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10.呼びかけ

「おおいしょこら、ちょっと待ってくれよ!」



スタスタと足早に歩く俺の後を、ロッセルは急ぎ足で追いかけてくる。

俺は猫の姿のまま、細い裏路地もするりとすり抜けていった。



「ったく、さっさと付いて来い!!」


俺は振り向きもせず、ロッセルに向かって声を張り上げる。



バルダン帝国の人々の異変に気付いた翌日、俺とロッセルは再び町中を歩き回っていた。

一刻も早く原因を突き止め、元凶を始末する必要があるからだ。




昨日、異変に気付いてすぐ、俺とロッセルは国王に再び会いに行った。

討伐報告をするためではなく、国王自身に怪しいところがないか確かめるためだ。



以前、スラシアの町では、領主の地位を乗っ取ることで、魔王の配下は人々を支配していた。

もし同様の手口が使われているとしたら、人々の上に立つ者、すなわち国王が狙われる可能性がある。



しかし、国王の様子は相変わらずだった。

むしろ俺とロッセルに対して、労りの言葉をかけてくる。


「其方には本当に感謝している。魔物の襲撃も一旦落ち着いたようなので、今日は特別な食事を用意させよう……」



父親の変わらぬ姿を見て、ロッセルは胸を撫で下ろす。


「父上、ご無事なようで何よりです!しょこらから魔王の配下の話を聞いてから、私は気が気ではなく……」

「魔王の配下とは、どういうことだ」


国王は眉間をピクリと動かし、厳しい情報でロッセルと俺を交互に見た。



俺は国王に対して、魔王の配下による人々の精神操作について説明する。

話を聞くにつれ、国王はますます難しい顔をして黙り込んだ。



「……つまり其方達は、魔王の配下のような輩がこの国に現れ、人々の支配を目論んでいると言うのか。そしてその手段として、この私の地位を狙う可能性があると。その上、魔物の活性化や魔王の配下による陰謀は、魔王復活の前触れとして起きる現象であると」


「ああ。だがまだ可能性にすぎない。そもそも魔王が復活すること自体ありえない。ただ、今起きている現象は、俺が経験したことと共通している。今言えるのはそれだけだ」



国王はゆっくりと頷く。その顔には影が差し、気のせいか一瞬にしてずいぶん老け込んだように見えた。

おそらくここ最近の出来事で、心労が重なっているのだろう。



それから俺達は他にも、王宮内での権力者、帝国軍団長や有力貴族など、人々への影響力のありそうな人物の様子を探る。

しかしどの人物にも、特に怪しい点は見られなかった。





そして今日、俺とロッセルは再び、町での情報収集を続けているのだ。

不思議なことに、人々の異変が目立つようになるのと前後して、魔物の襲撃は徐々に減少している。



「それにしても、魔物の出現が落ち着いて本当に良かった。あいつらに対処していたら、とても情報収集などできないぞ」


ロッセルはやっと俺に追いつき、隣に並んで歩きながら言った。


「しかししょこら、今のところ特に、怪しい人物や店の話はないようだな」

「ああ。ったく、これじゃ何が原因なのか探るだけで一苦労だ」



四百年前でも現代でも、魔王の配下というのはどいつも阿呆で愚物だった。

頭を使う戦略など一切立ててこないので、怪しい人物を特定するのは容易かったのだ。



しかし今回は、なかなかその尻尾を出さない。

もしかしたら、やはり魔王とは関係のない何かなのだろうか。



「だが私は嬉しいぞ!こうしてしょこらと町を歩いていると、あれだ、まるで逢瀬しているようではないか!なあしょこら、ちょっと人間の姿になったらどう…………アイタッッ!!!」



俺はジャンプして、バシーーーーンとロッセルの頭を引っぱたく。



「お前な、こんな時にお花畑の発言してんじゃねえよ!!」

「いいではないか、せっかくの機会なのだ!それに私はこう見えて一部の女性からは人気があるのだぞ、顔だけは良いからな……」



もはや面倒なので、俺は無視して歩き続ける。


しかしその日は結局、目ぼしい情報を得られず仕舞いに終わった。





その日の夜、俺は王宮内に用意された部屋で、一人眠りについていた。


俺は普段は夢を見ない。見るとしたら、あの女神が俺に無理矢理見せてくる夢ぐらいだ。



しかしその日、眠っている俺の頭に、誰かの声が流れ込んでくる。

それは以前経験した女神の夢とは異なり、ひどく漠然として不明瞭だった。



俺にはそれが、あの阿呆の女神の声であることが何となくわかる。

しかし言っていることはまるで聞き取れなかった。



「おい、言いたいことがあるならさっさとそっちの空間に呼び出すか、夢に出てくるかしたらどうなんだ!」


俺はイライラして叫ぶ。しかし俺の声は、まるでどこかに吸い込まれるように消えてしまう。

それでも辛抱強く耳を澄ませていると、その時、途切れ途切れに女神の声が大きく響いた。



「ごめんなさい。時間が……いの。……を付けて、今回は……れまでとは違う」

「何だよ?もっとはっきりと……」

「あなた……けでは難しい。……と従魔契約を……。あの子の事は……配しないで」



そこまで言うと、女神の声はプツリと途切れる。



次の瞬間、まだ暗い部屋のベッドの上で、俺は目を覚ましたのだった。




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