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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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手土産のチーズクッキー

 シェフの休暇も終わってしまい、私の休暇は元々なく、日常に忙殺されていた。なお、最終日は契約は滞りなく終了し、鍵も部屋ももらってそれでおしまいだった。賃貸契約の書類をもって再開依頼とか色々予定が立て込んでいてね……。


 それからむりーと呟きながらも日々は過ぎ、4日後にはもうパーティーである。こちらの店を使おうかと思っていたんだけど、庭でやったほうが子供たちも気を使わなくていいだろうという話になり、急遽シェフの家を使うことになった。

 もちろん、事前に許可はとっている。

 草刈りやら剪定などを改めて庭師さんにお願いし、きれいにしてもらい、庭用のテーブルやパラソルを置いてと設置も昨日終わった。

 あとは食べるものや当日のスケジュール確認、事前準備できそうなものはもう作るとかそういう段階。

 そんな中に届いた手紙。


 4通あった。1通は、ほんとごめんなさい反省しているので、クッキーを恵んでください。という聖女様のもの。第3王子さまからも1通。こちらは定型文の謝罪と慰謝料の打診。それから、下の兄弟が、嘆くのでその子たちだけでも対応してくれないかというお願いだった。まあ、本人以外は付き合いをしてもかまわないと思っているので、時間を置いて許可しようと思う。

 それから1通は、約束していたシェフからの手紙。1行読んで、あ、これ人前で読んではいけないやつと後回しにした。


 問題があったのが、最後の1通で。

 中身を一読して、2度目も読んで。目頭を押さえた。疲れてるのかな。


 手紙の内容は、定型文謝罪。王家ご用達がいるのかってくらい、初回同じ文書だな、君らと思った。

 その次、シェフについて書いてあった。仕事辞めるというか、お城から去ることを知ったらしい。それを撤回させてほしいという話までは、まあ、わかる。説得しないけど。

 ただ、ちょっと、書き方が微妙というか気になることろがあって。


「ちょっと決闘の仕方教えてほしいんだけど誰か知ってる?」


「え、誰とするんてすか?」


「予定ははないけど、一応」


 料理人はやめてもいいからという言い方が引っかかるというか。

 ニュアンスが、そんな仕事的に読めるというか。気にし過ぎかな?


「それ、アズール閣下のものですよね?」


「わかるの?」


「手紙を蝋印がそうなので」


「なるほど」


 公文書の証みたいなものかな。


「なにが書いてあったんです?」


「説得してくれって。ライオットさん、お城やめるつもりなんだけど、簡単にはやめさせてくれないみたい」


「説得するんですか?」


「本人の考えを尊重します。

 というところだけど、この話ってしたっけ?」


 弟子たちはあまり驚いてないようだった。

 むしろ予想してた、みたいな感じ。どこかに兆候でもあっただろうか? 私は聞くまで全く分からなかったんだけど。


「聞いてませんが、なんとなく、そんな感じしました。こんな風に呼ばれるの嫌だ、みたいな雰囲気はしてましたし」


 あ、なるほど。そこは私も感じたから、弟子たちも察したところではあるらしい。


「でも、簡単にやめられないとは思いますよ」


「後継がいても?」


「そういう問題ではないところで」


 弟子が言うには、王宮の勢力図が変わったことが原因と思われるらしい。

 今回の件で王太子殿下の問題ある親族が一掃され、今まで緩やかな敵対関係だった第二王子殿下と正式に協力関係になった。

 これで他の勢力が王太子を立てることは無理だろうし、数年後には戴冠式になる見込みであろうと。

 そこで、シェフを呼び戻すつもりだったのではないかと。


 なぜ、今になって呼び戻す? と思ったら、シェフの怪我の原因がその親族にあるらしいという噂があったらしい。アザール閣下が襲われたのを一人で撃退した結果の怪我、という噂。真実に近いのではないかと言われているが、本人は不注意の怪我と言っているので今までそういう話になっている。

 その原因の親族がいなくなったら名誉を回復させて、元居た場所に戻したいのではないかと。


「なんか、すっごい、嫌そうな顔するの想像つくんだけど」


「ですね……。アザール閣下に、はぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ、とか言いそうです」


「……え?

