眠れない夜に
どう話をしようかと悩んで戻ってみれば、彼女は眠っていた。安心しきったような様子にライオットは苦笑した。
「風邪をひく」
そう声をかければなんだか難しい顔で毛布の中に潜っていった。
ライオットはベッドに入る気はなかった。寝る気もない。部屋の外は静かなものでなにもなさそうではある。だが用心はいる。
王太子本人が何かする気はなくとも、周囲が許さないこともある。そこをきちんと止めたとしても王太子の名誉に傷をつけたいと考えるものもいる。
暗殺まで考えられることはないだろうが、何もないとも言えない。
ライオットは部屋の隅に置いておいた剣を手に取る。聖女たちにしれっと混じっていたシディが届けてくれた。いらないといいんですけど、と微妙な顔で。
この剣はレイドに預けていたものだ。預けたというよりぶんどられたという気もしているが。少し鞘から抜くと変わりない輝きがあった。手入れもされていたらしい。
ライオットはもう騎士には戻らないと言っていたにも関わらず、残し、手入れもしていた。
レイドもそれなりには責任を感じていたのかもしれない。聞いてもはぐらかしそうだから聞かないが。
ベッドのそばに椅子を置きそこに座る。
ベッドの上をみれば彼女はすやすやと眠っていた。穏やかで、とても王太子に向けて決闘を申し込んだとは思えない。
「本当に君には振り回される」
最初からよくわからなくて、今もよくわからないままだ。
わかっていることといえば、ライオットが不甲斐ないから彼女が決闘することになったということ。
あの場で、きちんと抗議していれば少しは違っただろう。騎士であることだけが優れたことではないと。
言えなかったのは、やはりどこか気にしていたところがあるからだろう。
誰かが望むようにふるまうべきではないかと。
誰かを傷つけるだけの才しかないと認めるべきではないかと。
そんなことを迷うから付け込まれる。
いい年してと呆れられるようなもの。
今後同じようなことがあればさすがに呆れられそうである。
「次はちゃんとするよ」
誰に言われても揺らがないように。この手を好きだと言ってくれた思いに報いるように。
君を守れる盾になりたいというのはきっと重すぎるだろう。ライオットはため息をつく。
彼女なら、隣で歩いてるくらいがちょうどいいと言いそうだ。倒れそうなときに助けられるくらいの距離。そして、嬉しいときに良かったねと笑えるような。
その心地よさは手放せるものではない。
とっとと片付けて、それでも文句を言うようなら、国を出ればいいだろう。言葉を尽くしてもわかり合えないなら、近くにいないほうがいい。
幸い聖女も移転先を探しているのだから便乗しておけば困ることはない。聖女からは他力本願と非難されそうだが。




