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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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サンドイッチはおやつに入りますか?

「お姉ちゃんどうしたの」


「ためいきばっかり、おこられちゃった?」


「めっしてあげるよ」


 これを言ったのは現王様の孫である王太子殿下のお子さんとアザール閣下のお子さんだ。心配そうな表情ではあるが、君らのめっはお父さん方には効くのかね? と思わず確認したくなる。言ったら最後な気がするので言わないが。

 ここは子供部屋と言われている部屋。広さは大広間って感じである。そこにおもちゃなどが置かれ、子供サイズのテーブルとイスもセットされていた。

 子供部屋にお菓子をお届け、と思ったら、3~16才まで揃ってた。子供部屋に出入りしていい年齢のぎりが16歳。成人まえですし、としれっとした顔で言われる。


 そして、大人目前ゾーンと子供ゾーンに分かれてお茶会となった。準備の間は座っててくださいねと言われ、出ていくタイミングもなく、大人しくちんまりと座っている。


 一番ちっちゃい子はアザール閣下の長男。3才。かわいい。もちろん一人でいるわけでなく、乳母がついてる。

 なお、陛下の一番小さいお子さん8歳。

 自分の子と孫が数歳くらいしか違わないってどうなんだろ……。いや、他所のご家庭事情だけどさ。王様、王太子争奪戦のときに後ろ盾が弱かったので政略結婚的に奥さんもらいまくった結果、国内外に女好きとみなされさらに奥さんが増量、結果、子だくさんになったという話である。結婚したうちの半分以上は利害関係の一致の白い結婚で後に離縁して他の方とお幸せになった方も結構いる。

 それにしたって、ではあるが。


 そもそも王様業、争奪戦するほどなのかと思わなくもない。最終的にうなずき係。でも、やりようはないわけでもないかと思い直す。

 この王城、王様の所有物で中で働いている人の人事も握っている。軍については王家直轄の近衛兵は他の指揮権からは外されていたりするらしい。だからこっそり事を運ぼうとすると議会の承認がいらない近衛を動かしたりするそうな。って話を弟子がしてた。うちの弟子、優秀過ぎないか。


 なお、私に営業の権利をくれたのも弟子の押し付けも正規議会での承認を経ていたりする。どこでどんな取引があったのかは知らない。

 もう一個の権利、いつくれるんだろ。催促しとこ。


 ……それにしても、シェフはおいしい匂いがした。今日の夜は、おいしいミネストローネか……。いいなぁ。頼んだら、味見させてくれるかな。まかないとねだっていいかな。

 それで、送ってもらっても?


 それから……。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 心配そうに見られてしまった。今度は、もう少し年上のアデラ王女だ。話せばわかってくれる活発な王女様は今日は下の兄弟の手前大人っぽく振舞っている。ちらりと確認すれば上の年の他の王女様たちがチラチラと見ていた。

 先兵として送られたか。


「ちょっと色々あって……、まあ、そのうちに落ち着くので」


「でも、顔赤いから心配。ご病気?」


「違うの……」


 こう、別のことに意識そらしてないと、なんかあふれてくる。

 人前では絶対にダメななんかが出て来ちゃう。というのにすぐに引き戻される。


 たとえば、手を引かれた力の強さとか、腕の中がほんと落ち着かないけど、なんか心地よかったとかそういうの。

 それから。


「あれは反則」


 思わず言葉が漏れた。

 今ならぷしゅーっと湯気出せる気がする。

 甘いってもんじゃないぞって言う感じの声が、まだ残っている。君がとか言わず名前を呼ばれてあんなこと言われて! 冷静でいれるの!? 挙動不審にもなりますわよ、あなた。そうお思いでしょ!? と誰かに問うような混乱が。

 前々から薄っすら気が付いていたけど、あの声好きすぎる。声フェチになったつもりはないけど、なんかくるものがある。さえないおっさんとか自称しながらあんな必殺技隠してるとかどうなの!?


「はんそく?」


「なんでもありません。

 で、お菓子は行きわたってます?」


 冷静さ、冷静さよと念じながら問う。

 お子様たちははーいと機嫌よく返事をしてくれる。良きかな良きかな。癒される。うん。陰謀とかない。いいところだ。ここは。


 そこからは和気あいあいとお茶会が開始となった。

 私は端っこでお茶をいただいている。ほかの席に着かないかとお誘いされたが、遠慮した。話題がないし、ついていけない。最新の流行とか引用先の古典とかの知識を今以上にいれとかないと顧客相手の会話に困るかもとやることリストに入れておく。こっちの世界にも春は揚げ物といって通じるような言い回しがある。そういう共通認識がないのは結構しんどい。


 それにしても本職メイドさんの入れたお茶は格別だ。茶葉も高級だろうけど、自分がいれるよりやっぱりおいしい。ぼんやりしている間に持ってきた菓子折りは食いつくされた。若い子の食欲ってすごいわぁと思うほどに。