 シェフ、そんなこと言う人じゃなくない?」


 なんかしまったって顔された。


「過去、言い合いしているのを見たことがあるんですよね……。衝撃的でした。うるせぇ、黙れ、ですよ」


「……ほんと?」


「ほんとです。王太子殿下に喧嘩売ったとかいう話も聞いたことが……」


「……信じられないな」


 私の知ってるシェフ、そういう感じない。


「付き合いが長いからじゃないですか。ほら、子供のころから知っている人だと対応変わったりするじゃないですか」


「わからなくもないけど……」


「あと師匠の前だと大人しいと思いますよ。

 好きな人の前でもそういう態度普通しません」


「うーん……。

 まあ、一理はある」


「とにかく、戻したい、となれば、やめられては困るわけですよ。説得してくれとも言うでしょう」


「それなら、説得しませんと答えて終わりなんだけど」


 ただ、憶測と噂からの話である。裏取りたいな。詳しい人……シディ君じゃ心もとないし? お城の知り合いはほとんどいない。王女様がたとは顔見知りだが、兄弟の話を聞くわけにもいかない。

 誰か。


 ……あ。いた。


「明日、3時間くらい抜ける。

 今日クッキー焼いておくから、種類リストちょうだい」


「ちゃんと戻ってきてくださいよ」


「大丈夫。

 あ、それから決闘のやり方を」


「ニーロが詳しいんで聞いてください」


「え」


 意外だ。




 個人的に貴族の邸宅に訪れるというのは、初めてだった。仕事上の付き合いの納品というのはやっていたので入ったことがないというわけでもないけど。


「誰かについてきてもらえばよかった……」


 一人で乗り込むのちょっと不安。


 非売品チーズクッキーと可愛い箱詰めクッキーを持参してやってきたのはレイド氏のご自宅である。昨日のうちに、例のクッキー焼いたから届けたいけど都合の良いお時間ありますか? と連絡しておいたのだ。その日のうちに返信が届き、今日の訪問となった。

 というか、反応がいいのではと予想したけど、予想以上の速度で返事が返ってきてびびったのはある。


「やあ、よく来てくれたね」


 レイド氏、ご機嫌にお迎えしてくれた。脇にいる執事っぽい人が困った顔してる。そして、その後ろには奥さんとお子様たちがいた。

 さらにメイドさんたちも数人と。


 ものすっごい、手厚くお迎えされてしまった。


「お邪魔します。

 急な話で申し訳ありません。

 これがお約束のもので。こちらはご家族で召し上がっていただければ」


 早口にまくしたててしまった。慣れぬ。


「ありがとう。

 うちの料理人にも焼かせてみたんだけど、やっぱり違ってね。良ければ味見していってよ」


 手土産は執事の人に渡した。

 それから奥さんとお子さんを軽く紹介してもらいつつ、応接室に移動。奥さんとは面識があった。なんどか王家のお使いで来ていたし、お子さん連れでお店に来たこともある。

 応接室ではお茶とお菓子を振舞われ、感想と改善点を要求されるという胃が痛いことをこなした。いや、料理人さん、ちゃんとしてるよ。専業じゃないのに、ちゃんとしてるって。とフォローしつつ、使っているチーズの種類について、ヒントを出しておいた。そのものズバリ言うわけにはいかないのは察してくれ……。


 ほどほどのところで、奥さんとお子さんは部屋を出ていった。そろそろ家庭教師がくるという話だったが気を使われたんだろう。


「……で、なにを聞きに来たんだい?」


 レイド氏は今までの良きパパなふるまいから雰囲気が変わっていた。


「2つ、場合により3つ、お尋ねしたいんです」


「まあ、2つは聞こう。手土産分ね」


「もっと持って来ればよかったですね。

 あとアドバイス分足してください」


「わかった。それで、何が聞きたいんだい?」


「ライオットさんが城を去ると何で困るんですか?」


「あー、それ。

 身近にいないとわからない話だ。

 アズール閣下にライオットが付いたのは10歳から。そこから18になるまでほぼ一緒。単独行動することはあるけど、認識的にはってことね。

 僕がついたのは、13。そのころには、信頼関係が出来上がっていて入り込む隙なんて無いんじゃないかって思ってたね」


「……今、そんな感じないですけど」


「ライオットは、そうだろうね。

 閣下は違う。彼の右腕という存在は10年空きっぱなし。優秀な部下がいても、誰もそこにいることはできなかった。ちなみに僕は左腕と言われてるけど、いなくなったら別の誰かがそう名乗ると思うよ」


「なんで、そんな感じに?」


「一番しんどい時に側にいたからじゃないか?

 僕がつく前のこの3年の間に、アズール閣下の母親と祖父が亡くなり、後ろ盾が弱くなったんだ。そして、優秀すぎた閣下は王太子の親族に狙われるようになった。その時に絶対に裏切らないものとして信用していくのは別におかしな話でもない」


 想定より重いの出てきた。本人全く言わないどころか気配すらない話なんだけど……。


「よく、ケガをしたとは言え離れることを許しましたね……」


「ライオットがそりゃあもうそこまで言うかという感じに拒絶したからね。あれからすごく落ち込んでたなぁ。ざまぁみろと思ったけど」


「想像がつかないんですけど……」


 10年前なにがあった!? というよりこの10年で丸くなった、でいいのか?


