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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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待ち合わせと犬

 ……やっちまったと頭を抱えた昨夜。寝れないと思ってたのに健やかにお休みしました。おそらく、オーバーヒートした結果。

 翌朝、めざめすっきり。

 すっきりしすぎて、昨日のことが鮮明過ぎる。


 帰ってくださいとおいだしたくせに。

 寂しいだの、もっといて欲しいだの、いやでも、理性が限界でねと、いろいろぐるぐるの結果が、欲望が理性の隙をかいくぐってやりやがりましたよ。

 という感じで。


 幸いというべきか、理性が仕事したのか、頬にキス程度で済んだのは、良かった。ほんとによかった? わからない。同意を取らずにするというのは、セクハラでは? そうじゃなくてもダメだったのではっ!? と懊悩していても、待ち合わせ時間はやってくる。


 すーはーすーはー。

 落ち着こう。落ち着けないけど、まずは、準備だ。


 服は決めていたのですんなりと着替えまではできる。

 髪型はせっかく教えてもらったが、ダメそうな気がしたので大人しくみつあみしておく。

 私は、髪を他の人に弄られたからと嫉妬されるとか想像してなかった。カレンはそのあたり予想ついていたから、髪をほどくといったんだろう。あと、好きな人と同じ色のものを持つとか発想がない。

 あの時、知らないとよと笑ったのは面白がったんだろう。あるいは、ちょっと痛い目みたら? みたいな意地悪さも感じなくもない。

 ……まあ、あとで個人的に礼はしておこう。いいことはあった。


 待ち合わせ時間に間に合うようには家を出ることはできた。待ち合わせ場所は噴水広場前。この王都での定番の場所だ。

 噴水というのは、水が豊富であるという象徴らしい。確かに王都は上下水道そろってるし、水道利用料もそんなに高くない。

 いくつかある噴水の中で、大噴水と呼ばれるものがあるのが噴水広場である。

 広場にはよく市場が開かれている。私はあまりここら辺まで買い物にはでないが、面白いものが見つかるらしい。

 という話もシェフから聞いたのだった。


 出かけては、あそこはどういう由来がとか、昔はどうだったのかとか、聞いていた。

 王都歴の短い私でも地理を把握して、多少なりともここに住んでいる人と話を合わせられるのはそのおかげもある。

 忙しい中よく付き合ってくれたものである。


 さて、時間より早く付いた。噴水の周りはベンチ状になっており、座ることができる。公園には鳩みたいな鳥がいて少し汚れたりもするから、ハンカチなどを敷いて座るのが一般的。というわけで、今日はややキレイ目な服なのでちゃんとハンカチを下に置く。


 この世界にも時計はある。どういう原理か不明な電波時計みたいなのが、広い公園などにあったりする。時計塔というものもあり、定期的に鐘を鳴らす。家にあるのはゼンマイ式の枕サイズくらいのもので、これは時計塔の鐘で時間を合わせる。

 まだ、懐中時計や腕時計に相当するもの普及していない。作れないんじゃなくて、作ったら時間に追い立てられると開発元の錬金術師たちが乗り気ではないらしい。過去の遺産としての懐中時計は現在は修理もできないので大事に保管されているから、やはり世の中に出回るのは先だろう。


 ……さて、時間がよくわからないこの世界でも一時間たってもこないというのは、あまりない。その気がなくてすっぽかされたか、トラブルがあったか、どちらかだろう。

 トラブルの方かな。昨日の今日だし、実家からなんかあったとか? 家は知られているんだし、それでもおかしくはない。


 迎えに行ってみようかな。


「あれ? シオリさん、珍しいところにいますね!」


 声をかけられた。

 誰かなと思えば、鍛冶師の少年だった。コニー少年は今も私専属の型職人である。先日もマルグリット型とクッキーの抜型を発注したところだ。

 ある意味最強の裏方。彼がいないと本気で困る。


「待ち合わせなの。ちょっと待ちぼうけ」


「シオリさんを待たせるなんて。

 じゃ、少し話していいですか? 型の件なんですが、こういうのもどうでしょ?」


 彼は自前のメモ帳にさらっと剣と盾を書く。それから兜っぽいものも。デフォルメを教えはしたけど、すっかり自分のものにしている。


「いいんじゃないかな。うちはわりと可愛い系で来たけど、今度のパーティーは男の子も呼ぶから。

 悪いけど、急いでもらってもいいかな。割り増しするから」


「あ、じゃあ、僕も参加することでどうです?」


「やだなぁ。二人の仲じゃない。もちろん呼ぶよ。招待状の発送が遅れてごめんね」


「やった。食べ放題」


「……菓子折りもつけておくね」


 食べ放題、できる気がしない。子供の食欲について聞いたら、あったらあった分だけと答えた弟子が多いことよ……。君のうちには妹しかいなかったはずだが、という弟子ですら、である。

 他にも疑問点などの話をしてコニー君と別れる。

 思ったより時間がかかったなと公園の時計を見れば30分ほど経過していた。


 あたりを見回してもシェフっぽい人はいない。

 やはり迎えに行こうかな。いや、すれ違うかも? 立ち上がるとぽすっと何かが突撃してきた。犬だった。遊んでという顔をしていた。


「ひぃっ」


 子犬ならいい。しかし、そいつは長さ一メートルを超えた犬だった!