 追加の食糧要求もすごいなと。

 で、出てくる。少々シェフ甘すぎやしないか。これだから、やめるのにごねられるんじゃないかしら。

 子供たちに配られたのはサンドイッチだった。簡単にジャムを塗ったものと野菜と肉を入れられたものだが、食パンで作られている。前に話してたの覚えてたんだろうか。それにフライドポテトを添えてあるのが食欲って、というやつである。


 そう思っていたら、私のところにもなにか来た。


「シェフから特別に、だそうですよ」


 サンドイッチの同じものを一口で食べられるようなサイズにしてある。さすがにポテトはついてないが、小さい焼き菓子が二つほど置いてあった。ちょいコゲなので、あまりものかなんかかもしれない。

 それだけでなく、皿の下にメモが挟まれていた。


 さっきはごめん。

 メモに書かれた走り書きの言葉に、全部思い出した。


「……大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないので、申し訳ないけど、見ないふりしてください。

 ほんともうあの人は……」


 何に対する謝罪なのか。これは嫌じゃなかったですとか追加要求とかするやつ?

 ……やっぱり、家まで送らせるべき?

 責任をとれよとごろつきのようにごねるやつ?


 真意どこ!?


「ねえ、お姉さま、わたしたちとちょーっと遊びません?」


 黙って懊悩したいたら、お姫様たちに囲まれていた。

 そして、いつの間にお姉さまになった。


「え、なにをどう遊ぶと?」


「前々からその美しい黒髪を触ってみたかったんですの。

 結わせてくれないかしらっ!」


「わたくし、爪の整え方をお聞きしたいの。いつもつやつやでお綺麗なんですもの」


「ずるいわ。あたし、肌のお手入れ聞きたい。ここだけのお話ですけど、肌荒れが」


「わたし、一杯食べてもお肉がつかない方法を知りたいわ」


 圧に負けて、日本式美容法の講釈することになった。故郷を出る前の古い話で、こちらの環境とか人に合うかはわかりませんよと前置きしたけど、どこまで聞いていたんだか。

 そして、なぜか、同室にいたメイドさんたちも熱心に聞いて、メモしてた。


 なお、男の子たちは食べ物がなくなるとそれとなく解散した。

 それにあわせて私もそれ聞きたいというメイドさんの断末魔も声も聞いた気はする。あとで教えるからと熱い友情もあった気がする。そこまですごい話でもないと思うし、聖女様の方が詳しいと思う。なんせ元女子大生。きっと、違う。

 ということで、聖女様のもち肌の秘密も聞いてみたらどうでしょうと伝えておいた。


 それとは別に太らないのはカロリーコントロールと運動ですと無情な通告もしておいた。怪しげな薬で痩せられるなら困らない。

 でも、見てる限り、極端に痩せても太ってもいないんだよな。ここの王族。ある程度幅はあるものの不健康そうまではいってない。


「できましたわ」


 そんな話をしている間、背後で髪をいじられていた。

 思いつくままにあれこれ弄ばれ、最終的にはよくわからない編みこみをされた。どこかのプリンセスがこんな髪型してたなと思った。外せる自信はない。

 満足したお姫様方とお別れして、再度厨房へ向かう。


「おじゃまします?」


 裏口からわざわざ回ったのは、ほかの出入り口は人の出入りがそれなりにあるからだ。軽食の要求は随時あるみたいだし、そもそも対応する人数が多い。

 まだ、忙しそうというか、忙しくないときってあるんだろうか。


 荒れてもすぐにきれいに整う厨房。清掃も物の管理も行き届いて、素材別に扱う場所や扱う道具も変えている。効率が悪くても間違っても肉を切った包丁で野菜を切ったりしないように完全に場所を分ける。

 元からあったそういった工夫をより厳格にしたのがシェフらしい。

 なにも起こらないように、とても気を使っている。それは、その場にいないものにはわかりにくい。

 予防はとても難しい。起こっていないことは評価されにくく、軽く見られがちだ。


 それでも、ちゃんとするのは得難い資質で、そこに昔から好感があった。ある種の尊敬ともいえる。だからこそ、料理人である彼を軽んじられるのが我慢ならない。


 よし、決闘しよう。

 名誉を傷つけられた恋人のために決闘するのはおかしくない。古典でもある。性別の問題は棚上げだ。

 昔はすごかったじゃない。今もすごいんだってところをちゃんと……。


 ぐぐっとこぶしを握り締めていたところをシェフに発見された。呆れと不審の間くらいの表情で見られて、愛想笑いをしてしまう。


「入っていいですか?」


「あと少しで休憩にするから、そこ座ってて」


 そこ、というのはいつの間にか置かれた椅子。前はどこかから持ってきた風なのに、ずっとあることになっていた。

 私の定位置。


 いていいと言ってくれるような場所。


「わかりました。

 あ、さっきのサンドイッチごちそうさまでした。おいしかったです」


「……それはよかった」


 ものすごく歯切れ悪く言われた。なぜかと思えば、表情を見られたくないとでも言いたげに背を向けられてた。

 耳、赤いな。


 ……やっぱり、ああいうのは、刺激強すぎるから、控えたほうがいいかもしれない。色々支障をきたす。

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