「それでいいと思うよ。

 あの頃のライオットより、今のほうがずっといい。君に会ってからならより楽しそうだ」


「そ、それならよかったですけど……」


「正直意外だったけどね。

 さて、10年たってようやく、あの時の借りを返したんだ。じゃあ、元のようにと思ったらしいね。

 ところが断られて裏切られたような気分らしい」


「ええと、どこをどう見ても騎士に未練ありそうにないんですけど……」


「僕もそう思う。まあ、剣は嫌いじゃないみたいで時々手合わせや訓練に付き合ってるみたいだけど。それが良くなかったかも、とは思う」


「今でも弟子たちが勝てないと言ってましたし、戻れなくもないでしょうけど」


「戻りたくはないんじゃないかな。

 それに、閣下はお忘れなんだ」


「なんです?」


「昔からね、ライオットは料理するのが好きだった。工夫しておいしいと言ってもらいたいと言ってたのにな」


 誰にとは言わないが、きっと、アザール閣下になんだろう。


「あのころはわからなかったけどさ、おいしいものは幸せがあるよね。

 それに、安全に何かを食べられるということは、誰のおかげか、とかね」


 ふと弟子の話を思い出した。

 この数年、毒をいれたことによって処分されるような事件は起きてないと。わざわざ言われるということは以前はあったのだ。


「ま、そういうのは本人もわかってなかったりするよ。

 じゃあ、次は?」


「決闘の作法」


「はい?」


「弟子にも聞いたんですけど、ダメです、絶対やるから駄目ですって、お断りされました」


「誰と決闘するんだい?」


「今のところ予定はありませんが、準備として」


「女性から決闘を申し込まれるってことは前例が……あったな。上の世代で流行したらしい」


「なにがあったんです?」


「一番有名なのは、婚約決闘」


「婚約で決闘」


「女騎士になりたいご令嬢と結婚して家にいて欲しい婚約者の間の決闘。

 お前が好きだから結婚したいんだという止めで終わった。そ、そんなにわたくしのことが好きならしかたありませんわねっだそうだ。なにを見せられたのかとうちの叔父も言っていた」


「その面白い話きいたことないんですけど」


「親世代だから、もう40年近い前の話だからね」


 レイド氏は作法を教えてくれた。国境で聞いた話とはそれほど違いはない。

 意外なことに決闘の種目は決められていなかった。珍しいところでは計算勝負となったこともあるとか。命を失うまでのことは許されておらず、どちらかが死亡した場合、決闘は無効になる。

 今は流行らないと年に数回話を聞く程度だそうである。

 最近は名誉を傷つけられたとかだと弁護士のような人たちに相談したりするのが一般的だとか。


 目上の人相手に不満をぶつけるには今も有効とレイド氏が言っていたので、誰に挑むことになるかは察してそうだった。

 ないに越したことはないけども、これまでの話を聞いていると地雷を踏みぬきそうなんだよね……。


「最後の一つは?」


「保留しておきます。

 大体知りたいことはわかりました。あ、あとこれは知ってたらでいいんですけど」


「ん?」


「アズール閣下のおうちも別居とかなってないですよね? というか、王族の皆さんもしやうちに出入りできないと知ってショックだったりしてます?」


「地味にダメージを食らって、聖女様にどうにかなりませんかと聞いて、私も出禁と嘆き合ってるのは見かけたかな……」


「仕方ありませんね……。

 定期的にお菓子を贈ることにします。

 あ、アズール閣下はダメですからね。渡さないでくださいね。判明したら、激辛クッキー入りを送り付けますよ」


「わかってるよ。

 大事なものを傷つけられた気持ちは理解してる」


「それは良かったです。

 では、今度はご来店をお待ちしております」


「ああ、みんなで寄らせてもらうよ」


 再度、奥様&お子様たちにも見送られて邸宅を出た。

 それにしてもこの家も豪華だった。レイド氏もそれなりのご実家か、本人も爵位持ちっぽい。シェフの実家もこのレベルなんだろうか……。行ける気がしない。私は小さい家で十分だ。

 さて、予定より早く終わったので、ちょっと寄り道のつもりでシアさんの元雇い主アンネマリーさんのところに足を向ける。


 そういえば、報告しといたほうがいいようなことがあるようなという話をシアさんから聞いた。

 なんでも新しい同居人が増えていて、手伝ってくれているらしい。その方にもご挨拶しておかないといけない。ローラさんは素敵な方ですよと言ってはいたけど。


 しかし、手土産もないなと家の前について気がついた。やっぱり戻ろうと思ったところで。


「あら、あなた、シオリさん?」


 振り返った先にいた貴婦人は、どこかで見たことのあるような気がした。




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