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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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同じではないけれど似たもの

「この手、か」


 少し複雑そうな顔をされてしまった。

 ほんと、柄にもないこと言ったせいで、なんだかとても暑い。


「やっぱり、私たちにはちょっと難しいみたいですね……」


「適性というものがないと思う」


「ですね……」


 甘々ななんかというのは綿あめのように儚い。ふんわりしているようで、時間が経つと小さくなってしまう。

 ああ、そういえば、聖女様が食べたいとかわがまま言ってたな……。原理が不明なのでお断りしたけど。遠心力でなんか頑張っているような気はするけど、縁日以外で機械を見ることもなかったし。

 飴で鳥の巣みたいなのは頑張れば作れるんだけど、あれも儚い。


「……嬉しくなかったわけではないからな」


「それは良かったです。その手でおいしいごはん、貢いでください」


「それならいくらでも」


 もれなく、カロリーもセットメニューだったりしそうだが、そこは運動でカバーしたい。おお、わが友筋肉よ、カロリーを消費するのだ。

 ……筋トレふやそ。腹筋が割れるなんて夢のまた夢でも。聖女様の体質が羨ましくなってくる。あれはあれで大変だけどね。


「次はどこ行きますか? エプロン買いますか?」


「宝飾店。

 装飾品の一つも贈ってないなんてとシディにすら呆れられた」


「私、仕事中は指輪、腕輪とか、耳飾りもダメですよ。あ、耳に穴開けたりもしませんからね」


「そのくらいわかる。気に入ったものがあれば休みの日に使えばいいし、資産としても役に立つ」


「そんな高価なものいらないですからね。

 それなら銅鍋のいい奴が欲しいです。ジャムを煮る専用にしたい」


 苦笑しながらそれは断られた。ちっ。あれは意外と高いのだ。


 盛り合わせも食べきり、店を出た。外に出たらやっぱり行列があって、老舗の貫禄を感じる。


「うちも百年続くお店にしたいものです」


 チェーン店で失敗とかしたくないので、弟子にのれん分け制度で覇権をとってやる。小娘だってやんだぞとお礼参りしないと。

 でもまあ、文化的侵略はほどほどにしないと従姉に怒られる。地元の味も大事にしないとな。そのあたりは、今後の課題。


「悪い顔してる」


「ふふふ。お店やってると、組合とかとも色々あるんです。次は道連れです」


「……実務だけしていたい」


「ダメです。ざっくりとでもいいので、店舗経営については覚えてもらいます」


「早まったかな」


 ぼやかれてしまった。


「大丈夫、なんとかなります」


 世知辛いもので、店を持つと事務仕事が増えるものである。


 シェフが連れて行ってくれたお店は、ほどほどにお高そうだった。見るからに高級店ではないので服装も気にせず入れそうだ。

 そういえば、宝飾品店も初めて入った。ラウンジみたいなところに店員さんがいて、ショーケースがある。異世界でもあまり変わらないところだななんて思ったのが間違いだった。