 押し倒され、噴水にどっぽーんした。

 は? なに!? 焦って水面にあがると犬は噴水の外にいた。濡れてない。


「ルーイ、なんで走って?」


 飼い主がのんびり現れた。眼鏡の青年は、見覚えがある。


「……やあ、ルーシャン、説明してくれるかな」


「ひぃっ!」


 うちの弟子、ルーシャン。今日は親に言われて、飼い犬を散歩に連れ出していたらしい。久しぶりのルーシャンとの散歩に盛り上がった飼い犬。爆走して逃亡。そして、私に激突。哀れ私が水没。


「……私さぁ、これから、お出かけなわけよ。しってるよね?」


「はい、申し訳ございません」


「これで、どうしろっていうのよ……」


「ええととりあえず上着を……」


「自分の羽織るものがあるからいい」


 荷物のほうは犬の襲撃から逃れていたのは幸いだ。


「でも、もう昼近いですよ?」


「それ以上言ったら、賠償請求するけど?」


「すみませんでしたっ!」


 おろおろしているルーシャンとなんだかうれしそうにはっはっと言っている犬。

 なんだかおかしくなってきた。


 シェフは来ないし、犬には襲われるし、水没するし。

 時計を見ればさらに30分経過している。

 やっぱり来ない。


「いいわ。一度、帰る」


「せめて近くの服屋で代えを買わせてください」


「案内だけ頼もうかな。

 まったく、散々な日」


「ルーイ、お前も謝れ」


「ばう」


「こら、まじめに謝れ」


「ばうぅ」


 ……すまぬ、という気持ちはあるような気がしないでもない。犬と暮らしたことがないのでわからないけど。


「今度、一緒に遊びましょうか。フリスビーとか」


 ってあるんだろうか。ちょっと探してみよう。

 嬉しそうな犬にぐいぐい迫られるのを両手で押しのけて、噴水の前から離れる。


 それにしても、何があったんだろ。


 服屋で事情を話し、一式着替えを購入し、その場で着替えた。ルーシャンは噴水前に戻っている。もし、待ち合わせにきていたら困るでしょうからと。

 今日はもう来ない気がするからいいと言ったんだけど。

 噴水前に戻れば、大きな犬とルーシャンとシェフがいた。


「あ、戻ってきました。良かった」


 ほっとしたようなルーシャン。よくわからないが、嬉しそうにしっぽを振る犬。

 それからシェフは、私を見てちょっと驚いたようだった。

 必要に迫られていつもしない格好をしている。


「師匠、かわいいですね!」


「……おう」


 それな、君のセリフではないのだよ、と突っ込みたくなった。

 変わらずばうっと寄ってくる犬を引きずってルーシャンは去っていった。弟子の中では細そうで、やっぱり力あるなと見送る。


「事情は聞きました?」


「ああ、あの犬が襲ってきて噴水に落ちた」


「そうです。びっくりしました」


「すまない。遅れなければ、そんな目にあわなかっただろう」


「そうですよ。どうして遅れたんですか?」


 聞けばものすっごい気まずそうな顔をされた。


「実家が、その、別居騒動に」


「……別居?」


 想定外の単語出てきた。


 とりあえずは場所を移動することにした。

 なんだか、もう、当たり前のように手をとられると恥ずかしいが限界を超えそうになるけど、それはさておき。

 公園近くのカフェのような店に入って、話を聞く。


 朝、母に強襲されたらしい。一人だけでなく、義理の姉と姪もご一緒に。

 なんだと面食らっているうちに入り込まれ、リビングを占拠されたそうだ。いつもなら断るがなんか怖かったらしい。

 それから、事情を聞けば、シェフの父、母に見限られ、家出される、ということだった。なお、兄も同様。


「君の件が、最後の一押しをしてしまったらしい。

 今までも思っていたが、社交嘗めてるのか? とか、そういう話で大喧嘩して家出になったそうだ」


 伝聞調なのは、その時はシェフは部屋にいて聞いていなかったからだそうだ。


「……そーですかー」


 まあ、私の店のお菓子は今、社交アイテムですので、事を構えるのはありえないんだよね……。休店中だから今のところは実害はないけど、長期的には色々面倒が出てくる。だから、シェフは客としては対応してほしいとお願いしてきたわけだ。

 自分のせいで、家に不利益は出したくないと思っているのも踏みにじられたんだなと思うと……。

 もやもやするけど、口出しするところじゃないかな。


 シェフの母はご友人のところに身を寄せるそうだ。前々から面白いことがあるからおいでなさいよと誘われていたらしい。いきなり尋ねても迎えてくれるだろうけど、訪問に失礼ない時間まで待たせてほしかったようだ。

 義理の姉のほうも実家に帰るそうだ。こちらは手紙を昨夜のうちに送っており、朝一に帰ってこいと返事をもらったらしい。母が一人で訪れるのも不安だから同行とシェフへの説明をするために来たらしい。


 という対応をしていたら、気がつけば予定時間を過ぎ、慌てて出てきたそうだ。

 そりゃあ、遅れる。遅れてもよく来たものだ。


「本当に巻き込んで申し訳ない」


 そう言って頭を下げられてしまった。

 見込みが甘かったというところはあるんでしょうけどね。ここまで想定はできないだろう。さすがに別居までなるとは……。今までの蓄積に思いを馳せる。


「じゃあ、ここの支払いは任せます。というか今日はお財布出しませんよ。それで遅れた件は許します」


 一日中、そういう顔されているのも楽しくないので、罰則を設けることにした。

 ほっとしたような顔をしているが、私の物欲を舐めるでないぞ。



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