ひだまりの時間
王宮の中庭は、冬の柔らかな陽射しに包まれていた。その中で、リリィと王女がソラと遊ぶ姿は、まるで絵画のように美しかった。
リリィは肩までのダークヘアを揺らしながら、ソラが持ってきた木の枝を笑顔で投げていた。その隣には、明るい水色の目と蜂蜜色の髪を持つ王女が、楽しそうに拍手をしている。ソラが枝を加えて戻ってくるたび、王女は歓声を上げ、リリィもそれに微笑みを返した。
「リリィ、ソラは本当に賢い犬ですね。こんなに上手に遊ぶ犬は初めて見ました!」
王女は声を弾ませながら、ソラの頭を撫でた。その無邪気な仕草に、リリィも心が和らいだ。
「ソラは私にとって家族のような存在ですから」とリリィが言うと、王女は少しだけ羨ましそうな顔をした。「リリィがいると、この王宮もずっと楽しいのにね。ソラも、もちろん」
王宮に足を踏み入れた当初、リリィは緊張していたが、王女がすぐに心を開いてくれたことで、日々が穏やかで楽しいものになっていた。元々リリィは工房での商談や交渉の場で培った社交的な振る舞いが得意で、王宮での貴族教育にもそれほど苦労することはなかった。加えて、王女自身が人懐っこく、飾らない性格であったため、二人は自然と仲良くなったのだ。
さらに、リリィが持ち込んだ「自作の髪染め粉」や「カラーレンズ」は彼女の見た目を大きく変え、周囲の注目をほどよく遠ざけていた。彼女の元のヘイゼルの髪と美しい緑の瞳は今、深い青の目とダークヘアに姿を変え、王宮では「異国の美しい花嫁見習い」として静かに過ごしている。
王女はリリィのアイデアに興味津々で、「リリィ、私の髪も違う色にできる?」と尋ねたこともあった。リリィは笑って答えた。「蜂蜜色の髪は、王女様にとても似合っていますよ。もし変えたくなったら、こっそりお手伝いしますけどね。」
二人が遊ぶ姿を遠巻きに見ている宮廷の人々の中には、彼女たちをまるで姉妹のように思う者もいた。並ぶと対照的な二人――明るい水色の目と蜂蜜色の髪の王女と、深い青の瞳とダークヘアのリリィ――その姿はまるで一幅の名画のようで、王宮の華とも言える存在だった。
中庭の陽だまりに設えられた小さなテーブルには、華やかな茶器とともに、シェフが心を込めて作った菓子が並べられていた。焼きたてのパイ生地が幾層にも重なる「ミルフィーユ」、色鮮やかな果実を閉じ込めた「ゼリー菓子」、そしてバターが香る「スコーン」が美しく盛られている。香り高い紅茶が注がれるたびに、甘い香りがふわりと広がった。
「リリィ、これ、とても美味しいわ!」
王女は目を輝かせながら、ミルフィーユを口に運び、カスタードクリームと苺の絶妙なハーモニーに感動していた。その頬にクリームが少しついているのを見て、リリィはくすりと笑う。
「王女様、ここに少し…」
リリィがハンカチでそっと拭いてあげると、王女は恥ずかしそうに笑った。「ごめんなさい、あまりに美味しくてつい夢中になっちゃったわ。」
「それなら、これもお試しください。スコーンには、特製のクロテッドクリームとベリージャムを合わせるのが一番です。」
リリィがそう勧めると、王女は素直に手を伸ばした。温かいスコーンにたっぷりとクリームとジャムを乗せてひと口食べると、思わず「ふわっ」とした声を漏らした。
「なんて優しい味なの!幸せになれるお菓子ね。」
「シェフに感謝ですね。彼は甘いものづくりの天才です。」
リリィもまた、スコーンを口に運びながら、シェフの腕前に感心していた。サクッとした生地の中からほんのり甘みが広がり、ジャムの酸味とクリームの濃厚さが口の中で調和する。この静かで温かな時間が、リリィにとっても癒しとなっていた。
ソラは二人の足元でお行儀よく座っていたが、王女がそっとスコーンの欠片を差し出すと、ふわりと尻尾を揺らしながらぱくりと食べた。その姿に王女は目を細める。
「ソラも幸せそうね。」
「ソラは食べ物には目がないんです。」
リリィは笑いながら、ソラの頭を撫でた。
その穏やかなひとときに、王女はぽつりと言った。「リリィとソラと一緒に過ごすと、なんだかいつも特別な気分になれるの。」
「そう言っていただけて嬉しいです。でも、王女様がいてくださるから、私もここで穏やかに過ごせているんですよ。」
二人はお互いに微笑み合い、紅茶のカップを手に取った。その柔らかな空気に包まれたひとときは、王宮という大きな舞台で繰り広げられる波乱の予感を、一瞬だけ忘れさせてくれるものだった。
「ねえリリィ。あなたはここにずっといてくれるの?」
遊び疲れた王女が、リリィの膝に頭を乗せながらぽつりと聞いた。
リリィは少し驚いたが、柔らかい声で答えた。「王女様のそばにいられる限り、私はここにいますよ。」
その言葉に王女はほっとしたように微笑み、目を閉じた。ソラがその様子を見守るように、リリィの足元で静かに横たわる。
カイルからの密文書で、動き出すことを知った。




