甘いデザートより甘い
「ああ、だから、弟子に届けさせるじゃダメで……」
そこまで言って何かに気がついたように、首を傾げた。
「会いたかったって本当ですか!?」
「そう言っている。今から思えば、という話で、だから別にプリンが好きなわけではない」
へえ、そうだったんですねと嬉し気にいわれると少しも落ち着けなかった。
機嫌よく彼女はデザートの皿はつつっと手元に戻していた。分ける気はあまりないらしい。
「あの時、一か月くらい会えませんでしたものね」
「それまで半月に一回くらいは顔を合わせていたからな」
月一以上の聖女からの招集があったから、必然的に顔を合わせることになった。最初の頃はすぐに帰っていった。しかし、いつ頃からか少し残って話をしたり、お土産と店に出さないような菓子を持ってきてくれるようになった。
いつしか好みのお茶を覚えてしまった。人の好きなものを覚えることはあまりなかったというのに。
あのころから、無自覚な好意があったのだろう。
「んー、もうちょっと会っていたような気がしますね。お出かけ込みだと月3~4くらいじゃないですか?」
「そんなに?」
「お出かけ、大体月2くらいしてましたよ。お休みが合わないときはかなり間が開きましたけど、数日置きのこともありましたし。思い返しても、なんか会ってないなぁっていつも思ってた気がしますけど」
彼女は苦いんですよねと言いながらも珈琲でケーキの甘さを中和する。甘いと呟きながらもおいしそうである。つい、同じものを食べたいと思ってしまうほどに。
「また、しばらく会えないんですよね……。もうちょっと労働環境というものを見直していただきたい。あと早く退職してほしい」
「そこは、半年くらいかかると思う」
「え」
「引継ぎに時間がかかる。それに、仮店舗営業後、店の改装などもそのくらいかかるだろう」
「お店作るのから付き合ってくださいよ。開店準備、辛かったんです」
「それは聞いた」
「そうですね。いろいろご意見いただきました。その節はお世話になりました。今度は一緒に苦労しましょう」
「検討しておく」
「絶対ですよ。
休みの日は私のために使ってください」
「わかった、わかった」
「じゃあ、コンセプトは」
「今日は、そういう日じゃないだろ」
「……おっと。油断するとダメですね。
いちゃラブデートが遠い」
「……遠くていい」
「えぇ、甘々ななんかくださいよ。これくらい」
そういってタルトを指した。震えるほどに甘いと彼女が評したようなデザートほどに甘いもの。
そもそもライオットは甘い言葉などを意図的に口にしたこともない。覚えている数少ない誉め言葉も彼女には似合わない気がした。
「……とてもかわいい」
「棒読みですね……」
「慣れていない」
「知ってます。無茶振りでした」
「君なら何て言うんだ?」
「うーん」
彼女は小さく唸って、それから。
「あなたの手が好きです。色んなものを作り出すその手が、愛しい」