「……値段がついてませんよ?」


 こそこそと質問してしまった。

 ショーケースに入っているのは指輪やネックレス、耳飾りなど。どれもなにか石がついてる。つまり、高そう。なのに値段の手掛かりがなにもない。


「予算を言って出してもらうか、まあ、買うときに知るかどちらかだな。好みのものがあれば」


「予算で出してもらってから考えます」


 うっかり選んだものがすごいものだったら怖すぎる。ほどほどのそこそこのと言っては失礼だが、つけていても安心できるものがいい。


 シェフは店員さんを呼んで話をし、私たちは席に案内された。そして、装飾品をいくつか置いてある箱がやってきた。

 ビロードのような布の上には美しい輝きがあるのだけど。


「……あの、なんで、キラキラしたものばかりなんですか」


「その格好だったら、そうなるだろうな」


 レースとフリルが増量している今のワンピースである今は、そう見えるかも。申し訳ないが、店員さんにもののチェンジをお願いした。

 次は、大人しそうな……。


「なんで、こんなに大きな石つけてくるんです? 引っかかって取れそうで怖いです」


 そして、自己主張が強い。ドレスを着るときにはいいかもしれないが、日常品ではなさそう。


「そうは言われてもな……。最近の流行りらしい」


「石なしの鎖だけネックレスを要求します」


 これはさすがに店員さんに苦笑されてしまった……。嫌な客で済まぬ……。

 しかし、ちゃんと数種類の素材と細さの違うものがいくつも用意されるのはプロだ。これだけだとやっぱり寂しいかな。


「あの、飾りだけ追加でつけられるようなものはないんですか? ペンダントトップっていうんでしたっけ?」


 そう言ったとたん、店員さんの目がかっと見開かれた。


「お客様、お目が高い。最近は流行りじゃないと奥に追いやられていますが、その時々に合わせて選ぶ楽しみがあります。

 すぐにご用意します」


 迅速だった。びっくりするくらい、早く何種類も用意されてくる。

 なんでも最近は石が大きいのが流行りで、そればかり求められて困っていたそうだ。あまり質の良くないものも出回っていて、と嘆いていた。

 用意されたものからいくつか選んで、その中のどれがいいかシェフに選んでもらうつもりが、全部購入になった。

 いままで何もしていなかったからというけど……。


 お会計などなどは奥の方で、ということで私が一人残された。ちょうどいいので店員さんにオーダーメードを頼む。お揃いでもないけど、同じ感じのネックレスをつけててもいいじゃないっ! という趣旨を説明したら、滾りますねと返された。この店員さんとは仲良くなれそうな気がする。

 楽しい密談を終えるころには、シェフは戻ってきた。不審そうにみられたけれど、そこはもう店員と客の顔をしておく。


「ぜひ、つけて差し上げてください」


 シェフに何か言われる前に店員さんはずいっと購入品を差し出す。え、どうつけるの? と困惑しきりのシェフが可愛かった。


 だけど、後ろに回られて、ネックレスが首にかかるときには悲鳴が出そうになった。

 手が肌に触れそうで触れないその感じとか、気配が近すぎるとか、難しいとか呟いている声が近すぎるとかっ!


 お、恐ろしい拷問があった。


 ぷるぷる震えている私に店員さんがサムズアップしてきた。お、おう。いい仕事してくれた、と思いたい。


 苦闘数分が、ひっじょうに長く感じた。


「お似合いですよ」


 ニコニコ笑っている店員さん。それも君のセリフではない。

 ちらりとシェフを見れば、ついっと視線をそらされた。


「よく似合っている」


 照れてる。なぜ、シェフが。店員さんが、ペンダントと指さしていた。

 んんっ!?

 気がつかれた。

 よく似た色の石が入ったものを選んだんだってことにっ!

 そ、そりゃあ自分の色が入ったものをつけているところを褒めるのは、ちょっと照れるでしょうよっ!


 お買い物を終え、店を出れば夕方に近くなっていた。ちょっぴりどころでなく疲労感を覚える。それでもまだ帰りたい感じではない。

 ただ、王都でも日が暮れても開いてる店って少ない。飲食店か日常に必要な雑貨店くらいだ。

 このぐらいの時間から店じまいを始めるところは多い。


「……まだ、遊び足りないですよ」


「予定が狂ったからな……」


「本当はこれから何する予定だったんですか?」


「本屋に行こうかと考えていたよ」


 意外なチョイスだ。


「面白い本がよくあるんだ。

 もう閉まってだろうし、日が落ちてからは治安が悪いほうになるから今度な」


「絶対ですよ」


 エプロンもまだ買ってないし。

 次はいつ頃にという話をしながら、店の方に戻る。まだ誰かいるかもなと店内を覗いても誰もいなかった。

 今日は早いなと思ったけど、そんな日もあるだろう。


「少し休んでいきます?」


「今日はやめておく」


「わかりました」


 大人しく引き下がっておこう。朝からいろいろありすぎて、お疲れだろうし。


「また明日ですね。契約担当連れていきますのでよろしくお願いします」


「わかったよ。また明日」


 軽く手を振って別れられるはずだった。いままでもそうだったから。

 ところが……。


「……ちょっと、お邪魔してもいいかな」


「すみません」


 私の右手ががっつり服掴んじゃってましてね……。

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