいのです。数日前からヘイデン領郊外のダンジョンから魔物が地上に押し寄せていて、もはや護衛隊では抑えきれないとたった今連絡が参りまして……、近くの冒険者は動ける者がいなくて……』




さっきの今で、ユリアンから念話が飛んできたのだ。

アルクはすぐに引き受けて、ジーナに状況を伝える。


「ヘイデン領……」


ジーナは独り言のようにぼそりと呟く。


「じゃあ、すぐに向かおうか!」




コクヨウを飛ばしてヘイデン領郊外へ到着したのは、それから数時間後だった。

アルクはここ数日で、転移魔法が使えない不便さを思い知らされている。



現場に降り立つと、アルクの目に飛び込んで来たのはウィルの姿だった。



「ウィル!どうしてここに……!?」


アルクはウィルの元へと駆け寄りながら尋ねる。

ウィルは護衛隊員達と共に、ダンジョン入り口から流れ出てくる魔物に対処していた。


自ら作り上げた魔法陣を展開して、次々と攻撃魔法を繰り出している。


アルクの声を聞いたウィルは、攻撃を中断してこちらを振り向いた。



「アルク、来てくれて助かったぜ!いや、人手がどうしても足りないからって、俺や魔術学校の教師達まで駆り出されてんだ。………って、その人は……」



ウィルはアルクの隣に立つジーナに気が付き視線を向けた。

ジーナはにっこりと笑いながら右手を差し出す。



「私はジーナだよ。一応冒険者なんだ。今はアルク君の手助けをしている」

「はあ、そうですか……。えっと、俺はウィル……ウィルギリウス・ヘイデンです」

「ウィル君。よろしくね」


ジーナは意味ありげに微笑みながらウィルを見つめ返した。



ポカンとした表情でジーナを見ていたウィルは、次の瞬間さっと振り返り、ガバっとアルクの肩を組む。

そしてコソコソと小声で囁いた。



「おいアルク、お前、今度はあの人をたぶらかしてんのかよ!」

「たぶらかすって何だよ!ただジーナさんは、僕に協力してくれてるだけで……」

「すげー綺麗な人じゃねえか!お前な、そうやっていつも自覚なしに……」



背後から二人の様子を眺めながら、ジーナは面白そうに尋ねる。


「君達は仲良しなんだね。親友なのかい?」


ジーナの質問に、アルクとウィルは同時に振り向く。


「えっ……えっと、まあ、はい……」


アルクが多少赤面しながら言うと、ジーナはさらににっこりと笑う。


「へえ、親友かあ……」

「あの、ジーナさん……?何か……」

「ああ、いや、何でもないよ。さあ二人とも、こんなことしてる場合じゃない。さっさと魔物を片付けよう」



そう言ってジーナは剣を引き抜き、頭の後ろで結ばれた長く茶色い髪をなびかせながら、ダンジョンの方向へと駆け出して行く。



アルクとウィルも慌ててその後に続いた。



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